第30話 引っ越しの移動

トステア国のスミット町からゼノベア国プノン町へ。

どうやら馬車で一か月ほどかかるらしい。


『馬車使うの?転移使った方が早くない?』


まあ、確かに便利だし早いとは思うけどね。


「何でも魔法に頼ってばっかりもね。たまには普通に移動したいって思う」

『また盗賊とか、物騒なの会うの嫌だし…』


「コルネットなら向かうところ敵無しじゃないの?」


移動したら必ず出会う訳では無いと思うけどな。

この間が特殊だっただけで。


『むぅ…そうだけど…ソウタとの仲を邪魔されるのが嫌なんだもん』


コルネット、最近砕けてきたというか…表情が豊かになってきた気がするな。


「可愛い」

『な、もう急に何言ってんのかな~』


コルネットは顔を真っ赤にしていた。




   *




『『馬車で移動するのかい?』』


通信魔道具でアルトに移動手段を伝えた。

移動に1ヶ月かかるということも。


『『もし、良ければだけど…こちらの用意する乗り物でも良いかな?』』

「用意して下さるんですか?助かります」

『『馬じゃないけど、アレの方が大分速いとは思うし…君なら危なくても何とかなりそうだしね』』


少し気になったけど馬車代が浮くのは助かる。


「よろしくお願いします!」


引っ越しの準備が整ったと連絡が来て僕たちは外へ出た。

乗り物は何故か町の中では無くて、町を出たところに用意してあると聞いたけど…。

町を出ると大型のモンスターが居た。

大型のワイバーンだ。

何でこんなところに…。


「そちらがソウタ様ですかな?こちらが乗り物になります」


ワイバーンの横から鎧を着た男性が現れた。


「ま、まさか…」


「このワイバーンに乗り物が付いておりまして一緒に飛行します。一日で目的地に到着致しますよ?モンスターですが人に慣れていて大人しいので安心してください」


御者の人はティマーだそうだ。

確かに大人しそうだけど。

胴体部分にカゴが取り付けられていて運んでくれるらしい。


僕は顔が青くなった。

空を飛行するってことだよね?

怖いからなんて言って断れない。


「よ、よろしくお願いします…」

『ソウタ、大丈夫?』


こうなったら着くまで目を瞑ってやり過ごすしかない。

ガタガタ体が震えてきていた。


『仕方ないわね。効きにくいとは思うけど、軽い催眠術さいみんじゅつをかけるわ…あくまで一時的なものだからね。ソウタ目を閉じて…そう、そのまま聞いていてね。「貴方は高い所でも怖くない。全然怖くない。空を飛んでも大丈夫…」』


何だかぼーっとしてきた


『ゆっくりと目を開いて…良かった。効いたみたいね。これで何とか行けるかな?』


目を覚ました僕は不思議な感覚だった。

僕たちはワイバーンに付けられたかごに乗る。

籠は上空高くまで浮かび上がった。


「わぁ!凄い。空飛ぶってこんな感じなんだ…」


あれ?全然怖くない!

地上が小さくなって箱庭みたいだ。


『あまり外を見ないほうがいいかも…』


こんな気持ち良いのにコルネットは何を言っているのだろう?


こんな方法があるなら早くかけて貰えば良かったな。

そうしたら前も空飛んで帰れただろうに。


「あれ?」


急に体が震えだした。

おかしいな怖くないはず…なんだけど。


『やっぱり長くは持たないみたいね。ソウタこっちへおいで』


コルネットに手招きされ、胸にぎゅっと抱きしめられる。


『少しはマシになると思うから』


不思議と体の震えが止まった。

柔らかい感覚に包まれて安心したのだろうか。

彼女の胸の中で僕は眠りについていた。

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