第36話 プノンの領主

『『プノンって今そんな事になっていたんだ。何年も見に行ってなかったからなぁ』』


屋敷に帰ってきて、アルトにプノン町の寂れた様子を報告した。


「折角、僕たちが住むのだから、どうにかならないかと思って」

『『そうだなぁ。そうだ…ソウタ、プノンの領主やってみないか?』』


「え?アルト…いきなり何言ってんの?」

『『やっぱり、町を思いやる人が領主になるべきだと思うんだよ』』


「え…ちょ、ちょっと待って?言いたいことは分かるけど…僕、何にも知らない素人しろうとだよ?絶対無理だって!!」


『『ソウタなら大丈夫だよ。少しずつ覚えていけばいいさ。現領主には辞めてもらう事にしてそれから…』』


押し切られてしまった。

僕がうっかり言ったで領主をやることになってしまった。


『ソウタ、領主になるの?凄ーい』


コルネットは凄く喜んでくれたけど。

嬉しいというより不安の方が大きかった。




   *




アルトの行動は早かった。

一か月しないうちに、仕事の引継ぎとして王都の担当者が屋敷に来たのだ。


「初めまして、担当のエミリアと言います。よろしくお願い致します」


黒髪の若い女性の担当者が頭を下げた。

玄関から中のリビングへ通す。


「どうか致しましたか?わたくしを見て驚いているようですが…」


「すみません。てっきり男性が来ると思っていましたので。よろしくお願いします」


黒髪ロングヘアーの妙齢の美女。

20代後半に見える。

スーツを着て、仕事が出来そうなキャリアウーマンっぽい。

だけど、どことなく見覚えがあるのは気のせいだろうか?


『エミリアさんはアルトさんの親族の方ですか?』


「あ…もうバレちゃいましたか。女神さまでしたっけ?嘘はつけませんね。わたくしはアルトの妹です。兄のサポートをしています」


エミリアはふんわりと微笑んだ。


「何処かで見たことあると思ったら、アルトのお母様に似ているのですね」


黒髪で翼は無いが、まとう雰囲気が似ていた。

母親の方が、言い知れない迫力がある気がするが。



「え?ソウタさんって異世界の人だったんですか?」


エミリアさんに簡単に自己紹介をする。

アルトには言ってあったはずだけど、そこまでは伝えていなかったらしい。


「召喚者って黒髪の人が多いのかな…。わたくしも黒髪ですけどね。以前、召喚者に会った事があるんですけど「勇者」と言われてましたね。その方は黒髪でした」


王都の本屋で見かけた勇者だろうか。


「あれって300年前の話ですよね?という事はエミリアさんは…」


「まあ、そういう事ですね。その当時は争いも無く平和でしたけど。あと、女性に年齢を聞くのは駄目ですよ?」


アルトの妹という時点で年齢はその位なのだろう。

天使族は長寿なようだ。


エミリアさんは資料を沢山持ってきていた。

仕事の仕方をまとめてきてくれたらしい。

テーブルに並べられた資料を見て、仕事って大変なんだなと改めて思った。

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