5「覚醒」
魔法が使える部屋へと移動した。
この部屋は、どんな強力な魔法を使っても、平気な構造をしていた。
結界を張る魔法を使える人が、毎日、この部屋に力を注ぎこんでいるからである。
一応、司と刃は一般人だから、さらに結界が張られた部屋にて、さやを見守っていた。
司と刃の後ろには、キラスもいるから、結界をいつでも張る為に待機している。
さやは、自分の手に集中をした。
すると、赤い光が出て来て、次第に回転しながら手裏剣が出て来た。
夏音が話した通りに出来た。
それを、前にある丸い形をした的に向かって、手首を使い投げると、的は破壊された。
さやが一瞬、頭を手で押さえるが、魔法の余波だと思った刃は、目を輝かせていた。
「母さん、凄くかっこいいんだけど。ね?父さん。」
「あ、ああ。」
司は、確かにかっこいいと思ったが、先程の夏音が話をした活躍とは、少し違う風に思えていた。
「こうやって気を溜めて、物体を出して、投げる。」
刃は、その場でさやが見せた行動をした。
その時である。
見学する領域で爆発があった。
爆発は小さかったが、それでも目の前にある物体が破壊出来る程であった。
一番驚いているのは、刃である。
何が起きたのか。
さやも訓練場から来ると、床に座り込んでいる刃に駆け寄った。
「何をしたの?」
「母さんの真似をしただけ。」
「……これって、まさか。私の力が刃に遺伝している?」
過去、魔法を使える人は結婚などしなかった。
結婚をしてしまうと、いざ、任務をしようとした時に、時間が制限されるし、魔法が使えるのを知られたくなく誤魔化さなくてはいけない。
だが、漫画やアニメ、小説などの世界における能力を使える人達は、大抵、隠していてもばれるものだ。
だからこそ、ばれない為に結婚をしないのである。
「遺伝ではありませんよ。」
マティドが、その様子をモニターで見て来た。
その場で説明をする。
「この力は、刃君自身の力です。今まで使わなかったのは、魔法という物を見てなかったからです。過去にも結婚をして子供を産んだ魔法使いがいましたが、子供には遺伝しなかった。といいましても、その魔法使いは子供を産んだ時に亡くなりました。子供を産んだ魔法使いは、その日に亡くなるという話から、魔法を使える人は結婚をしないと噂が立ったのです。」
マティドは、刃に近づき、手を取った。
「お母さんの魔法を見て、すごいって思ったのでしょ?」
「うん。じゃなく、はい。」
「すごいっていう心が芽生えると、魔法を使う素質がある子は目覚めてしまうのです。でも、周りとは違う事から、すぐに封印をする子がいて、魔法に目覚める子が少ないのです。私達の軍でも、魔法を使える子を探していますが、封印されてしまっては探せなく、町に結界を張って、魔法を使える子を見つけては勧誘をしています。」
刃の手を離して。
「ですので、もし、お父様の許可があれば、刃君を魔法に目覚めさせたいのですが、いかがでしょうか?」
マティドは、司を真っ直ぐ見た。
ここで、魔法が使えるさやではなく、魔法が使えない司を選んだ。
司は、口に手を持って来て、考えている。
その姿を見ると、刃は、自分が父を困らせていると思い、母の魔法が凄いっていう気持ちを抑え込もうとしていた。
その時である。
刃の隣にいたさやの口から、刃に言葉を発した。
「こんな力があるなら、使わないと損だな。」
言葉遣いが、さやではなかった。
刃は、一瞬、身体をこわばらせた。
「母さん?」
刃がさやを呼ぶと、何かあったのかと刃に訊く。
「ううん。ねえ、母さん、魔法の力って人を助ける力でしょ?でも、父さん、困っている。どうしよう。」
「そうね。でも、私は司さんから離れてはいけないと思っているし、もう、司さんの意思に従うしかないんじゃないかしら。刃は、魔法の力、使いたい?」
「うん。母さんみたいに使いたい。」
そのやり取りを訊いて、司は仕方ないと顔をした。
「条件があります。さや、刃。危険な任務であっても、生きて帰ってくること。それを軍はサポートすること。軍も誰一人として、生きて帰ってくること。これらが護られるのであれば、許可をします。」
司の言葉で、今後の方針が決まった。
「早速だけど、マティド。」
「夏音様。分かっていますわ。健康診断としましょう。さやのこの十五年間のデーターは既に探索班により入手済みですから、それを元に検査します。刃君は……そうね。生まれてからの情報が欲しいので、今から、入手しますが、今の体調を知りたいので、同じく検査を行います。司様は、一応、血液検査だけでも行います。母子で魔法を使えるとなると、父のデーターも取得して研究しますから。」
マティドは、三人とも検査をすると言って、検査室へと案内する。
その間、キラスは休む為、自分の部屋に移動した。
検査室にて、まずは、司の血液を入手した。
後に続き、さやに刃も血液を採る。
「では、さやから検査していきます。」
一般的に会社で検査する様に、レントゲンやエコーなどが行われた。
刃も同じく、行い、二人共健康だと伝える。
ただ、水分不足になりかけだからといわれ、食堂へと案内された。
丁度、午後三時を回った位、おやつを含めた少し遅めの昼食となった。
キャンピングカーの中で、少し食べていたので、この時間まで食べなくてもよかったが、流石にお腹が空いて来た。
食堂に来た刃は、感動していた。
「おおー、すごい。なんでもある。」
日本食だけではなく、ジャンクフード、B級グルメ、各国の料理のメニューがずらりと写真付きで並んでいた。
写真を触ると、何処で育った食材か、何が使われているのか、料理の詳細が出て来る。
「ねえ、母さんは、ここの食堂利用していたんだろ?どれがおすすめ?」
