第2話 実家

 ペトルス様に婚約を破棄された後、私はパーティー会場から意気消沈して実家に戻った。心の中は混乱に満ちていたが、それを表に出さないように感情を押し殺して、冷静を装っていた。


 屋敷に戻ってくると、メイドが慌てた様子で出迎えた。


「お嬢様、伯爵様がお呼びです。書斎でお待ちしております」

「お父様が? 急いで行きます」


 呼び出された私は深呼吸をして、覚悟を決めた。書斎のドアを開けると、お父様が厳しい表情で私を見つめてきた。


「入りなさい」

「失礼します」


 とても重い空気。きっと良い話ではない。息苦しさを感じながら、私は部屋の中に入った。


「エレナ、これはどういうことだ?」


 お父様が怒りを込めて言った。


「あんなに苦労して決めた、王子との婚約を台無しにするとは!」

「誤解です。ペトルス様は、私がエリュシオンの誰かと浮気していたと勘違いをして。私に落ち度はありません」

「だとしても、お前には婚約を守る義務がある! どれだけの大金を積んだと思っているんだッ!」


 問答無用で叱責された。ペトルス様と同じく、お父様も私の話を聞いてくれない。


「お前の行動は、我が家の名誉も大きく傷つけた」

「そんなつもりは」

「王子との婚約は、我が家の繁栄のためには不可欠だったんだ」

「ですから、そのようなことは決して――」

「婚約をダメにしたお前は、この家に必要ない。むしろ邪魔な存在だ。今すぐに出ていけ!」

「そんな……」

「早く出ていくんだ!」

「……ッ!」


 私の言葉は一つも認められず、家を追い出されることになった。出て行けとお父様から言い渡された。私の話は、誰も聞いてくれない。




 一方的な話が終わり、自分の部屋に戻って来た。私はドアに寄りかかって深く息をついた。誰にも見えないところで、感情の堰を切らせた。涙が頬を伝って、私の心は不安と絶望に支配されていた。


「これから、どうすればいいの?」


 自問する。答えてくれる人は誰も居ない。さっさと出て行けと言われているだけ。ここに残ろうとしても、無理やり追い出されてしまうでしょう。


「行く当てもないのに……」


 しかし、悲しみに暮れてばかりいられない。私は涙を拭うと、荷物をまとめ始めた。


 エリュシオンの皆からプレゼントされた大切な作品。愛読書、それに数着の服。新しい人生に必要最低限のものを自分の手でカバンに詰め込んだ。


 私には頼れる人、頼れる場所は思い浮かばなかった。それでも、今すぐ家を出ていかないといけない。


 荷物をまとめたカバンを手に持って、最後に部屋を振り返った。ここで過ごした日々は、もう二度と戻らない。


 彼女は覚悟を決めて、屋敷を後にした。外は真っ暗で、冷たい風が吹いていた。持っているカバンも、とても重い。持って行く荷物はかなり少なくしたはずなのに。


 これから私は、どうすればいいの。あまりにも突然の出来事の連続に、途方に暮れる。

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