第27話 戦勝祝賀パーティー 2

 プラタニア王国とゴールドフロント王国は、砂漠と山脈、海により他国からは隔離された環境にある隣り合う国であった。

 しかし、他国との交流のあったゴールドフロントと、鎖国をしていた訳ではないが他国の文化の入りにくかったプラタニアでは、思想や文化に違いがあるのは当たり前といえよう。また、ゴールドフロントは常にプラタニアを格下に見ていた風潮があり、プラタニアはそれを忌々しく思っていた為、お互いに対する感情は友好的とは言い難かった。


 それでも、今回の戦の英雄と称されるノイアーと一緒に会場入りすれば、人々は愛想良くルチアにも挨拶をしてきた。


「エムナール伯爵、あなたはプラタニアの英雄ですな」

「全くです!ぜひ、伯爵の戦争での御英姿をお聞かせ願いたい」

「エネルの頭領と決戦をなさったそうですが、さすが雷靂将軍の名前に違わず、一撃で仕留めたそうですな」


 ノイアーと懇意になろうとした貴族達は、ノイアーから溢れ出る覇気に顔色を悪くしつつも、周りに集まり戦争の話を聞きたがり、ノイアーは言葉数は少ないが、一人一人と言葉を交わしていた。


「皆様、そんなに周りに集まって質問攻めでは、ノイアーが疲れてしまいましてよ」


 ノイアーを囲んでいた貴族達が一斉に道を開け、とある貴婦人が貴族達により出来た花道を悠然と歩いて来た。


「ノイアー、本当に今回の戦はご苦労様でした」

「王妃殿下」


 貴族達が礼をとる中、悠然と微笑むのはプラタニア王国のアンブローズ王妃だった。その後ろには、ライザ第一王女と年若い令嬢達が付き従っていた。


「ルチア・シンドルフさんでしたかしら?お話をするのは初めてね」

「ルチア・シンドルフでございます。王妃殿下におかれましてはご健勝のこととお慶び申し上げます」


 ルチアが淑女の礼をとると、周りのおじさん貴族達から「ほー」と感嘆の息が漏れた。ルチアはあと数カ月で十八歳なのだが、見た目が幼く見えるせいで、小さいのに偉いね的なお父さん目線で見られているようだ。


 そんな中、アンブローズ王妃がルチアに近寄り、その手を取って礼を解かせた。


(「この戦争の立役者であるノイアーと王族が近しい存在であると、周りに知らしめないといけないの。侯爵令嬢であるあなたならわかってくれるわね」)


 扇子で口を覆ったアンブローズ王妃は、ルチアにだけ聞こえるような小声で囁くと、扇子を閉じてニッコリと微笑んだ。


「まあ!本当に可愛らしい婚約者ね。ノイアー、彼女はまだプラタニアの社交界には馴染みがないでしょう?女性には女性の社交が必要ですからね、私が間を取り持って差し上げましょう。ライザ、ルチアさんを案内している間、あなたがノイアーの相手をしていなさい」

「かしこまりました、お母様」

「ノイアー、しばらくの間、この子を頼みますよ。あなたがいれば護衛もいらないわね。さ、ルチアさん。参りましょう」


 まだお願いするとも何も答えていないのに、貴族令嬢達に囲まれたルチアは、ノイアーから離されてしまう。ルチアを引き留めようとしたノイアーも、ライザに腕を取られてしまえば、王女を突き放すこともできないし、護衛まで撤収された状態の王女を放置することもできず、ルチアを追うことはできなかった。


 ルチアが連れてこられたのは、パーティーの開かれる大会場でも、貴族夫人達が集まるサロンでもなく、会場から離れた廊下の一角だった。アンブローズ王妃は護衛だけを残し、貴族令嬢達に会場に戻るように指示した。


「さて、ルチアさん。あなたとはゆっくりお話がしたいのだけれど、この大事なパーティーで、王妃である私が長い時間中座もできませんから、要件だけお伝えしますね。あなたには、ゴールドフロントにお帰り願いたいの」

「え?」

「ゴールドフロントはすでにプラタニアの脅威ではありませんし、あなたをノイアーが娶るメリットはございません。ノイアーには王族の広告塔になって欲しいのです。他国を牽制する為にも、プラタニアにはノイアーが必要なんです。それに王女にも、ノイアーは特別な相手のようなので。私の言っている意味、わかりますわね」


(つまり、ライザ第一王女とノイアーを結婚させたいってことよね?)


「私とノイアーの婚約は受理された筈です。先ほどの式典で公表されましたよね」


 アンブローズ王妃は、扇子を開いて口元を隠し、冷たい視線をルチアに向けて来た。


「そんなの、なんとでもなります。それに、かたくなに縁談を断っていたライザが、ノイアー相手ならば嫁いでも良いと言っているんです。あの子は気も弱く、他国に嫁がせるのは心配でした。かと言って、降嫁させられる高位貴族で年頃の合う令息もいなかったのです。今のノイアーならば、ライザの降嫁先としても十分ですから」


 アンブローズ王妃は、護衛の一人にルチアを会場に案内するように命じると、話は終わったとばかりに背中を向けて歩き出した。


「お待ち下さい。失礼ながら申し上げます。ノイアーが私との婚約破棄を受け入れるとは思いません。それに、気の弱いライザ様が、ノイアーの覇気に耐えて結婚生活を送れるとお思いですか?」


 アンブローズ王妃は立ち止まり、振り返ることなく言った。


「ノイアーはプラタニアの貴族で軍人です。彼が国の為にどうするべきかを見誤るような人間ではないと、私は長い付き合いから知ってます。それに、畏眼を直視することがなければ、あの覇気に飲まれることはありません。ノイアーも感情が昂ることさえなければ、覇気をコントロールできるでしょうから、何も問題はありません」


(いやいや、問題ありまくりだから!第一、目を合わせない結婚生活ってなんなのよ)





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今度こそ生き延びます!私を殺した旦那様、覚悟してください 由友ひろ @hta228

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