「そうね。私は、日本食を食べていたと思われるわ。」
「そうか。なら、この鯖定食食べて見よう。父さんは?」
「俺もいいのかな?魔法使えないんだけど。」
「いいのよ。」
「そうかい?えーとなら、俺は中華にしようかな。」
「そうね。だったら、私は、パスタとかにしましょう。」
そんな会話をしながら、注文する。
「お金は何処で払うのかな?」
「あ、お金は必要ないの。」
「え?もしかして、軍にいる人は無料で食べられるのか?」
「そうらしいわ。えーと、それなりの働きをしているから、食事位は自由に。」
「そうなのか。いいな。」
注文すると、五分もしない内に出来たと報告があり、カウンターまで取りに行く。
机に並べられて、一緒に食すと、とても美味しかった。
そんな三人に声を掛ける人がいた。
キラスだ。
「キラス、休めたの?」
「はい。それに、お昼ご飯まだでしたので来ました。どうです?軍の食堂は?」
司に視線を向けて訊く。
「ええ、美味しいです。」
「それは良かったです。検査は?」
今度は、さやに視線を向けた。
「ええ、問題ないわ。刃も健康そのものよ。」
「それは良かった。所で、さや様、私と意思疎通は出来てませんね。」
「そういえば、そうね。……ってことは、コンビではないって事?」
「その通りです。さや様の意識を感じた時には、意思疎通が出来ていたと思われますが、その後から、何度、さや様に意思を伝えようとしても出来ないのです。」
「そうなの?だったら、私も、キラスも、コンビを見つけないといけないですね。」
「そうなりますね。本当ならさや様と一緒が良かったのですが、意思疎通が出来ないのであれば、仕方ありません。」
「コンビで意思疎通が出来ないと、仕事にならないからね。」
その様に話をしていると、マティドが来た。
マティドは、三人が座って食事をしているのと、キラスがいるのを見て、丁度いいといって、隣の机とセットになっている椅子を持って来て、タブレットを見せながら話をする。
お昼の時間ではないので、食べている人は少なく、机も椅子も空いていたから、余裕をもって椅子を持ってこられる。
キラスも、椅子を持って来て座る。
「体調的には問題はなかったのですが、コンビの波数が違っていました。」
「コンビの波数?」
「はい。コンビを組む時には、波数があって、脳から発せられる波が合う人となります。さやは、記憶喪失になられた時に、脳波が狂ったと思われます。話はきいてますが、過去の事を思い出した時にキラスと脳波が繋がったと思われます。でも、検査の結果では、脳波は乱れていました。」
さやとキラスは説明を訊いている。
刃は、なんとなくは分かるが、全部は分からず、少しだけ混乱していた。
司は、分かったが、魔法を使うとなると脳波まで影響するのかと思っていた。
「それでですね。さやと脳波が合う人は、この軍にはいません。ですので、しばらくはソロとなります。」
「一人で任務ね。」
「はい。」
マティドは、口元に軽く握った手を持っていき、少し迷いながらも、結果を話す。
「ここから重要なのです。夏音様にも報告済みで許可も出してもらっていますが、そのーキラスと刃君の脳波がですね。軍初めてといってもいいほど、とてもピッタリで、コンビとなりました。」
その一言で、キラスと刃は顔を合わせた。
「は?」「え?」
色々と軍の決まりを勉強した後、家に帰る。
キャンピングカーで、キラスが運転して送迎するが、とても大変な空気になっている。
「ほら、刃、メロン切ったよ。」
さやが、休憩で立ち寄った車を停めて休める施設で、メロンを切って出すと、刃は素直に受け取り食べ始めた。
「キラスさんもどうです?メロン。」
司がキラスに器に入ったメロンと、フォークを出すと、運転席に座りながら受け取り食す。
二人をキャンピングカーに残して、さやと司は、飲み物を買ってくると言って離れた。
「大丈夫かしら?」
「うーん。二人の問題だからな。」
心配をしていた。
メロンが食べ終わると、口を開いたのは刃だ。
「コンビなんでしょ?でも、俺、まだ、あんたを認めてませんからね。」
「なんで脳波がぴったりなのか。」
「こっちこそ、迷惑だ。」
「ええ、私こそね。」
後部座席と運転席で、口論となっていた。
「やっと、コンビのさや様を見つけた時には、安心したんだ。十五年も探したんだ。その場所に来てみれば、一軒家で、訪ねた時には「どちら様?」って言われたんだぞ。何も覚えていないと言われ、魔法も使えない。もうどうしていいか。」
「それほどまでに魔法使いたくないんじゃないか?確かに、母さんの魔法はすごいって思ったが、話しに聞くほどの威力ではなかった。年齢的に衰えているんじゃない。」
「魔法っていうのは、年齢で衰えるものではないんだ。現に、百歳を超える魔法を使える人が軍にいるが、威力は衰えていないぞ。」
「魔法って、そもそも、何が原動力なんだよ。」
「話し聞いてなかったのか?すごいって思う気持ちだ。私だって、すごいって思った人がいて、その人を心に思っているから使えているんだ。」
「へー、誰なんだよ。」
「夏音様だ。」
「へ?だって、あの人、魔法使えないんじゃ?部屋だってノブあったし。」
「だからすごいんだよ。まあ、そんな話は置いといて、軍からの命令で、コンビを組む事になったんだ。明日から、訓練するぞ。さや様以上になって貰わないと、困るからな。」
「そっちこそ、母さん以上になったら、俺の事、様づけで呼べよ。」
「なれるのか?」
「なる!」
そんな会話をキャンピングカーの外から訊いていた、さやと司は、顔を合わせて微笑んだ。
その微笑みは、安心をしている顔であった。
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