7「任務」

刃の一日は、朝起きて、食事をし、学校にいく。

学校から帰ってくると、車が停まっていて、キラスと一緒に軍の施設へ向かう。

夜は、七時に帰って来て、食事をして、風呂入って、宿題をし、寝る。


そんな生活を送っていた時、刃に任務が来た。


キラスに呼ばれて、迎えに来てもらい、施設に行くと、一つの部屋に案内された。

一つの部屋は、長椅子と長机が六つセットであり、正面には教室の黒板位のモニターがあった。

周りは、白色の装飾がされてある壁に、床は暗い青色をしたジュータンが引き詰めてあった。

どうやら、ここは会議をする場らしい。


モニターの横には、マティドがいて、刃を待っていた。

椅子には、参加する人が三名座っている。

キラスから、それぞれ、探索が出来る魔法を使える人。

魔法は使えないが爆弾処理班。

全ての責任者だと、説明された。


刃は丁寧にあいさつを済ませると、キラスが座った椅子の隣に座る。

照明が落とされ暗くなると、モニターの表示がくっきり浮き上がってきた。

モニターに映し出されていたのは、一軒の家であった。


マティドが説明をする。


「この一軒家は、更地にする事で取り壊されます。でも、中に入って見たら、どうやら地下室があって防空壕になっているらしいの。今回の任務は、その地下室を調べる事。探索魔法が使える人の話だと、その地下に不発弾が埋まっていると出ているの。こういう土地の調査は、その地域の自治体や土地の管理をする人がするのだけど、不発弾となり、軍に回ってきたわ。それで、結界を作れるキラスと、攻撃出来る刃君となりました。この任務は、攻撃と結界のコンビが望ましくて、今の軍にはキラスと刃君のコンビが適任となったわ。」


モニターに映る家を回しながら、大きくしたり、小さくしたりしながら、説明が終わる。


「刃君は、初陣になるわ。でも、キラスがいれば大丈夫よ。あのさやとコンビを組んでいたから、安心していいわ。それと、現場には、何かあった時の人がいるから、刃君は言われた通りに進めれば大丈夫よ。質問はある?」


刃が最初の任務であり、緊張をしているだろうと思って、マティドは話す。

刃は、説明は理解できたけれど、不安はある。

質問は?っていわれているから、していいのだろうと思い。


「もし、不発弾を見つけてしまった場合は?」

「その時は、それ専門の魔法を使える人が、一緒にいるから、安心してね。」

「その日は、いつですか?」

「刃君には申し訳ないんだけど、平日なの。その土地の管理者が立ち会えるのが、平日しかなくて、学校お休みになってしまうわ。この事は、ご両親には、もう連絡してあって、許可をいただいているわ。来週の月曜日になるわね。」

「今日が、金曜日だから、明々後日?」

「そうなるわ。」


刃は、頭を抱えた。


「どうした?刃。」


横にいたキラスが声をかけると。


「ソフト麺。」


その一言で、キラスはいつも冷静にしている顔を崩した。


「は?」

「ソフト麺。好きな給食。月曜日なんだ。」

「給食……給食か。てっきり、不発弾だから怖いとか、初めての任務だから緊張しているとか、不安があるんだろうなって、心配したぞ。」

「俺にとって、給食はオアシスなんだよ。」


その二人の会話を訊いていて、会議に出席している人は、口を大きく開けて笑った。

笑われている時は、とても心地よくない刃。


「よかったら、その時、昼食は、ソフト麺を用意してもらえるようにお願いしておきましょうか?」


マティドは、提案すると。


「本当か?」


キラキラした目をした。

とても、嬉しそうにした。


「他に食べたい物あるか?」


キラスが訊くと。


「メロン。キャンピングカーで食べたメロン。すごく美味しかったから、また、食べたい。」


マティドに視線をキラスが向けると。


「いいわ。メロンも用意させましょう。どのみち、魔法を使うから、食事や水分は大量に必要になるわ。その他にも、食べたい物や飲みたい物があったら、紙に書いておいてね。」


