6「意思」

「刃、魔法を使うにはイメージが必要なんだ。」


訓練場にて、キラスはマティドと一緒に刃に魔法の使い方を教えていた。


今日は、朝、八時に刃を一般的な周りによく見かける車で迎えに来たキラス。


司は、昨日の軍といい魔法といい、覚える事が多くて、少しだけ頭痛をしていた。

だから休みたいといい、さやも司から離れたくなく一緒にいる。


さやもさやで、自分の中にある自分ではない物体と、過去の記憶と、冷静に向き合いたかった為、家にて休養をしたかった。


「イメージ?」

「そうだ。刃にとっては、初めて見た魔法がさや様だ。だから、さや様の様に魔法を使いたいというイメージが必要だ。だから、マティド。」


マティドは、刃にタブレットを渡す。

そして、今までのさやが行っていた魔法を使った任務映像を見せた。


「これが、初陣の任務ね。それから、これが……。」


マティドは、刃の横に座って順番に説明しながら見せる。

その映像には、さやがどれ位活躍をしていたのか、どれ位の魔法が使えたのか、訓練している映像もあり、どれ位努力をしたのかもわかった。


よく、漫画やアニメを絵として見るが、魔法を使うということは、簡単ではない。

魔法は、そこにあるけどない力を出すと認識をした。

逆を言えば、ないからあるにする力が魔法である。


イメージは、頭にあるが可視化はされていない。

それを可視化するのが、魔法であり、魔法を使える様にするきっかけが、すごいと思う気持ちだ。

尊敬する人がいれば、それに向かって勉強をするというのは、とても向上心があり、能力の目覚めも出来る。


キラスは、夏音のすごさを見て、魔法に目覚め。

刃は、さやのすごさを見て、魔法に目覚めた。

そこで、疑問があった。


「質問だけど、母さんは何がきっかけだったの?」

「それは知らないの。」

「知らない?どうして?聞いてないの?」

「うん。だから、さやの場合は、生まれ持った才能が魔法かなと推測したわ。」

「生まれ持ってだと、優秀だね。」

「そうね。魔法の世界からすると、産まれ持って魔法使いってすごいよ。だから、昨日見せてもらった魔法だけど、少し衰えていた様に見えたから、さやに限っては肉体や精神の衰えが、魔法にも影響しているのかもしれないわね。」

「母さんの生まれてからは、知りたくても知れないからね。」


刃は、少しだけ寂しそうな顔をした。


「データーで見た。刃、司様とさや様のご両親は、もう。」

「うん。俺が産まれる前に亡くなったって聞いた。お爺ちゃんとお婆ちゃんに会いたかったな。」

「そうか。なら、その分だけ、さや様をお守り出来る様にならないとな。」

「そうだ!そう思えばいいんだ!」


刃は、持っているタブレットをマティドに返して、立ち上がり。


「魔法とか軍とか思うからダメなんだ。俺は、母さんを護りたい。それだけを心に持っていればいいんだ。早速だけど、訓練お願いします。えーと、キラス!コンビだから呼び捨てでいいよな?」


