第3話魔法

教会に来た俺たちは順に長椅子に腰掛け、名前が呼ばれるのを待っていた。


名前が呼ばれた者は立ち上がり、神父の元へ行く。そして水晶に手をかざし事を促されるのだ。


それが魔法の封印を解く儀式。


水で体を清めた後なので俺は肌寒さを感じながらその時をジッと待っていた。


するとどよめきが走る。


「おお……!ダブルだ……!」

「凄い……初めて見た!」

「貴族だからな……あいつ」


口々に感嘆の言葉を漏らす。その注目は灰色の長髪の男に向けられていた。


魔法には四つの元素がある。俗に言う地水火風の四大元素だ。


人によって得意な元素の魔法が決まっており、それ以外は随分魔力の効率を落とさねば使えない。


他にも相性があり、地→水→火→風→地……etcと言った感じで有利、逆は不利になる。


それを上手く波長を合わせると有利属性を強くする……と家にあった本に書いていた。


そしてダブルは二重属性持ち。


水晶の輝きの色を見る限りあの貴族の男は火と風を持つ。つまり二つの元素が使える上に相性がいい。


そういうのを二重持ちの中でも優生二重属性持ちと言うらしい。


逆に地と火など相性の関係にない組み合わせは劣勢二重属性持ちとして価値は下がるらしい。


随分と酷い格差……だがそういう差も生まれてしまうのは仕方がないのかもしれない。


世知辛い事だ。


「ま、僕だから当然だな」


貴族の男は得意げだ。この小さな村の学校でも偉ぶっていた自尊心の塊。


俺もことある事に比べられたものだ。八方美人が気に入らないとも言われたっけ?


まあ俺の場合徳ポイントの為にそう振舞ってただけなんだがな。


まあそんな男とも今日でお別れだ。男は魔法を解禁した次の日には首都へ行くらしい。


理由は知らんしどうでもいい。貴族のなんやかんやだろう。


「ハルト・シュバルツ!」

「はい!」


遂に俺の番だ。元気よく返事をして神父の元へ歩いた。


そして言われるがまま手を水晶にかざす。すると……。


「おお……!」


神父が声を漏らす。


その視線は水晶を包む白い輝きに釘付けだった。


あれ? 地水火風による水晶の光の変化って橙、青、赤、緑の色の筈じゃ……?


