4「勧誘」
この施設は、周りを見ると薄い青色で装飾されていた。
廊下といったらいいのか。
横に三人並んで歩いても、十分にスペースがある。
扉らしいモノがあるが、それらにはノブも座もないから、魔法が使える人のみ開けられる仕組みなのだろう。
何回か角を曲がり、階段を使って下り、上がりをした後、一つの部屋にたどり着いた。
部屋には扉があり、ノブもあった。
この事から、この部屋にいる人は、魔法が使えない人だと認識される。
「さて、ここがさや様の上司がいる部屋です。緊張すると思いますが、ご安心ください。怖い人ではありませんし、話をすれば聞ける人です。私も一緒にいますから、分からない単語がありましたら、遠慮なくきいてください。」
キラスが、安心させる為に言葉を司と刃にかけると、二人は目を合わせて首を縦に動かした。
キラスが、一度ノックをして、ノブを使い開けると。
「待っていたよ。さやちゃん。」
いきなり、テンション高くして部屋から飛び出してきた男性がいた。
男性は、ジャージという楽な格好をしていた。
背は、小柄で百五十センチくらい、顔はおっさんというのが合っていた。
お腹が少しだけ出ているが、目立つほどではない。
おっさんというわりには、髪はとても綺麗で、青色のおかっぱだ。
男性が飛び出して抱き着いた相手は、キラスであった。
「キラス。なんでいるのかな?」
「貴方がいきなり抱き着いて来ただけです。
さやと司と刃は、夏音の部屋に入り、置いてある椅子に座ると、キラスがお茶を淹れた。
部屋は、折り紙で作ったと思われる作品が、壁に張られていたり、チェストの上に置かれていたりしていた。
お茶を置くテーブルには、折り紙が束になって置かれていて、本棚には折り紙の本がずらりと並んでいた。
それ以外は、ここで夏音が過ごしているのだろう。
ベッドに小さな台所、服が閉まってあるのだろうと思われる洋服ダンスがあった。
お茶を飲むと、夏音はとても笑顔になっている。
「よかった。本当に、行方不明って聞いて、とても心配したんだよ。それに、今は、記憶喪失で、まだ、思い出していない所もあるって。でも、生きていてくれてよかった。」
夏音は、もう一口お茶を飲むと「よかったよかった」と、安心と心配を交差させる様にいう。
次第には、泣くのではないかと思う位、とても感情表現を身体からあふれ出していた。
さやは、そういえば、自分の上司、夏音は、こんな性格だったなって感じた。
「申し遅れました。私、さやちゃんの上司、夏音です。貴方と貴方が、さやちゃんの旦那さんと息子さん?」
夏音は、右手をかざして、司と刃に確認をした。
「はい。さやの夫、司です。こちらが。」
「えーと、さ…さやの息子、や…刃です。」
司と刃は、自分の名前を言った。
そこから少しだけ話をする。
「家庭を持っていたとは思わなくて、こんな立派な息子さんもいるとは、驚きです。失礼だと思いましたが、資料を取り寄せ読みました。司さんはとても苦労されたのですね。」
「いや、それは。」
「失礼しました。でも、すごく感動しているのです。それと、息子さんは今、中学一年生ですね。さやちゃんが我々軍に入ったのも、中学一年生なのですよ。」
さやと魔法との出会いを話す。
「いや、来ないで。」
さやは、拒否している人を見つけてしまった。
さやは不思議な力を持っていた。
手に意識を集中させると、赤い光が集まって来て、それを手裏剣みたいに出来た。
それを手のひらで回転させると、まるで刃のようになり、手首を使って動かすと、投げ飛ばせる。
それを使い、拒否している人を救った。
拒否している人を襲った人物を、魔法で作った手裏剣を片手に、背中を踏みつけ体重をかけて、片手を自分の余っている片手で後ろ手に拘束していた。
拒否している人に、さやは視線を向けると。
「さてと、この人は貴方とは?」
「全く知らない人です。」
「やれやれ、ストーカーですか。」
さやは、スマートフォンで警察に電話をしようとしていると、周りに結界が張られた。
魔法を使う人なら、魔法で張られた結界は分かる。
スマートフォンを見ると、電波が遮断されているのが分かった。
結界を張った人物が、キラスである。
「おっと、お嬢ちゃん、連絡はしないで欲しいな。」
「は?どういう事?」
キラスは、さやの頭に手を当てると、次第にさやは眠りに落ちていた。
この時、さやの頭に結界を張って、周りの空気を遮断し、脳に直接眠りを与えた。
目を覚ますと、どこかのベッドに寝かされていた。
見えてきたのは、薄い青色の天井だ。
天井は、木製ではなく、金属製だと認識出来た。
そこに覗き込む一人がいた。
「大丈夫か?」