キラスは、急にやる気を出した刃を見て、一つ息を吐き。


「ああ。覚悟しておけよ。刃。」


マティドに動画を見せてもらいながら、手からようやくさやと同じく、物体を出せた。

だが、手裏剣ではなく、刃が出したのは。


「これって、ダーツ?」


ダーツの矢が出て来た。

手の平に乗せると、本当に矢であり、軽い。

色は、赤色をしていた。


「ダーツの矢が、刃にとっては適正ということだな。丁度いい、魔法とか使わずにあの的に投げて見ろ。」


キラスは、訓練場にある丸い的を指さすと、刃はある程度狙いを付けて投げる。

だが、的までは届かず、途中で落ちた。


「もう一度出せるか?」


刃は、先程と同じ気持ち、考えをして、魔法を使うと、手の平に矢が出て来た。

今度も赤色をしている。


「さて、今度は魔法を使い、的に投げて見ろ。矢の周りに膜を張る見たいにイメージするんだ。」

「膜を張る。イメージ。」


すると、投げ矢の周りに白い膜が張った。


「この矢を、的に届け、射すイメージをするんだ。ダーツの的に矢が刺さっているイメージだ。」

「この矢が的に刺さっている。刺さっている。」


自動的に身体が動いて、肩を中心にし腕を前に放り投げると、矢が的に向かっていき、刺さった。

自分のイメージ通りに出来たから、刃は喜んだ。


「今の感覚忘れないようにな。」

「うん。」


二人の訓練を見ていたマティドは、どうして二人の脳波があったのかは、分かった。

二人を繋ぎとめているのは、さやである。

さやを思う気持ちが、脳波を合わせているのだろう。


この結果は、二人には知らせることはなく、報告として夏音だけに知らせた。






「ただいま。」


刃は家に帰ってきた。

家の中から出て来たのは、さやだ。


「お帰り、お腹空いたでしょ?」

「うん。昼は食堂で食べて来たけれど、魔法使うと、お腹空くのと水分が欲しくなるね。」

「そうでしょ?私も、もう、水分が欲しくて欲しくて。」


玄関で手を洗いながら。


「父さんは?」

「司さんは、今、お休み中よ。頭痛は取れたのだけれど、疲れたみたい。」

「そう。」


今日の報告は、夕飯の時にしようと思い、刃はさやからペットボトル式の飲み物を受け取り、夕飯までの間、宿題をすると言って、部屋に戻ると、頭に声が聞こえた。


「刃。」

「キラス。どこにいる?」

「もう、軍へ帰る所だが、どこまで意思疎通の力が使えるのか、試したい。」

「分かった。俺は、宿題があるのを忘れていたから、やりながらで良ければな。」

「そちらからも、私に試して貰いたい。」

「どうやるんだよ。」


刃が宿題の用意をしながら、頭の中で話をすると。


「私の顔を思い浮かべるだけでいい。」

「へー、そんな事だけでいいのか。なんか、顔認識機能みたいだな。」

「ああ、そんな感じだと思ってもらえれればいい。」


宿題をしていると、わからない所があった。


「なあ、キラス。あんた、勉強はどうなんだ?」

「どうとは?」

「出来るのか?」

「高校レベルは少し自信がないが、義務教育位ならなんとかな。」

「だったら、教えて欲しい。」

「何の教科だ?」

「理科だ。」


刃は、問題を読み始める。


「二酸化マンガンと過酸化水素水で出来る気体ってなんだ?」

「酸素だ。実験でやらなかったか?水上置換法っていうのでな。」

「その時、風邪曳いていて、実験に参加出来ていなかったんだ。」

「そうか。理科は、魔法とつながりが深いから、魔法に利用できるといいな。それと、国語は文章を読んで、その情景を頭に浮かばせると、イメージしやすくなるし、数学は角度や数値から、どれくらいの魔法の力で出せばいいのかを計算出来る。社会は、情報処理や歴史からシミュレーションに役立つ。英語は、世界で使われている言語で、聞きなれておいて損はない。さらにいうなら、美術や技術はイメージを可視化するには便利な教科だし、音楽は音で何の物質かや、どこから攻撃されているのかが分かる。家庭科は、自分を偽るには一番いい科目だ。」

「他の教科は言っている意味が分かるが、家庭科が、自分を偽る?」

「そうだ。家庭科は、洗濯、掃除は、浄化魔法の練習になる。料理、裁縫は変化出来る。変化を覚えれば、自分を偽り、本来の自分を隠して、作り変化した自分を出せる。さや様の手裏剣もそうだ。手裏剣と思わせておいて、回転で変化させると切れる刃となる。」

「なるほど、そういう偽りか。」

「体育は、体力の他に他人との連携を勉強できる。全てにおいても、無駄な教科はないし、勉強は大切だ。」


そんな話をしていると、キラスは施設に着いた。


「なるほど、脳波が合っているのを認めなくてはならないな。」

「どういうことだ?」

「施設についてしまった。さや様と意思疎通をしていたが、ここまで距離はなかった。」

「あの距離で意思疎通が出来ているのか?すごいな。」

「すごいな。」

「だったら、意思疎通が出来ている間は、キラスとは、通話料がかからなくていいな。」

「そうか、そういう考えも出来るな。だとすると、意思疎通が長く出来るといいな。」

「テストの時、分からない所を訊けるな。」

「そういう使い方はしない様に。」


その様に話をしていると、刃の部屋にある扉が叩かれた。


「刃、夕ご飯よ。」

「はい。」


刃は、キラスに意思疎通を切るといい、キラスも休むといって、止めた。

台所に行くと、司が起きていて、朝見た時よりも元気になっていた。

夕食を食べている時、今日の出来事を話す。


「そうか。そんな事をしていたのか。」

「それでだけど、ダーツ、買ってくれない?家でもイメージして練習をしたいんだ。」

「それは構わないが、魔法は使いすぎるなよ。それと、少しづつでいいんだからな。」

「そうするよ。父さん。」


さやは、二人の会話を聞いて、微笑んだ。


その日、刃は、夢を見た。

その夢は、戦争の夢だ。


一人の男性が、皆に指示をしていた。

だが、目の前に来た兵器で、仲間が全滅した。

とても悲しい夢。


それを遠くから見ている人がいる。

その人は、自分は良く知っている。

そう、自分の母、さやだ。


さやに声を掛けようとすると、目を覚ました。


何故か、涙があふれていた。


布団の上で、横になって気持ちを整理している。


「あれは、母さんだ。母さん、何で、あんな戦争の中にいるんだ。」


すると、部屋の前から声が聞こえる。


「刃、朝よ。」


その母、さやの声が聞こえると、現実に戻された。

返事をして、顔をパジャマで拭きながら起き上がる。

学校の制服を見ると。


「そうか、学校行かなきゃ。」


部屋から出て、洗面所に行き、一生懸命顔を洗った。

鏡を見ると、いつもの見慣れた自分だと認識し、大丈夫だと思うと、頬を一度、両手で叩いた。


「よし。」


普段の刃になった。

台所に行くと、朝食を用意しているさやと司がいた。


「おはよう。刃。」

「おはよう。父さん、母さん。」


いつもの通り挨拶をして、一緒に朝食をする。

仕事に出かける司と一緒に玄関に向かう刃。

それを見送るさや。


「あっ、分かっていると思うけれど、刃。魔法や軍の事は、話してはダメだよ。」

「分かっている。ちゃんと説明受けたから。それに、意思疎通が出来るキラスがいるから、きっと、察知されてしまうからな。今まで通り、普通に暮らすよ。」

「そうね。きっと、キラスは、そこまでするかもしれないね。」

「ストーカー見たいだな。」

「ストーカーというより、監視されている感覚よね。でも、心配してくれているからの行動なのよ。キラスって、心配症だから。でも、仲良くしてね。」

「……分かった。」


二人の会話を訊いて、司は、さやには頬にキスをして、刃には額にキスをした。


「二人共、魔法が使えるのはいいけれど、私からしたら、愛する妻と息子。無理はしないようにしてな。」

「「はい。」」


司と刃は、玄関の扉を開けて。


「いってきます。」とさやにいうと、自分の仕事に向かった。

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