第14話 コルネットのお仕事

『…あっ。ソウタ、ごめんなさい。行かなくちゃ…』

「え?コルネット?」


本屋に入ったところでコルネットが僕に声をかけた。

コルネットは眉間にしわを寄せている。

初めて見る表情だ。

名残惜しそうに、僕と繋いでいた手を離した。


『お仕事してこないと。直ぐに戻ってくるから…』

「そうなんだ。行ってらっしゃい」

「コルちゃん。ソウタは任せといてね!」


一瞬で姿を消すコルネット。

転移魔法だろう。


「居なくなるの初めてだな…女神の仕事あるんだな…」

「そりゃ当然じゃないの。今まで独占してたのが不思議なんじゃないの?」


あれ?

遠巻きに僕たち見られてる?


「本屋に入ったのに…兵士たちに監視されてる?」

「あ〜うん。ごめん。いつものことだから気にしないで」


いつもなんだ。

王女様は大変だな。

気のせいか、生温かい目で見られている気がする。




   *




『早く終わらせて戻らないと…』


わたしは天界に戻っていた。

本来の仕事をほっぽりだして、ソウタの所に居たのだがそうも言っていられないらしい。


水晶に手をかざすと、一人の金髪の青年がぼんやりと映し出された。

背中にキレイな白い翼が付いていて玉座に座っている。

顔を俯けていて、少し顔色が悪いようだ…体調が悪いのかもしれない。


『あら…この人は、前国王に推薦されて王様になったのよね。歳は300歳位だっけ?天使族だから長生きなのよね』


様子を探るべく注意深く観察する。

この世界が激変すること以外は干渉は出来ない。

いつも観察をする程度で、実際の仕事はあまり発生しないのだ。

あとは召喚魔法を誰かが使った時にフォローするくらいか。


『この人はかなりの魔力を持ってるから…誤作動したのかしら?』


設定しておいたアラームが鳴ったから、何かあったのかと思ったのだけど。

観察する限り特に問題は無いようだった。


一応注意することにしようか。


隣国の若い王を見てふと思い出す。

…わたしの前任の女神は人間になったって聞いていた。


『それがよく解らないのよね~』


別に神を辞めなくても良いのではないか?

寿命も極端に短くなってしまうのだし。

わたしには理解不能だった。




   *




「ごめん。やっぱ無理だわ」


僕はフェミニアから離れた。


「え?」


コルネットが居なくなった途端、落ち着かなくなってしまった。

今まで平常心だったのは彼女のお陰だったらしい。


「…私に絡んでくる人はいたけど断る人は初めてだわ」


フェミニアが僕の腕を掴もうとするが、避けた。


「あ、ごめん。そういうの無理だから。友達の距離感でお願いします。今まで通りパーティメンバーとしてなら良いけど」


僕はフェミニアと距離を取って、本を探し始めた。

しばらくすると、彼女は諦めたのか自分の好きなコーナーへ行ったらしい。


壁一面に本が並んでいる。


「伝記?召喚された勇者…」


幾つも同じような内容の本が売られていた。


「勇者か…異世界で魔王と戦うとか無理~」


本で読む分には良いけど僕には到底無理だ。

独り言を呟いていたら意外と早くコルネットが姿を現した。


「お帰り。早かったね」

『あれ?フェミニアは?』

「そこらへんにいるんじゃない?」


僕はコルネットがどうやら好きらしい。

少しだけど離れて初めて気が付いた。


『え?どうしたのソウタ。貴方からくっついてくるなんて…』

「たまには良いでしょ?」

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