「あっ、貴方。私の邪魔をした!」
「邪魔は、そっちです。」
起き上がり、近くにあった水道からコップに水を入れて、さやに渡す。
さやは、水をジッと見ていた。
「ここは、日本だし、水道の水は飲めるよ。」
水を渡してきた人が、同じくコップに水を汲んで飲んだ。
警戒心高いさやは、今一度コップを見て、水を理科の実験みたいに手で仰いで匂いを確認した後、飲んだ。
美味しかったから、大丈夫だと安心した。
「さて、説明をするよ。あの場にいた男は、ストーカーではない。襲っているように見えたのなら、誤解だ。女性に勧誘をしていたんだ。」
「でも、嫌がっていたでしょ?拒否していたのなら、迷惑よ。それに何の勧誘よ。」
「私のいるここは、簡単にいいますと、軍です。」
さやは、目を丸くした。
「ぐ……ん?軍って、戦争とかの軍?」
「そう。」
「ちょっと、なんで、私、こんな所にいるのよ。」
「それは、こちらも知りたくてね。あの場所は魔法で結界が張ってあって、軍関係で、しかも魔法が使える人じゃないと入れない領域なんだ。だから、どうして、あの場所に、君がいるのか。」
「は?普通に入れたわよ。家に帰るのに近道を使いたくて、入ったのよ。」
「一般的に魔法を使えない人には見えない道だったんだ。そこに入れたということは、君は魔法が使えるね。」
魔法と訊いて、自分の手の平から手裏剣を出した。
それを回して見た。
「魔法って、これの事?」
「ええ。それです。」
「幼稚園に通っていた時から使えたわよ。ただ、周りは出来なかったから、何故か、内緒にしていないといけないと心にあって、両親にも話してはいないわ。」
「いい心がけです。」
さやは、聞きたい事があって、再度、確認する。
「で?あの女性は無事なのね?」
「ええ、あの女性は、魔法が使えたので、勧誘をしていただけなのです。でも、やり方がいけなかったみたいですね。そこは反省しています。で、今は、私が君を勧誘しています。よければ、軍の魔法使いやりませんか?」
「いいわよ。」
空気が凍り、時が止まった。
「今…なんと?」
「いいっていってんのよ。貴方名前は?」
「私はキラスです。」
「私は、さや……
さやは手を出した。
自然とキラスは、その手に惹かれて、握手をしていた。
それから、さやは軍の魔法使いになり、契約・健康診断・情勢の勉強・軍の規則などを行った。
最初の出撃は、とても派手になっていた。
「いい、さや、キラスと一緒に日本の海に落ちている船の中にある機械類を回収するのが任務よ。」
軍の指示している人がいた。
とても綺麗な声をした人であり、キラスの後に会話をした人である。
普段は、健康診断をして、体調を心配してくれる人だが、戦闘になると指示する人へと変わる。
身長は百七十位あり、お尻辺りまである長い茶色の髪でサラサラしている。
軍の制服を着ているが、健康診断の時には上に白衣を着ていた。
容姿は綺麗で、中学生であるさやからみれば、とても美しい大人の女性に写っていた。
さやとのこれまでの会話で、とても信頼をしている人になった。
「はい。マティドさん。」
「海の中だから、無理しないように。キラスもさやを護ってね。」
「了解。」
キラスは、さやの周りに空気の防護を張った。
キラスの得意魔法は、結界である。
攻撃よりも守りが得意だ。
「キラス、行きます。」
「いつでも。」
一緒に海へと潜る。
球体の防護壁の中に、さやとキラスがいて、順番に海底へと沈んでいく。
海底に沈むと、探索魔法が使える人の通り、沈没した船があった。
船の中を捜索したいが、扉が開いていなかった。
扉を魔法の手裏剣を使って開ける。
「ここですね。」
「そうね。ここが探索班が見つけた部屋ですね。パソコン類が一つ、二つ、三つ、四つ、五つあります。」
「それと、こちらにはハードディスクとタブレットも……、機械類は全て持ち帰るのが任務だから、この量は何往復すればいいのだ?」
すると、さやは。
「キラスの結界って、もう一つ作れるの?」
今、自分が入っている結界を軽く内部から叩いて、一緒に入っているキラスに訊くと。
「はい。私の結界は、最高三つまで出来ます。」
「だったら、機械類を結界に入れていきましょう。」
「そんな方法が。」
キラスは、最初に目の前にあるタブレットに結界を張った。
次には、近くにあるノートパソコンにディスクトップ型のパソコン、ハードディスクを、まるでラーメンの上にある油を一つにする様な作業をすると、部屋にある機械類が全て入った。
「では、地上に出ましょう。」
さやは、キラスと一緒に船から出た。
出た時、船を破壊するのも任務の一つとしてあったが、さやは少し考えて。
