第13話 王様のお願い

僕は王様に呼ばれていた。

玉座の間では無くて、割と小さめの部屋だった。

実務をする部屋なのだろうか。

書類が沢山置かれていた。


「ワシからの個人的なお願いがあるのだが…」


嫌な予感がする。


「ソウタ、フェミニアと婚約をしてはくれないだろうか?あの子はワシが言うのも何だが自由奔放でな…ソウタの事は、割と気に入っているようだし…いずれ結婚すれば大人しくなると思うのだが…」


「ええっ?王様、僕が言うのも何ですが…どこの馬の骨とも分からないものを信用し過ぎじゃないですか?貴族でもありませんし…」


大切な娘だろうにどうしたというのだろう。

ましてや王女様ならば尚更だ。

昨日今日会ったばかりの人を信用し過ぎではないだろうか?


王様は玉座に座っていた時の威厳が全く感じられなかった。

目の前に居る人は、娘を心配する一人の父親の姿だった。


「とにかく、本人の意志を確認してくださいよ。それからにしてください」


フェミニアって割と普通の人に見えるけど、今まで城で何かあったのだろうか?

訊いてみたい気もしたが、怖いのでやめておいた。



   *



「婚約?いいわよ」

即答だった。


「は?何言ってんの?そう言うのはよく考えてから…」


「だって知らない他国の王子様と結婚するのより何倍もマシだわ。このまま冒険者も続けられそうだし」


『婚約って何?』


ソファに座りながらクッキーを摘まんでいるコルネットが訊いた。

紅茶もテーブルに置かれている。


「結婚する約束かな」

『結婚って?』


「先ずはそこからか…結婚っていうのは、一生一緒に居ますって言う約束みたいなもので婚約は結婚するっていう約束かな」


『約束の約束?』

コルネットは首を傾げていた。


「じゃあさ、これから二人で本屋行かない?」



   *



本来の目的だった本屋へ行くことになった。

二人でと言ったが、コルネットも一緒だ。

フェミリアは僕の腕に腕を絡ませている。

柔らかい感触が腕に当たっているんですけど…。


街の通りを歩く。

いくら何でも今までと態度変わり過ぎじゃない?


どうやらカップルらしいことをしたいらしい。

確かにカップルは手を繋いだり腕を組んだりするものだけど…。


そういえばコルネットとはあまりしたことが無いな。

今度、手を繋いでみよう。

そんな事を考えていると…。


『ソウタ、えっと…手を繋いで良い?』


コルネットが遠慮しがちに訊ねてきた。

僕は左手を差し出した。

柔らかい手に包み込まれた。

手を繋いだだけなのに、今凄く幸せ。

高揚感が半端ない。


僕の右にフェミリア、左にコルネットが居る。

フェミリアの胸の感覚があまり気にならなくなっていた。


通りすがりの人からジロジロと見られていた。

あ、両脇に女性がいるからか…。


「周囲の視線が痛いな…」

「どの本を見に行く?取り合えず魔法の専門書かな?」


本屋の前に来た。

町の本屋とは規模が違う。

ドアを開ける手がふさがっているのでコルネットに開けてもらう。

本屋に入っても男性たちの嫉妬の視線が痛い。

今度来るときは一人の時に来ることにしよう。

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