英雄の資格 (1 – 5)
炎の気持ち
"創るためにぃ、壊すためにぃ、わたしは創るんだ。楽しいなぁ。ああ、楽しい!"
"今度はどんな子が生まれるのかな?"
"おおきい子、かっこいい子、げんきな子。"
"ふつうの子もいいけど、やっぱりわたしの子が一番だよね!"
"おはよう! ハッピーバースデー!"
"生まれてくれてありがとう! いってらっしゃい!"
"大切なものがもう無いなら、新しく創ればいいんだ。"
"嫌いなものを壊したいなら、壊してくれるものを創ればいいんだ!"
"わたしが創って、みんなで完成させる。"
"わたしにはできる。みんながそういった。"
"わたしにしかできないこと。みんなが創ったわたしの意味。"
"わたしのために、創らなきゃ。みんなのために、創らなきゃ。"
"さぁ、『創造』しよう。新しい世界を。"
"わたしたちの、革命の夜明けを!"
"偽物の救いなんていらない!"
"わたしがわたしたちを救うんだから!"
・・・
魔獣は人類の敵。それは間違いない事実。
それでいて、人類に対抗手段はほとんどない。
祖国が誇る世界最強の軍隊も、世紀末の獣たちには結局勝てなかった。
ワタシは、この国の人間ではない。
でもこの国で育った。この国に来たのは1歳の時だったらしい。
それはワタシの国が、魔獣の国になってしまったから。
まあ、要はつまり難民ってやつだな。もう国籍はこの国のだけど。
お父さんの顔は写真でしか見たことがない。
私たちを守り、私たちを逃すために、祖国の魔法少女と共に立派に戦ったと聞いている。
お母さんは祖国を取り戻すために頑張れといった。
戦って、人々を救い、そして祖国を救えと。
この国の人たちを助けるのは、その味方を増やす手段なのだと。
だけれど、人を助けるのに理由がいるのだろうか。
――否。助けたいと思うから助けるのだ。理由なんかいらない。
……あれ、これも理由になるのか?やっぱ理由いるか?
まあいい。とにかくワタシは、みんなを助けるんだ。
魔力も無しに魔獣と戦って人々を助けた、お父さんみたいなヒーローとして。
魔力も才能もあるワタシは、もっともっとすごいヒーローにならなければ。
そう、ヒーロー……!
ワタシは、ヒーロー!!
「アイアムア、ヒーロー!!!」
「今日も隊長がバカすぎる件」
「……?」
「……」
「I am a HERO!!!!」
「いや、発音の問題じゃあないんだよ」
なんだなんだ、いいじゃないか。
かっこいいだろヒーロー。憧れてくれてもいいんだぞ。
「まあそのバカみたいな強さはヒーロー級だけどね」
「ふはは! 褒めるな褒めるな!!」
「はいはい、平常運転で何より」
それにしてもこのヘリ、けっこう揺れるな。
揺れるし爆音轟く機内だが、ヘッドセットがあるので割と会話は快適にできる。
まあ会話は記録されてるので、あんまり私語ばかりしていると後で本部に怒られるのだけどな。
これはやる気を出すためのルーティンワークみたいなものなのだから、許してほしい。
そう、魔獣警報が鳴ったのが、いまから30分ほど前のこと。
近くの分隊が先にぶつかってそのまま戦闘を継続しているといった感じの現状。
そして、そこに合流するためにワタシたちはいま向かっているところなのだ。
ヒーローは遅れて登場するもの。
でも肝心な場面には必ず間に合い、みんなを助けてみせる。
それがヒーローってもんだ。コミックスでもそういってた。
……いやちょーっと、今回距離があるんだけど。
先遣分隊にだいぶ頑張らせちゃってるな。急がなければ。
そう、助けを待っている人たちがいるんだ。
もっと早くっ……!
「……しっかしこのヘリ……もうちょっと速度でないのか?」
「我慢してよね。あと10分くらいだから」
「そっか……」
「……」
「……」
「……」
「なあ」
「……なにさ」
「やっぱ先に行くわ」
「は?」
この緊急人員輸送用のヘリはドアが開けっ放しだ。
なので!