「キラス、さっき、三つ結界が張れるといいましたね?」
「ええ。」
「だったら、船も結界張って、地上に引き上げられないかな?」
「は?出来ますが、破壊が目的の船ですよ。」
「でも、ここで破壊すると、お魚さん達がご迷惑かかりますよ。」
結界の外に、優雅に泳いでいる魚を見ると。
「わかりました。やってみましょう。」
「お願い。」
キラスは、さやに言われて、船に結界を張った。
流石にキラスも三つの結界は重く、とてもゆっくり浮上する。
海から出ると、海面が揺れた。
大きな波が立ち、近くの地域では波浪警報が出された。
出された船は、豪華客船よりも小さく、漁用の船よりも大きい位の大きさだ。
キラスが結界を解くと。
「重たかった。」
「おつかれまさま、キラス。じゃあ、私の結界も解いていいわ。」
「でも、濡れてしまいますよ。」
「いいの。キラスは、そのパソコン達を護って、私は、任務通り、船を破壊します。」
さやは、その様にいいながら、まだ、空を飛ぶ魔法を使えないから、海に浸かりながら手のひらで手裏剣を何枚か出して、大きく腕を振った。
すると、手裏剣は回りながら、船に飛んでいき爆発した。
船の破片も、全て吹き飛ばして、粉々になった。
まるで、花火を見ているかのように派手だ。
その時、海の水や空中の空気を浄化する魔法を持った人達が集まり、綺麗にしていく。
海に浸かりながら見ると、その情景はまるで花に集まる妖精の様。
さやは、その光景を見ると、とても心が温まってきた。
「さあ、さや様。海から出ましょう。」
「はい。」
キラスは、ホバリングをしているヘリコプターから縄梯子が下ろされて、それにさやを掴まらせて、次に自分が掴み、そのまま飛んで行った。
その後、一ヶ月ほどで空を飛べる魔法を使える人からの訓練で出来た。
「空を飛べる魔法は、とてもカロリーを使いますので、ダイエットはしてはいけませんよ。」
魔法によって使うエネルギーは違うらしい。
さやが使っている攻撃的な魔法だと、体中の水分を使う。
産まれてから、水分を良く取るなって思っていたが、そういう原理だ。
キラスが使う守りの魔法は、精神を使う。
だから、睡眠不足がいけないので、休める時は横になって休む。
キラスは、やる事がないと、ソファーだろうが、床だろうが、横になって眠る。
空を飛ぶというか、重力に反する力を使う魔法は、カロリーを使い、浄化や綺麗にする魔法は、糖分を使う。
だから、空を飛び、浄化魔法を使う人は、とても大量に食べる。
さやの初陣の時の妖精は、普段はとても良く食べる人達だ。
甘い物だけではなく、辛い物、苦い物なども含めて、バランスよく摂る事で、魔法は強力になる。
だから、いつでも食べれるようにと、軍の食堂は二十四時間三百六十五日開いている。
本当に危険な出撃には、簡単に手づかみで食べられる物を大量に用意をする。
その用意するスピードは、とても速い。
まだ、さやは、そこまでの任務に就いていないからわからないが、その時の食堂は戦場である。
他にも、探索や知識の魔法は身体の疲労が溜まるから、体力をつけるのが必要になる。
休むことが大切だが、動かないのも悪く、その魔法を使う人の為に、筋肉トレーニングルームもいつでも使える様に設備されている。
どの魔法を使うにしても、美味しいご飯と十分な運動、そして適切な睡眠は必要である。
「さやちゃん。」
「夏音様。」
夏音は、さやに日頃の仕事を褒めた後、さやに茶封筒を渡した。
「わー、給料日だ。」
「大切に使ってね。」
「了解です。」
銀行振り込みも出来るのだが、さやは、まだ義務教育中の学生である。
可視化する事で、お金の大切さを感じて欲しかった。
キラスは、銀行振り込みである。
「魔法を使う皆は、食事に使うけど、さやちゃんは何に使うのかな?」
「今の所、貯金かな?」
「何かやりたい事あるのかな?」
「ええ、この魔法が、何かあって使えなくなった時の為に、お金だけは貯めて置かないとね。」
「魔法が使えなくなるなんてないけど、まあ、そうなった時には、ちゃんとそれなりの報酬は渡すよ。」
「ありがとう、夏音様。」
「というわけで、さやちゃんは、とても魔法を使いこなしていって、十五年前は、さやちゃんは大活躍していたんだ。」
夏音は、司と刃に話をする。
司と刃は、さやを見ると、到底、そんな活発な人にみえない。
「では、さやちゃん。魔法をご家族にみせては?」
夏音は、椅子から立ち上がり、さやを誘導する。
さやは、自分の魔法が本当に使えるのかを知りたかったから、この時を待っていた。
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