マティドは、会議室にある収納棚から、紙と鉛筆を出して、刃に渡すと、その場で刃は書き始めたが、手が止まった。


「あのー、貴方方、三人は、何が食べたいですか?」


刃は、自分の事だけではなく、一緒に仕事する人に声を掛けた。

すると、三人は顔を合わせて、もう一度、口を開けて笑った。


三人は、この部屋に入った時に、キラスから紹介された。


探索が出来る魔法を使える人、塩梅竜あんばいりゅう

魔法は使えないが爆弾処理班の班長、六道射音りくどういおん

全ての責任者の南野蓮人みなみのれんと


爆弾処理となると、この三人がチームを組んで仕事をしている。


三人の背は、百八十は超えていて、軍で働いているというからして、とても筋肉質で見た目からもガッチリとしている。

髪も、短髪であり、後ろから見ると、三つ子かな?って思う位だ。

だが、違っている所がある。


塩梅は、眼鏡をかけていて、六道は、右頬に目から顎まで一筋の傷があり、南野は、髪が紫色であった。


塩梅が。


「別に俺達はいいんだぞ!坊主。」


六道が。


「そうだよ。刃君だっけ?君が好きな物、書けばいいさ。」


南野が。


「我々は大抵な物は、食べれる訓練をしているから、ある物を食べるさ。」


刃は、そういわれても気になり。


「では、好きな物一つずつお願いします。」


すると、三人は「仕方ないな。」っていい、それぞれ好きな食べ物を言うと、刃は紙に書き始めた。

そして、刃の食べたい物も一つに絞り、紙をマティドに渡すと、笑顔で受け取った。


「では、明々後日の月曜日、任務開始します。それまでに、栄養のある食べ物、適度な運動、そして睡眠をしっかりと摂ってね。これで会議を終了します。キラスは、刃君を送っていってやってね。」


会議が終わり、施設の廊下をキラスと歩いていると、キラスは急に止まった。

刃は、不思議に思っていると、キラスは一つの扉に手を当てた。


「この扉の向こう、以前、さや様が使っていた部屋だ。」

「へ?」

「見たいか?」

「見たいかって言われても、母さんが使っているなら、今も使っているんだろ?見て良いのか?」

「今は、使っていない。だけど、この部屋だけ、十五年の間、時が止まったままだ。十五年前のさや様を見たくはないか?」


その言葉につられて、肯定の返事をしてしまった。

キラスが魔法を使い扉を開けると、自然と明かりがついた。

埃っぽいと思ったが、軍の部屋は、全てに空調が回っており、空気はどの部屋も綺麗であった。


ザっと見だが、机、ベッド、冷蔵庫、椅子、本棚、衣装ケースがあった。

入口を下にすると、入口から右は壁で、左と奥に集中しておいてある。

左には机、椅子があり、隣には冷蔵庫があった。

奥の壁には、ベッドがあり、ベッドに面して収納ケースがあった。

本棚は、左奥にある。


まず、入口から入って真っ直ぐにある収納ケースを見ると、そこには着替えだろうか?制服らしきものが三着かかっており、下の引き出しには下着類があった。

引き出し開けた時には、瞬間的に閉めた。


「この制服は、さや様が高校生のだ。水に濡れたり、火で焼けたり、色々とするから、軍が着替えを多めに入手して、渡していた。本来なら、このような攻撃的な魔法を防御してくれる服が軍から授かるのだが、さや様は制服でいいと頑固としてきかなかったからな。」


