第28話 戦勝祝賀パーティー 3

 パーティー会場に戻ったルチアは、まずノイアーを探した。


「ちょっと、ちょっとすみません。通して……」


 会場まで案内してくれた護衛は、会場についた途端に消えてしまい、会場を大回りするよりもダンスフロアを横切った方が早いだろうと判断したことが、そもそも間違っていたようだ。音楽が止まった瞬間、人々が次の音楽を待ったり、休憩する為にフロアから出ようとした時を見計らってフロアを突っ切ろうとしたのだが、ちょうどフロアの真ん中まで来た時に音楽が始まってしまい、ルチアは踊る人々を避けながら、進まなくてはならなくなった。


「うわっとと、失礼。痛っ、ごめんなさい」


 女性のドレスを踏んでしまいそうになり、慌てて下がったら今度は踊っている人にぶつかってしまった。ルチアは謝りながらなんとかフロアを横断する。


 ノイアーはライザをエスコートしており、周りには女性が沢山いてルチアには気がついていなかった。ルチアもなんとか間を縫ってノイアーに近づこうとしたが、令嬢達のゴテゴテしたドレスに阻まれ、全く近寄ることができなかった。


「エムナール伯爵、ライザ第一王女殿下とダンスをなさったらどうですか?」

「お二人のダンス、見たいですわ。きっとお似合いでしょうね」


 周りの貴族令嬢達は、しきりにノイアー達にダンスをするように勧めていた。


(ファーストダンスは家族か婚約者と踊るものじゃないの!?)


「ノイアー、皆様もこう言ってますし……」


 ライザは、ノイアーと視線は合わせられないものの、袖を引いてダンスフロアに誘う素振りを見せた。


 二人が並んでいる姿はなかなか絵になっており、ルチアの胸がズキリと痛んだ。二人が寄り添って踊る姿なんか見たくないけれど、王族にダンスを申し込まれて、断る貴族はいないだろう。この後、二人でダンスフロアに行ってしまうのかと、ルチアはスカートを握り締めてノイアーの後ろ姿を見つめた。


「婚約者がいる身で、ファーストダンスを家族以外と踊るつもりはない」


 ノイアーは淡々と断っていたが、何故か周りの令嬢達はノイアーとライザが悲劇の恋人であるかのように騒ぎ立てだした。


「さすがエムナール伯爵様、義理堅いですわ。でも、ご本心を偽る必要はもう……ねえ?」

「ええ。伯爵様はライザ王女殿下と婚約間近だったじゃないですか」

「そうですわ。この戦をゴールドフロントに邪魔されない為に、エムナール伯爵が犠牲になって、ゴールドフロントの女性と婚約なさったと聞きました」

「もう、戦争も終わりましたし、ゴールドフロントなど我が国の脅威にもなり得ませんもの。お二人の間を引き裂くものはありませんわ。何も遠慮はいらないんじゃないでしょうか」


(盛り上がり過ぎじゃない?)


 ルチアは段々苛々してきた。わざとらしく騒ぐ令嬢達に、周りにいた貴族達も興味津々聞いており、まるで今話されていることが真実のように伝聞されていく。


「そんな事実はない。王女殿下にも失礼だろう。王女殿下とそんな話は出たこともないし、私も臣下として以上の感情を抱いた記憶もない。第一、ルチアとの婚約は先ほど正式に受理されたもので、この度の戦争は無関係だ」


 ノイアーの低音が広間に響き、騒がしかった会場も静まり返る。


「ミッタマイル、ライザ王女殿下の護衛を頼む。俺はルチアを迎えに行く」


 ノイアーは、人混みの中から副官のミッタマイルを見つけると、呼び寄せてライザの手をミッタマイルに押し付けた。


「ノイアー!」


 このままではまたはぐれてしまうと、ルチアは慌ててノイアーを呼び止めた。ルチアの声に振り向いたノイアーは、ルチアを見つけてその瞳を僅かに緩めた。その覇気が途切れた瞬間を目撃した令嬢達は、驚いたようにノイアーを二度見し、初めてノイアーの顔を直視したことで頬を赤らめていた。


 ノイアーはルチアの前まで来ると、ルチアの手をとった。


「すぐに探しに行けずに悪かった」

「本当よ。王妃様に婚約破棄して国に帰れって言われたんですから」

「は!?」


 ノイアーから殺気が溢れ、周りにいた人達が一斉に後退る。気の弱い令嬢なんかは気絶しそうになっており、それはライザも同様で、取り巻きの令嬢達に支えられていた。


「なんでも、ノイアーを王家に取り込みたいらしいわ。貴族で軍人なら、国の為にそのくらいするのが当たり前みたいなこと言っていらっしゃったけど、ノイアーもそう思う?」

「あり得ん」


(ふん!言いつけてやったわ)


 もしノイアーにその気があれば、この国に見切りをつけて異国にでも行こうかと……って、嘘だ。ここに来たすぐ後だったら、迷わずにそうしたかもしれない。でも、今はノイアーと離れる選択肢は考えられなかった。


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