第7肢

 奴の腕はそれぞれが別の生き物のようにうごめいて、僕の体をくまなく調べにかかった。残っていたサンダルも取っ払われて、足指の間をぷにぷにした吸盤が這い回る。濡れた感触が、舐められているみたいで……

「んん……っく」くすぐったくて変な声が出る。

 両腕を頭上に引き上げられ、それこそ干し蛸みたいになったところを、奴が獲物の形を確かめるようにいじくる。脇の下、脇腹、へそ――は特に興味をひかれたのか、触腕の先でつつかれて、思わず笑ってしまう。


 しかし笑ってもいられない。足を舐めずっていた腕が、ふくらはぎ、膝の裏……と上ってくる。そんなところをそんなふうにねちっこく触られた経験なんてないから、腰に悪寒が走る。

 上の方を探索していた腕は胸に巻きついている。

 シーザーの一番小さい吸盤くらいに膨れて同じくらい赤くなっている乳首を、本物の吸盤が優しく吸い上げる。

「ああッ……ぅン」

 心臓マッサージの時の目印でしかないようなところが感じるだなんて思っていなかった。


 けどこれ以上されるのはマズい。

 乳首ニップルをいじられたせいか、股間のものが勝手に勃ちあがる。タコに、それもオスに愛撫されて硬くなってるなんて、なかなかにシュールな光景だ。こんな場面を絵に描きたい画家なんていないだろう。僕だってごめんだ。

 シーザーがそれに気づきませんようにと僕は祈った。

 

 ――が、その期待はあっけなく破られた。

 シーザーは目ざとく(?)新しいおもちゃに気づき、巻きついた。

「ぅあ、なん、で、お前そんな、どこで覚えて……!」僕が奴の前でのはあの一回だけだったのに!

 絶妙な力加減で締め上げられる。シーザーの粘液と自分のが混じりあったものが立てる、ちゅぷちゅぷという卑猥な音が耳に届く。情けないのと恥ずかしいのとで、火でも押しつけられたみたいに顔が熱くなる。

 頭に伸びてきた腕は髪を撫でている。タコの腕には、なぜか目にはない錐体細胞があるから、僕の髪が赤いのを、興奮しているしるしだと思ってるんじゃ……。確かに興奮はしてるけど、違う、これは……。


 シーザーは巧妙にいくつもの吸盤を動かして僕を絞り上げていく。

「あっ、はぁあ、ああっ――」

 僕ははばかることなく喘いでいた。

「んぁ、あ、っはァ――いッ?!」

  と、唇に柔らかくて冷たいものが触れた。反射的に口を閉じたが、シーザーは腕の筋肉を硬化させた。

 歯列をこじ開けて口の中にも腕が侵入してくる。舌を刺す塩辛い海水の味と、シーザー自身の?複雑な味。それが何を意味しているのか僕には感じ取れない。

「……ッく、ん、うう、ん――ッ!」

 口腔粘膜に吸いついているこの腕は先端まで吸盤があるから、交接腕ではない。とすると交接腕は、どこだ――?


 両脚がぐいと左右に割り開かれる。ぎくりとして下半身の方へ目をやると、シーザーの、吸盤のない交接腕が鎌首をもたげた蛇みたいにゆらゆらと脚の間へ入り込もうとしているところだった。