キラスは、自分の服を刃に説明する。

キラスの服は、魔法で作られた糸で作成された特別性であり、例え、攻撃を受けても平気な作りをしている。

防弾チョッキというのが、刃には説明をするに簡単だ。

防弾チョッキの役割をする服だが、それでいて、軽く、洗濯もしやすく、シワにならない。

下着も、それなりの防御出来る魔法をかけてあるから、少しばかり、急所に当たっても痛くはない。


「へー、この服って、そういう役割なんだ。」


刃は、キラスの着ている服を触り見た。


「仕事中は、この服だが、休みは普通にジャージを着ている。」

「へ?キラスがジャージ?似合わない。」

「でも、夏音様もジャージだから、いいんだよ。」

「リスペクトってやつ?」

「そうかもしれないな。」


一息ついて。


「でだ。刃もこういう服をと思ってな。まだ、刃のサイズを測っていないから、今度の任務は軍の支給になる。魔法専用の服を今度作ろう。」


すると、刃は少し考え。


「俺も、学校で使用している格好でいいや。」

「いいのか?」

「キラスじゃないけど、母のリスペクト。」

「分かった。だったら、その中学の制服とジャージ、三着位必要になるな。」

「金かかったりする?」

「必要経費だ。気にするな。だが、今回の任務は、こちらが支給した服を着てもらうかもしれない。その時は、着替えて欲しい。」

「わかった。その任務毎に、服は考えるよ。」

「刃は、臨機応変だからありがたい。」

「母さん、頑固だからね。」

「全くです。」


その話をしながら、ベッドを見ると、今、ここで寝ていて去ったばかりだと認識する位、掛布団が乱れていた。


「あの時の出撃は、さや様がこの部屋でくつろいでいると、来た。」

「どんな仕事だった?」

「ただ単に、ミサイルが撃ち込まれて、排他的経済水域に落ちただけだ。だが、そのミサイルが大きくて、さや様ほどの魔法でも一発で爆破できずに、何発も放ったから、お腹空いてね。何とか任務を終えた頃には、飛ぶだけの容量しかなかったんだ。そして、帰りの時間になったから、そのまま、家に帰って行ったよ。だけど、それが最後になるとは思わなかった。あの時、何か、食べさせてから帰らせればいいと思ったよ。でも、元気でいてくれて良かったと思う。」


キラスが、とても、大切に語るから、刃は静かに聞いていた。


「それと、この本棚に入っている本だが、とても魔法の参考になる。一冊持っていって、学習するといい。」

「でも、母さんのなんだろ?許可は必要ないのか?」

「内緒にしておけばいい。」

「キラス、母さんの味方じゃないのか?」

「今のさや様は、私の知っているさや様ではないから。それよりもコンビの強化が大切。」

「キラス。」


本棚から、一冊取り出すと、刃に渡した。

刃は、本のタイトルを見ると「よいこのまほう」とあった。

タイトルを見た刃は、顔をゆがませた。


「キラス、俺の力って、弱いのか?」

「はっきり言って弱いです。でも、それを読めば、コツがわかりますよ。その本は、私も読んでから、魔法が強化されました。」

「へー。」


キラスを尊敬したと同時に、何か馬鹿にされている感覚が襲ったが、ふと、横にある冷蔵庫が目にはいる。

刃の頭によぎったのは。


十五年の歳月・冷蔵庫・中身、その後に続く言葉は「開けるな危険。」であった。

冷蔵庫は無かったと思い、机に意識を向けようとした。

キラスも刃が考えている事と同じで、冷蔵庫を見ている。


「キラス。これは無視してもいいのでは?」

「そうしたいが、そうもいかない。」

「開けます?」

「いや、これは、透視が出来る魔法を使える人に任せよう。」

「そ、そうですね。」


最後に机を見ると、綺麗にしてある。

しかるべき所に物が収納してあり、誰が見ても、何があるか分かる。

ただ、写真立てが倒れていた。


キラスに視線を向けると、覚悟をしている顔をしていた。


「これ、あげていいですか?」

「……いいぞ。」


写真立てを表に向けると、そこに写っていたのは、両親の写真であった。

刃は、二人と会えないかったが、写真は見せてもらっていたから、誰かは分かった。


「これ、お爺ちゃんとお婆ちゃんだ。」

「さや様は、ご家族を大切にしていらっしゃったのですね。」

「ん?でも、写真、厚くないか?」

「写真の裏に何かある。」


また、刃とキラスは顔を合わせると、息をのみ、写真立てを開けた。

すると、折りたたまれていたルーズリーフで書いた紙が入っていた。

開けると、こう書かれていた。

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