シートベルトを外してそのまま、アーイキャンフラーイ!!
「ちょ、ま、隊長のバカ―ッ!!!」
「『
ロケットスタート! ブーストファイア!!
ワタシよぶっ飛べ!!!
我が名は『発火』の魔法少女! マリー・アッシュフォード!
対魔獣組織、南方を守る第八部隊の隊長にして!
悪を挫き人々を守る、正義のヒーローだ!
みんな待ってろ、今行くぞ!!
・・・
「ヒーロー見参! エンカウンター!!」
「え、隊長!? 副長は!?」
「置いてきた! 食らえファイアボール!!」
「また怒られるでありますよ!? ……でも正直助かったであります!」
「状況は……もう始まってるから省略! いくぞお前たち!」
「よっしゃみんな! これで勝ったよ! あと少し頑張ろう!」
「ヤー!」「ひゃっほー!!」
・・・
「ごめんなさい……」
めっちゃ怒られた。
「なんで怒られてるか分かるかな?」
「隊則を破って独断専行したからか……?」
「はぁ……なんで分かっててやるかなぁ」
「でも敵は倒したし、みんな無事だし、それでいいのでは……?」
「それは結果論。何度も言うけどさ、毎回上手くいくとは限らないんだよ」
「えぇーっと……でもやっぱみんなのことを早く助けたかったしだな……」
「だーかーら、隊長がなんも考えずに行って万が一でもやられたらその方が状況的に最悪になるんだってば。応援に入るならそれなりの準備しないといけないんだって」
「は? ヒーローはやられないが? ワタシ超強いし」
「そろそろ殴るよ」
「すみません」
苦手な正座をしつつ、そのまま土下座スタイルに移行する。
ヒーローにだって時には妥協も必要なのだ。
それにしても……どうしてここまで怒られないといけないのだ……?
というかいつもはそんなに怒らないのに、今日に限って機嫌悪すぎでは……?
「あ、そうか」
「なにが?」
「ヒメを置いてったから拗ねてるんだな」
「やっぱこの隊長殴る」
「いった! え、なに? ホントに殴ってきたんだが!?」
程よく手加減されて殴られた肩をさすりながら、考える。
『浮遊』の魔法少女。名前はヒメ。
第八部隊副隊長で、相棒で、ちょっと年上の幼馴染の親友。
お互い同じ時期に魔力適合した。
でも違う支援部隊の配属になって離れ離れになってしまって。
でもそのあと同じ前線部隊に配属されてきて。
でも先に覚醒して配属されてたヒーローなワタシはその時もう隊長になってて。
ワタシは前のように仲良くしようとしたのに……なんだか遠慮がちに距離を取られるようになってて……。
前みたいに名前も呼んでくれなくなってて……。
……でも、それでもワタシたちは最高のバディだ。
そう、それに!
最近やっと敬語が取れるようになってきたのだ!
また名前で呼び合う日も、きっと近い!
未来の思いにそっと誓い!
「ヒメ、イズ、マーイ、ベストフレンド、イェアー」
「脈絡なく何わけわかんないこと言ってんのこいつ」
「というかまた前みたいに名前で呼んでくれないのか?」
なんか勢いで突っ込めそうな気がしたから聞くことにしてみた。
思い立ったら即行動、それがワタシのポリシーだからな!
「え?」
「いやだから名前」
「……え、いやだって部下と上官じゃん」
「敬語取れてるからそれは今更じゃないか?」
「え、でも、ほら、個人情報だし、阻害あるし……」
「仲良し同士なら阻害の効果ないんだろ。それともワタシたちって仲良しじゃなかったのか……?」
「あ、いや、その、でもさ」
「そうだったのか……友達と思ってたのは自分だけだったという事実。なぜ生きるのか……」
「えっと……」
「……」
「……」
「……」
「……マリー?」
「おお、心の友よ!!」
「ああ!! うざっ!!! ちょ、離れて!!!!」
ああ、やっぱり!
ワタシたちはベストフレンドだ!!
・・・
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