友と浮かぶ



「なんかごめんな」

「ホントこのバカは……疲れた……」


 テンション上がりすぎて昔みたいにハグ&チークキスしに行ったら、割とガチで拒絶されたからちょっと凹んだが。

 まあでも……だいぶ関係性も進展、というか回復したみたいだし、いいよな!

 嫌われてたわけじゃないってのも確認できたし! ビンタはされたが!


「で、これから真面目な話をするんだが」

「最初から真面目な話しようね」

「いや、重要度で言えばさっきからずっと真面目な話だったんだが」

「もうめんどいからさっさと続きを話して」


 なんか扱いが雑じゃないか? まあいいや。気のせいだろう。

 ここ最近の戦いについて、なんとなく感じた違和感を共有しておきたい。

 ワタシは自分の頭がそれほど良くないのを自覚している。

 なので自分だけで考えるより一緒に考えてもらった方が間違いない。


「で、真面目な話なんだが」

「真面目なら早く話そ?」


「なんか……最近の魔獣、弱くて多くないか?」


「……? ……そう?」


 個人的な体感で言うと、平均等級が1下がって数が2割増しくらいか?

 第八部隊の平均等級はトップクラスなので、雑魚が増えたところで大して対処の労力は変わらない。

 でも、報告書だとその辺ざっくりだからわかりづらいが……間違いなく雑魚の割合が増えてると思う。

 高等級の魔獣の数も増えてるけど、そこまでではない。だから、さほど問題はないものの……なんだか嫌な予感がしている。


「最近多いとは思ってたけど、確かに雑魚ばっかりだったかも……」

「それに、似た魔獣も多い。まるで兄弟みたいに。でもそれにしてはその数が多すぎる気がする」

「うーん……大量発生……群れの肥大化? ……ひょっとしてスタンピードの予兆?」

「そうだとしたら、第九にも支援を要請しておかないとな」


 いくらなんでも流石に、大陸からのスタンピードを一部隊だけで抑えるのは無理がある。

 本当のことを言えば、一人でそれを抑えられたらヒーロー的にカッコいいし最高なんだが。



 そう……今は部隊のみんなで九州の北側を守るのが精一杯。

 ワタシ一人の力で、この国全部を、いや、この世界を守れたら。


 コミックスやアニメ、特撮のヒーローみたいに。何もかも、救ってしまえたら。


 でも、残念ながらそれはまだ無理だ。

 だからワタシはそんなヒーローを目指して、強くなる。もっともっと強くなる。

 敵は強大だ。だから強くならないと。ワタシが、みんなを守らないと。誰一人も残さず。


 誰も、奪わせない。誰も、消させない。誰も、死なせない。全ての悲劇から、何もかも守ってみせる。

 取り零したりなんか二度としない。守り切れなかったなんて、言い訳だ。強ければみんな守れるのだから。

 みんなよりワタシは、ずっと強いのだから。みんなのために、誰よりも強くなければ。強く。強く。




 ...I am a hero.ワタシはヒーローだ。 So don't disappear,だからいなくならないで、 stay with me.いっしょにいてくれ。




「隊長?」

「……また隊長呼びに戻ってるぞ」

「いや、というか仕事中だし。公私混同は駄目、絶対」

「?? ワタシらここで一番偉いし、権力って公私を混同するためにあるんじゃないのか?」

「またギリギリな発言を……ノブレスオブリージュとか言うでしょうが」

「ワタシ外国語わかんない」

「嘘つけ!!」

「あと知らないけどたぶんそれ、使い方ちょっと違うと思うぞ」

「わかってんじゃん!!!」


 まあまあ、対魔獣組織は女の園なのだから。

 こうして馴れ馴れしく姦しいくらいがちょうどいいのだ。

 男もいないことはないが認識阻害のせいであんまり仲良く話せないからな。

 割と話の分かるやつも多いのだが、中々どうして壁を感じる。ワタシはフルオープンなのだが……。

 魔法少女としての知名度だけは抜群なのに、名前、もっとみんなに呼んでほしいんだけどなぁ。


 いや、ヒーロー的には正体を隠してた方がカッコいいのか……?