「ちょ……まさかそんな、冗談だろ……?」

 嘘でも冗談でもなかった。

 つるりとした感触の先端が尻の割れ目を撫で回し、さらにその奥の排泄孔をつつく。

 それが……認めたくないくらい気持ちいい。

「ひァ、あぁ、あッ、いい……っ」

 網にかかった魚みたいに尻をくねらせて悶えているのは、シーザーの触腕が僕の蛇管ホースの根元をひと巻きして、イけないようにしているからだ。

 本当に、こんなことどこで覚えたんだ。

「……っは、やめ、放せってば……!」

 窄まりの周辺を探索していた腕がぐっと硬度を増す。

「それ、は、まず――いッ……あ、ぁあッ……!」

 やつ自身のぬめりを借りて、太くて――弾力のあるものが中に入ってきた。


「嫌だ、あっ、んッ、嘘だろ、いいっ……い、あぁ、そこ……っ!」

 存在感のあるものがそこを押し広げながらさらに内部を掻き回す。

 圧迫感で苦しいのと気持ちいいのとで、僕は腰を突き上げてヒイヒイ善がり泣いていた。

 シーザーの柔らかい腕が頬に触れる。生理的に出た涙じゃないから、含まれているホルモンで、僕が感じていることは奴に筒抜けだろう。


 狡猾な海の悪魔は八本の腕を自由自在に操って、僕をすみからすみまでいじくり回した。耳の穴までつつかれて喘ぐと、口にまた触腕を突っ込まれる。とても嚙み切れない太さだ(噛み千切ったところで再生するだろう)。口蓋を隅々まで探られるありえない感覚に、また股間が熱くなる。

 会陰から睾丸の裏までを、ぬるぬるの腕でぞろりと撫で上げられ、経験したことのない快感にだらしなくも涎がこぼれる。


 体の内側をぐちゃぐちゃ音のするほどほじくり返され、尻を振って悦がる僕は格好の遊び道具だったかもしれない。

 両手両足が自由にならない僕が、興奮したタコと同じくらい赤く充血した雄の器官を、それを包み込んでいるシーザーの腕に擦りつけると、奴はリズムを合わせるように扱き立てて、僕がもう少しでイキそうになると――急に根元をきゅっときつく絞る。

 そんなことが何度か繰り返されたものだから、しまいには僕は射精したくて気も狂わんばかりになっていた。

「シーザー、頼む、イかせて――もうだめ、出したい、お願いだから――」

 こんなときに使える効果的な意志疎通コミュニケーションの方法なんて無い。僕の汗と涙とその他だらだら下からこぼしているものに含まれる成分や諸々もろもろの様子から、限界が近いことを感じ取ってくれる可能性に賭けるしかなかった。

 

 必死の願いが届いたのか、シーザーは射精を堰き止めていた拘束をゆるめた。柔らかくぬめる腕で、僕のものを包み込んで一気に扱き上げる。同時に、中に入っている触腕の表面がコブのように盛り上がるのがわかり――それを激しく抜き差しされ、僕は声にならない声をあげ、腰をガクガク震わせながら、自分の胸まで汚すほどの勢いで絶頂した。


 ★


 薄暗いラボに自分の声が反響する。

 どのくらい時間が経ったのか感覚がない。僕はうつぶせに吊り下げられていて、尻にはシーザーの交接腕が出たり入ったりしている。棍棒並みの硬さと太さだ。それが前立腺をごりごり擦り続けているものだから、もうどっちで何回イッたかもわからなくなっている。それがシーザーの毒の効果なのか、どうなのか。

 床には水槽から溢れ出た海水とシーザーの粘液と僕の出したもので潮溜まりができている。そこに響く波音のようなものは僕の尻を犯しているシーザーの立てている水音で、ウミネコみたいな啼き声は僕のものだ。

 シーザーがしつこくいじくっているものだから、僕の乳首は真っ赤に腫れあがり、胸や脇腹には花が咲いたみたいにいくつもキスマークがついている。


 時たま現実に引き戻される頭で考える。

 今日は日曜――だったはず――だから、所長をはじめ、研究所の人間は月曜まで誰も来ない。

 僕が研究室に閉じこもっているのはいつものことだし……インターコムはまだ直していない。このまま体中の水分を絞り尽くされて……り殺されてもおかしくないんじゃないかとおそろしくなる。ええと……人間は体内の水分の何パーセントを失うと死ぬんだったか……? 床の惨状から推測するに、そろそろ限界値まではいる気がする。

 

 シーザーが腕を大きく引き抜く。括約筋が内側からめくりあげられる快感に息ができなくなる。

 一旦ぎりぎりまで引き戻した腕が、今度は勢いよく突き込まれる。

「あああッ……そこっ……おく、奥に、当たって……ッ!」

 潮溜まりにまた白い花が咲いた。

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