第25話 遠征からの帰還 2
「こちらでお待ち下さい」
ルチアが通されたのは、王城の中のサロンの一つだろう。ゴールドフロントの綺羅びやかなサロンなどに比べれば、質素な内装ではあるが、一つ一つの調度品は厳選されており、丁寧に管理されていることを見てとれた。
ルチアが壁にかけられた絵画を見ていると、扉が開いてサミュエルとノイアーが現れた。
「ノイアー!」
ルチアがノイアーに走り寄り飛びつくと、ノイアーは軽々とルチアを抱き上げた。
「ノイアー、抱きしめるのならばわかるが、その抱き上げ方はどうなんだよ」
サミュエルは苦笑して抱き合うルチア達を見る。確かに子供抱きではあるが、身長差があるのだからしょうがないではないか。
「今日戻って来るなんて知らなかった……というか、一週間も前に勝利してたのすら知らなかったんですけど」
「手紙を出したが」
「手紙?手紙なんか、この十ヶ月、一回ももらってないわよ。私はいっぱい出したけど」
ノイアーはルチアを下ろすと、サミュエルへ鋭い視線を向けた。
「ごめん、悪かったから、そんなに殺気をこめて見ないでくれよ」
「出せ」
「はいはい。ほら、軍の機密とかもあったし、ルチアちゃんへの手紙は渡せなかったんだよ」
「じゃあ、ルチアからの手紙は」
「それもさ、ルチアちゃんからの手紙だけ届けたら、話が噛み合わなくなるだろ。ルチアちゃんに手紙が届いてないってなって、ノイアーに戦線離脱されても困るしさ」
サミュエルは冷や汗をかきながら、小脇に抱えていた封筒をノイアーに手渡す。どうやら、その中に二人の手紙が入っているようだ。
「お詫びにね、今晩の祝賀パーティーに着るルチアちゃんのドレスを用意したから。ほら、二人が婚約者として初めてお披露目になる訳じゃん。ちょっと気張ってみた」
サミュエルが手を叩くと、ドレスを着せたトルソーを侍従達が数人がかりで運んで来た。
「これ、私が着るんですか?」
色味は良いと思う。濃紺はノイアーの瞳の色だし、胸元にはルチアの髪色の白金の刺繍が入り、全体的にブラックダイヤモンドが散りばめられていた。ノイアーとルチアの色を使うことで、二人は婚約者同士だと問題は、それがビスチェタイプのミニワンピースで、肩や胸元が丸出しなのだ。もちろん足も。
ノイアーもそれを見て険しい顔になる。
「サミュエル……」
第二王子を呼び捨てにしたばかりか、その畏眼からだけではなく、全身から溢れ出る殺気で、部屋の温度が氷点下まで下がったかのような寒気に襲われた。さすがのルチアも、ノイアーの殺気に身体がカタカタと震える。
「いや、ノイアー、落ち着いて!ほら、このドレスの上からね、このチュールスカートを履くんだよ。足は少しは透けて見えるけど、これなら足も隠れて可愛いだろ?ルチアちゃんにお似合いだと思わないか?」
「あ、可愛い」
確かに、ただのお色気タップリのミニワンピから、可愛いドレスには変化したけれど、いまだに上半身の露出は多い。
(私が着ると、胸元がスカスカして中身が全部見えちゃいそうだけど)
「さらにはこれ!この半袖ボレロも今ならおまけでつけちゃうよ」
叩き売りの商人かなと思ったら、第二王子だった。
「あ、無茶苦茶可愛い」
ドレスと同じ布地のボレロは襟から裾にかけて白金の糸で刺繍がされており、派手過ぎず上品な上着になっていた。
「何故ワンセットまとめて見せない」
「いやぁ、ノイアーが意外と独占欲強めだってわかって楽しかったよ。パーティードレスなんか、胸元ポロリ、スリット深めで生足披露なんてザラじゃないか」
確かにポロリしそうなくらい胸元が開いたドレスを着ている女性は多いが、実際にポロリしている女性はいない。それに大人の女性はスカート長めがマストだから、スリットを深く入れて足のチラ見えが最近の流行りのようだ。ルチアには似合わないドレスであるが。
「出したいやつは出せばいい。ルチアは駄目だ」
「お父さんかな?」
「うるさい」
「ルチアちゃん、いいの?口うるさい親父が婚約者で。しかも、見た目も恐いし」
サミュエルはノイアーにからみながら、ルチアに「今ならまだ婚約もなしにできるよ」と囁く。
「いや、私も露出多めは苦手なんで。というか似合わないし。それに、ノイアーは親父でもなければ、見た目は誰よりも格好良いじゃないですか」
ノイアーは目を見開き、サミュエルは驚愕して一歩下がった。
(いや、そこまで驚くこと言ったかな?)
「え?本気?ルチアちゃんには、ノイアーが格好良く見えているの?ちなみに僕より?」
「もちろん」
ルチアはサミュエルとノイアーを見比べる。サミュエルは百人中百人が美男子だと言う容姿をしており、細マッチョの身体のせいか全体的なバランスもパーフェクトだった。雰囲気イケメン(ただ細いだけだし、シークレットブーツで足の長さを誤魔化している)アレキサンダーとは雲泥の差だ。しかし、そんなサミュエルさえ、ルチアから見ればノイアーより格好良いとは思えなかった。
多分、それが表情に表れていたのだろう。サミュエルは怒るでもなく面白そうな表情に変わった。
「そっかぁ、やっぱりルチアちゃん面白いなぁ」
サミュエルが指をパチンと鳴らすと、侍女達が部屋にワラワラと入ってきた。
「じゃあ、ルチアちゃんは祝賀パーティーの準備ね。ノイアーは、ちょっと僕と時間潰そうか」
久し振りに会ったノイアーと、再会を喜ぶ間もなく、ルチアはドレスアップの為に侍女に拉致された。
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