 一応ヒーローとしては有名になってきたんだし、それでもいいんだけど……でもなぁ……みんなにワタシのこともっと知ってほしいというかだな……。

 うーむ、悩みは尽きない。悩み多きヒーローってのはちょっとカッコよくてアリな気もするが。。


 まあいい。どのみち、やることは変わらないのだ。今日も、明日も、その次も。

 頑張ってヒーローとして活躍し、頑張ってみんなとも仲良くなる。

 そしてヒーローとしてみんなを守るんだ。


 頑張れ、ワタシ。頑張るんだ。まだまだ頑張りが足りてないぞ。




「む、魔獣……特別警報!」

「あー、えっと……大陸からの大群移動……いやちょっと本当にスタンピードじゃないこれ? 観測班なにやってんの?」

「ヒメは近くの分隊への偵察指示と第九部隊への応援要請を頼む。ワタシは現場に直行する」

「3分でやるからちょっと待って、私も一緒に行くから。一人で突っ込むなって言ってるでしょ」

「む……」

「置いてかないでよね」


「……やっぱり拗ねてるじゃないか」


「……」


 通信に入ったヒメから半ギレの目で見られたが、私たちはベストバディだからな。

 一緒じゃないと、やっぱり駄目だよな! そうだよな!


 よっし、ヒーローの出動だ!行くぞ!!






・・・






「うっわ……凄い光景……」

「まあでも、やっぱり雑魚ばっかだな」


 第二から第三等級くらいの群れ、だろうか。

 まだ第一陣だがそこそこ数が多く、軽く200は超えてそうだ。

 でも見る限り、第四、第五等級は片手で数えるほどもいない。余裕だな。


「第九部隊はまだ来れそうにないし、ワタシたちだけでこいつらは片づけるか」

「まあそうだね……でもまだ次もあるからあんまり消耗しないようにね」


「隊長隊長! 一番槍行きたいであります!」

「あ、ちょっと! わたしがいく!」

「早く行きたいな!」「自分が先に!」


 偵察に入ってくれてた分隊のみんなが自己主張を始める。

 ははは、可愛い奴らめ。しょうがないな。




──『発火Ignition』!




「よし!みんなで行くぞ!!」

「ヤー!!」

「ひゃっほー!!」

「よっしゃー!!」

「ちぇりおーっ!!」


「いやホントこの蛮族どもは……『浮遊Levitation』」


 ヒメの魔法で身体が軽くなる。まるで月面にいるみたいだな。行ったことないけど。

 ふふふ、少しだけだけどもヒメと昔みたいに仲良く話せたし。こんな満たされた気持ちで戦うのは久々だ。


 もう何も怖くないぞ!



「状況開始! ロケットスタート!! かっ飛べワタシ!!!」



「あ、隊長ずるいであります!」

「まって、まってー!!」

「結局先に行くんじゃん! 一緒にイクって言ったのに! 」

「バカ! 早いよバカ! 早漏!!」




 さあさあ魔獣諸君ごきげんよう!

 アテンションプリーズ! ハロー! そしてグッバイ!


 ファイアキック! バーンナックル! フレイムアロー! ブレイズピラー!



 焦がし尽くせ! インフェルノ!!











「バカ、はしゃぎすぎ。そんな雑に無双して、この戦いまだまだ続くんだよ」

「問題ないぞ、まだ1%も魔力使ってないからな!」

「いや魔力バカな隊長の戦い方に引っ張られてみんなが消耗するんだってば」

「私たちは大丈夫であります! まだまだやれます!」

「余裕!」「楽勝!」「てんかむてき!」

「みんなちょっと黙ろうね?」


 ヒメが怒ってるが、懲りないやつだ。いつものことだろう?

 みんなまとめて全力全開、ガンガン行こうぜ!