俺の場合、ただ輝きを増しただけだ。


周りのみんなも不思議そうに首を傾げている。


「あの、神父様……これは?」


尋ねると思いがけない事実が発覚した。


「これは第五元素……光の反応じゃ……!」

「第五元素……!?」


授業でも聞いた事の無い話に教会内に居る全員が騒めく。


「一体どういう事ですか?」

「うむ、皆にも分かるように説明しよう」


神父は儀式を一度止めて光属性について語り出す。


「そもそも魔法はエーテルたる魔力で現実を生み出す物。そしてそれら全ては四大元素から生み出される。と、されているが例外がある」

「それが第五元素の光?」

「左様……それと対となるもう一つの元素、第六元素の闇もな」


俺達はまた新たな元素の名が出てきて更に驚愕する。


「光や闇の属性の者は歴史上でも稀な存在だ。火そのものの輝きや地で陽射しなどを遮った時の闇はあくまで副産物。光と闇そのものを操れるのはその属性の者だけじゃ」


そう言って何か考え込む神父。話す事に何か葛藤があるのだろうか。


やがて何事も無かったように語り出す。


「まあ安心したまえ。魔法の基礎は変わらない。魔力に思念を重ね、現実を生み出す。その真理は変わらないよ」

「……そうですか」


こうして俺の魔法解禁の儀式は終わった。


「すごいな……! 光属性なんて!」

「いいなぁ……特別って感じ」

「俺も光か闇でありますように!」


皆は話を聞いてまた騒めく。

特別からは程遠い人間だった前世……しかもチートツールを売る為目立たないように生きてきた俺からすれば、その羨望の眼差しは慣れないものだった。


でも少し嬉しかったのは確かだった。


そんな事を思いながら続く儀式を見守るのだった。




こうして俺の世代の魔法解禁の儀式は無事に終わる。


セイヤは火、ユイは風……そして俺は光であった。


魔法を授かった者達は和気藹々としながら各々の帰路に着く。


俺もそうしようとした矢先、神父様に声をかけられた。


「ハルトくん、少し話がしたいんだがいいかい?」

「あ、はい。あ、でも……少し待って下さい」


俺は神父に待ってもらい、ユイとセイヤへと声をかける。


「神父様がちょっと話があるみたいだから先帰っていいよ」

「おう。俺の火とかと違ってレアだしなんかあるのかもな」

「じゃ、先に帰ってるね?バイバイ」


二人を見送り、俺は教会の中へと戻り、神父様の元へ行くのだった。


「お待たせしました神父様。話とは何ですか?」

「光魔法の話じゃ」


やっぱりか。気になっていたので調度良い。


「光魔法と闇魔法は特別なのじゃ」

「特別……? 珍しいだけじゃないんですか?」

「うむ……そもそも光や闇を含む魔法自体、天使や悪魔の扱う理だったのじゃ」

「えっ!?」


この世界にも天使や悪魔は居たのは本によって知っている。だが光、闇を放った〜と言ったような記述しか無かったのでそれが魔法とは思わなかった。


そもそも属性は地水火風しか無いって習ったし。


「その天使や悪魔の魔法がなんで人に……?」

「それは……天使と悪魔が今の人間の先祖だからじゃよ」

「っ!?」


神父様の口から明かされる衝撃の事実に目を見開く。


「少し長くなるぞ。その昔、天使と悪魔は争っていたんじゃ……」


天魔争乱と呼ばれる戦い。人を導き世界の秩序を守ろうとした天使と、人を堕落させ世界を混沌に陥れようとした悪魔。


両軍は相入れる事無く争った。そして共倒れとなった。


「ここまでが童話にもなっておる周知の事実。だがここからは知る人ぞ知る真実じゃ」


辛うじて生きていた悪魔の残党は人間に取り憑いた。そして傷を癒す傍ら、その身を改造し天使との戦いの尖兵としようとしたのだ。


その悪魔が交配を繰り返して……魔法が使える人間が生まれたらしい。


一方生き残った天使は人に転生し擬態する事で悪魔から逃れ、その傷を癒し力を取り戻そうとしていた。


だが悪魔に憑かれ、改造された人間は既に手が付けられない程になったのだ。


「だからその天使は天使教を作り、悪魔の力に身を委ねないよう説いた。だが人は手に入れた便利な道具を簡単に捨てられ無かった」


それはそうだろう。俺が前世でチートツールを売った買い手は一度味をしめたら何度もチートツールを使用していた。


人間の飽くなき欲望は身をもって知っていた。


「だから天使は発想を変えた。魔法は人間の力であり、正しく使うべきだと説いたのだ」


なるほど……頭ごなしに禁止されるよりも良い事に使いましょうって方が受け入れられるだろう。


「そしてその天使も人間と交わった。悪魔特有の闇魔法に対抗するには天使特有の光魔法が一番だったのでな……それが使える人間を欲したのだ」

「そして……地水火風だけじゃなく光も闇も使える人間が現れるようになった……」

「左様」


こうして俺はこの世界の裏の歴史を知った。


「天使と悪魔の戦いは……今も続いているんですか?」

「うむ……だから気をつけたまえ。邪なる者の手先がお主を狙うかもしれん。己が身を守る為にも、その力……研鑽するが良いぞ」


それで話は終わりだった。


レアなんだぁとぐらいにしか考えていなかったが、まさか天使の魔法だったとは……。


しかも悪魔はまだ居て……人間すら利用して来るかもしれない。


これは気を引き締めて魔法の鍛錬をしなければ……そう強く思うのだった。

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