三話「この顔、俺に向けられてると思うとツラい。」

不良にフルボッコにされて入院している俺、根取ねとり 夜郎やろうのもとを訪れたのは絶対王政破廉恥学園の中でも屈指の人気NPC、尾金おがね 命子めいこだった。病室を去る間際に置いていったレジ袋の中の怪しい飲み物を飲んだ俺は…体がちぢn(殴


目が覚めると日が暮れていた。また何日か眠っていたのだろうか。


また病室のドアが開く。白衣を着た白髪の男性が入ってきた。


「おや、目が覚めたみたいだね。ふむ、今度は元気そうだ。」


…俺を治療してくれた医者だろうか?


「…あの、今度は何日くらい寝てたんスか?」


「何日?ああ、二日ほどだね。それより、今日は君に伝えたいことがあって来たんだ。」


伝えたいこと?余命宣告か?てかまた、二日も寝てたのか。


「君、明日で退院だから。」


「…え?退院?もう?」


「うん、退院。もう怪我、治ってるからね。不思議なことに。」


そう言われてみれば痛みは無い。と言うか元気が有り余ってる気がする。


「退院の準備を、と思ったが荷物はほとんど無いだろうから、その身ひとつだね。」


「…あ、ハイ。そうっスね。」


医者は退院の準備をうながし病室を出ていった。


…なんだ?いっぱつドリン子か?あれが効いたんか?


…分からん、けど明日で退院なら明後日は学校に行けそうだな。気は進まないけど。


退院の日、軽い手続きをした後、あのボロアパートに帰ることにした。ちなみに入院費はクッソ安かった。ここらは、俺みたいに不良にボコされて学生が運ばれてくるらしいから、学生のうちは安くしてくれてるみたいだ。どうやって経営してんだろうな、この病院。


「オーライ!オーライ!ハイ、ストップストップ!!」


アパートに着くとなぜかアパートの取り壊し作業が行われていt…


「えッ!?ちょっ!?待って待って待ってッ!!」


意味が分からん!!なんで!?


近くにいた作業員に慌てて話しかけた。


「あ、あの!!ここ、ここって俺のッ…」


「ん?ああ、君か。報告にあった勝手に住み着いた学生というのは。」


「…え、はっ?」


勝手に住み着いた?え?マジで?


「あれ?知らなかったのか?ここは取り壊されて新しくビルが建つんだ。」


いや、ビルが建つってのはなんとなく分かってるよ。そんなことより根取のヤツ、不法侵入して勝手に住み着いてたってのか!?


「君の荷物らしき物はあそこにまとめて積んであるから。持って行かなかった場合はこっちで処理しちゃうから気を付けてね。」


そう言うと作業員は仕事に戻って行った。


荷物と言っても、大した物は無い。恐らくどれも、根取が住み着いていたアパートに置かれていった物を勝手に使ってただけだろうし、住居あっての日用品なわけで。住居の無い俺に必要な物はほとんど無かった。


壊れた冷蔵庫の中に入っていた日持ちしそうな食べ物と水1リットルを抱えてその場を後にした。


あまりにも、あまりにもツいてない。これからどうすればいいんだろ。ホームレスになったのも初めてだ。ホームレスとしての生き方なんて知らない。


…待てよ、そういやこの町ってホームレスの集落みたいなのあったよな。ああ、理由は聞くなよ?今となっては現実だが、ここはエロゲの世界だ。エロゲの世界でわざわざホームレスをチラつかせる理由なんて、まあそういうことだ。


えと、町の北側だったよな。アテが無い以上行くしかないか…。


町の中心部、大通りを歩いていると見知ったヤツを見かけた。


「なあ、いいじゃんよ!ちょっとだけ!ちょっとだけ話聞いてくれればいいんだって!」


「…あ、あの、ごめんなさ…」


「んー?なんだって?OKって?やったねぃ♪」


「…ち、ちがっ!」


優市杉やさしすぎ 結花ゆうか


絶対王政破廉恥学園のメインヒロインの一人、小柄だが道行く男の誰もが振り返るルックスに、小動物のような雰囲気で人気の高いヒロインだ。


ここに来るまでに今がいつなのかが分かった。今は12月29日。主人公の操作ができない冬休みの期間だ。


…だとしたらこの状況、主人公の助けは期待できない、か?


………。


「や、やめとこーぜ。オニーサン。人通りも多いんだしさ、このままだと警察呼ばれちゃうかもよ?だからさ、ほら手、離そうぜ。」


…ああー、また首突っ込んじまった。


「…ッチ。分かった分かった。…ハイハイ悪かったな。」


物分かりのいいナンパ男はいさぎよく去って行ったが、個人的には気まずいなぁこの空気…。まあ俺、根取のせいなんだけども。


作中だと根取は優市杉のこと、一度ストーリーで襲ってるんだよな。未遂に終わったとは言え。確か文化祭のイベントで空き教室に連れ込んで押し倒すまでやったところで主人公に助けられる、そんなだったはず。


だから、優市杉にとってはさっきのナンパ男も俺もそう変わらないと言うか。彼女にとってはどちらも自分を襲う肉食獣でしかないわけだ。


「…あの、だいj…」


「…ひッ!?」


ツラい。


「…ごめん、色々と悪かった。お節介だと思うけど、外を歩くときはできる限りアイツか仲のいい友達と一緒にいた方がいいぞ。さっきのヤツや俺みたいなのがクソほどいるんだから、この町。」


「…あ、え?」


「怖がらせて悪かった。それじゃ、もう行くから。…あ、そういえば、三学期から登校するつもりなんだけど、お前らに近づくつもりはねぇから。安心してくれな。」


そこまで言って俺は立ち去った。後ろでなんかあうあう言ってた気がするけど、まあ聞く必要は無いな。さっさと離れた方が彼女のためになるだろうし。


本来の目的を思い出した俺は町の北側、ホームレスの巣窟そうくつになっていて誰も近づかないさびれた公園へと足を運んだ。

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