第9話 愚かな策略(アシュフォード伯爵視点)
書斎でヴィットーリオを待っていた。彼を屋敷に呼び出したのは、エリュシオンの件で話し合うためだ。
ヴィットーリオが部屋に入ってきた。彼の目には疑念が浮かんでいる。
「座ってくれ」
私の目の前に座るよう指示する。ヴィットーリオが席に着くと、こちらが口を開くよりも先にエレナの行方を尋ねてきた。
「エレナ嬢は何処へ?」
どうやら彼も行方は掴んでいないらしい。そうなった経緯も詳しくないようだな。私は、予め用意していた嘘の情報をヴィットーリオに伝えた。
「あの娘は浮気が発覚した後、屋敷から出ていったのだ。行方は知れない」
ヴィットーリオの表情が一変した。その瞬間、私は理解した。やはり、娘のエレナを慕っていたのだ。この話を続けたら危ない。嘘がバレたら、きっと関係が絶たれる。
その話題は早々に切り上げて、これから先のことについて話し合おうと提案した。
「それで、今日君を呼んだのはエリュシオンについて――」
「エレナ嬢が居ないのであれば、伯爵家との関係は終わりですね」
「な、なに!?」
まさか、話し合いにも応じないなんて。
「私たちが伯爵家の依頼を受けていたのは、エレナ嬢が居たからこそ。それなのに、彼女が居ないのであれば意味がありません」
「ま、待て。依頼料について、増額する準備がある。金なら出すぞ」
慌てて依頼料について今までの倍を出すと提案した。かなり痛い出費になるだろうが、背に腹は代えられない。
だが、そんな提案もヴィットーリオは断った。
「話し合いは終わりだ」
そう言って、席を立つ。もう、話し合いに応じる気配はない。
「ま、まて!」
何度も呼び止めたが、ヴィットーリオはこちらを一度も振り返ることなく無視して書斎から出ていった。
本気なのか? せっかくのエリュシオンとの関係が。これで、終わるはずがない。何かの冗談だろう。
私は急いで考え込んだ。解決する方法はないだろうか。
今すぐエレナを呼び戻す? どこに行ったのか分からないのに。こんなことになるのなら、追い出すべきではなかったか?
ヴィットーリオに真実を告げるわけにもいかない。計画が甘かった。ヴィットーリオの想いを舐めていた。まさか、あんなに激怒するなんて。そして、エリュシオンの関係を断ち切るなんて。
私は深く息を吸い込み、気持ちを切り替えた。やはり、エリュシオンのトップを切り捨てて、組織を変えていく必要があるか。ヴィットーリオの才能や能力を切り捨てるのは惜しいが、諦めないといけない部分はあるだろう。
従わないのであれば娘と同じように、切り捨てるしかない。
ヴィットーリオは、依頼料の値上げを提案したのに拒否した。だが、他のメンバーは大金を求めるだろう。大金を手に入れるチャンスを失った。そうなったのは、ヴィットーリオの独断のせい。
しかし、まだ私はチャンスを提示する。こちらにつけば、前よりも多くの依頼料で仕事を受けられる。そう提案してやる。そうやって、エリュシオンのメンバーを切り崩していこうじゃないか。
そう。まだエリュシオンを手に入れる方法は残っている。焦る必要はない。
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