 さてさて、第一陣は10分とかからず若干オーバーキル気味に消し飛んだ。

 今は第二陣がやってくるまでのインターバルといったところ。

 第九部隊が来るまで、あと一時間くらいか。他の分隊は、もう少しで合流する。

 今回は1500から2000くらいの数が想定されてるから半分くらいはこちらだけで受け持つことになりそうだな。


「まあでも、ワタシたちで全部倒しても構わないだろ?」

「なに無理いってんの……大人しく戦力整ってから攻勢に出ようよ……」

「それこそ無理だな。みんなを見てみろ」

「……うーん、どうしよう。やっぱ私がおかしいのかなぁ?」


 アドレナリン全開なワタシたちを見て天を仰ぐヒメ。

 諦めた方がいいぞ。分隊が合流したらもっと血気盛んになるからな。


「もうやだこの蛮族ども……『浮遊Levitation』」


 文句を言いつつ、魔法をかけ直してくれる。

 ヒメの魔法はサポート寄りだが、直接戦ってもまあまあ強い凄い奴だ。

 まるで手品を見てるみたいに浮いたり沈んだり、物を飛ばしたり落としたりして器用に戦う。

 伊達にこの第八部隊で副隊長をやってないのだ。流石ワタシのバディ。


 先ほど、支援部隊の観測班から第二陣の情報が入った。

 そろそろ、次の奴らが視認できるはず……。




 ……?




「なんだあれは」




 徐々に見えてきた、第二陣と思われる魔獣のようなものの姿は、とても異様だった。


 とにかく、でかい。だいたい200フィート……60メートル以上はあるだろうか。

 ごつごつとしたコブのある、太くて長い、黒光りする塔のようなもの。

 ところどころに切れ目のような陰影があり、霧のような煙を纏っていて、全体がぼんやりと明滅している。


 そんな不気味な物体が、ゆっくりとこちらに迫っている。

 魔獣……? あんなものが、本当に魔獣なのか?


 取り巻きは周りに見えない。一体のみだ。

 見た目は気味悪いが、感じる魔力からはそれほど強そうに感じない。


 なのに。そのはずなのに。なぜか思ってしまった。




──もしかしたらあの化け物から、




「……! 第三陣および第四陣情報!東10キロ地点で第三分隊と間もなく交戦!」

「む……」


 迷ってる時間は無さそうだ。

 増援がダブりだした。予測してたよりもずっと早い。


「ワタシがこいつをやる。みんなはこれから来る第二分隊と分担して増援の対処、及び第三分隊の応援に行ってくれ」


「……何、ふざけたこと言ってるの?」

「そうであります!あんなやばそうなの隊長一人で、」





「……」


「……」


「……」


「……みんな、行くであります。隊長、ご無事で」

「オーケー、アイルビーバック」

「約束でありますよ」


 みんなが去り、ワタシが残る。それが最善なんだ。

 なのに一人だけ……覚悟を決めた目で動こうとしない。


「ほら、ヒメも早く行って」

「……私も足手纏い?」

「……」

「私たちは、最高のバディなんでしょ?」



 ……さっきからワタシの勘が、警鐘を鳴らしている。

 あれとは、一人で戦えと。、と。



「大丈夫、自分の身くらい自分で守れるから」



 ヒメは強い。普通の魔法少女よりずっと。

 だけど、ワタシよりは、ずっと弱い。

 ワタシが守れないと感じているほどの戦場で、自分の身を守るだなんて。



「……」

「……」

「……わかった。一緒に行こう」

「今度こそ、一緒にね」



 違うだろ、ふざけるな。何が守れないだ。

 ワタシはヒーローだ。そんな状況、覆してみせろ。


 行くぞ。二人で。

 倒すぞ。みんなを守るために。


 ワタシは第八部隊隊長、『発火』の魔法少女。

 西側に二人しかいない第七等級魔法少女。そして、最強のヒーロー。


 ヒメは第八部隊副隊長、『浮遊』の魔法少女。

 奇術師とも呼ばれる第六等級魔法少女。そして、最高のバディ。


 南方の守護者、第八部隊のツートップだ。負けるはずがない。

 覚悟しろ化け物。




 ワタシたちは、強いぞ。

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