第29話 新たな場所へ

ゼノベアの王様と出会ってから数か月が経った。

ゼノベア王とフェミニアは順調に交際をしているらしい。


僕たちはゼノベア城の王様の私室へ来ていた。

王様アルトに呼ばれたのだ。

僕の隣にはコルネットが居て、僕の目の前にアルト、アルトの隣にはフェミニアがドレス姿でソファに腰かけていた。


「個人的に呼んだので堅苦しくなくていいよ。ソウタのお陰でフェミニアと知り合えたから是非お礼がしたいのだけど」


「お礼とかいいですよ。僕何もしていませんし」


「家はどうでしょうか?私が住むところを貸していたので…彼は今、困っていると思いますわ」


フェミニアとアルトは近々結婚するらしく、フェミニアはゼノベアの王城に居るようだ。


家ってお値段がかなり高いと思いますけど…。

でも、王様にしてみれば大した金額ではないのかもしれない。


「流石にそれは気が引けますよ。それに出来れば田舎で暮らしたいので…」


「田舎か…そういえば丁度いい家があったな。そこならどうだろう?昔、ぼくが住んでいたところなんだけどね。今はだれも使っていないし、中古だけどしっかりしているはずだ」


あれ?話が勝手に進んでいく。


「王様の言う事は普通、断らないのですよ。有難く受け取っときなさいな」


フェミニアが言葉をかける。

そういうものなのだろうか?


「では有難く受け取らせていただきます」


「それと、今度からぼくの事はアルトって呼んでくれ。折角友達になった事だし。君とはずっと長く付き合っていられるだろう?」


僕が長寿になってしまった事も話していた。

長寿も良い事ばかりではないようで…友達は歳を取れば亡くなってしまう。

王様だから気軽に話せる人がいないようだ。




   *




『お家貰えることになって良かったね』

「急に決まったからびっくりしたよ」


僕たちは王城から転移魔法で宿の部屋に戻った。

アルトが転移用に部屋を用意してくれていたのだ。

周りに気を遣わなくて済むから正直助かった。


「引っ越しは荷物を持たなくても良いから楽だね。ベッドとか普通、運ぶの大変だもんな」

収納魔法アイテムボックス、結構役に立つでしょ?』


コルネットは得意げだ。




異世界に来てからだいぶ経つ気がする。

カレンダーが無いから、どれくらい経ったのか分からないけれど。

数カ月前ここに来た時は驚いたっけ。


窓から夜空を見上げる。

異世界の空は月が二つあるんだよな。

もうずいぶん慣れたけど。



「コルネット?寝ちゃったのか…」


異世界に来なければ彼女にも会えていなかっただろう。

今はただ幸せだ。

寝息を立てる彼女の顔を眺めて、僕は金色の髪を優しく撫でた。


「今度の場所は少し遠いんだよな。隣の国だし。馬車で移動か」


一応、清掃とかしてくれるらしくて数日後には家に入れるらしい。

何年も使っていない家って言ってたっけ。


アルトから通信用の魔道具を預かっていた。

引っ越しの準備が出来たら連絡をくれるらしい。

小さいペンダントで、見た目は透明な水晶のアクセサリーだ。


「プノン町か…どんなところなんだろう?」


新天地は少しドキドキする。

期待と不安と。

僕はコルネットと一緒ならどこでも良いのだけど。

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