第7話

 「ご注文は、お決まりですか?」

店員が寄ってくる。

「あぁ、えぇっと、コーヒーを……あなたたちもコーヒーでよかったかしら?あ、食べるものの方がいいなら選んでくださっていいのよ」

「コーヒーでいいです。な?」

「うん」

「では、コーヒー四つで」

 

 「コーヒーですね。ではドリンクバーのご利用ということでよろしかったでしょうか?」

「え?コーヒーだとそうなるの?」

「はい、そうなります」

「じゃあ、それで」

「承知いたしました。ドリンクバー四名様ご利用ですね。ドリンクバーはあちらにございますので、ご自由にどうぞ」

 

 「こういう場所、使うことがないもので知らなくて……ごめんなさいね」

「いえ、俺たちも久しぶりですし。ハヤト、お前の分も取ってきてやるよ。三澤みさわさんもホットコーヒーですね。ミルクとか入れられます?」

「いいえ、ブラックで。ごめんなさいね、お願いしちゃって」

「全然構いませんよ。リョウ、取りに行こう」

 

 コーヒーを飲みながら、三澤さんはスカウトの件について話をしてくれた。

酒井さん──昔からの知り合いらしい──と話している時にたまたま俺たちの話題になり、タブレットで映像を見せてもらったのが興味を持つきっかけだったらしい。

──この子たちはイケる、その想いが強くなり今日のライブで確信に変わったと。

寝耳に水の話で、俺たちはポカンとするばかりだった。

 

 「突然の話なので、よくわからなくて。今日のところは、一旦持ち帰っていいですか?三人で話したいし」

「もちろんです。そうよね、突然こんな話を聞かされたら驚くわよね……やっぱり酒井さんに間に入ってもらえばよかったかしら」

三澤さんはおろおろしている。

大人の女性と思っていたけど、なんだか可愛らしいな。

 

 結論からいうと、俺たちはミサワ・プロダクションと契約を結んだ。

そしてその決定は大正解だった。

三澤さんはすごく顔が広いうえに有能な人だった。

俺たちの知名度はグングンあがっていった。

そしてそれを嫉んだのが──カジュアリーだった。

 

 回想の海から上がった俺の耳に聞こえてきたのは、マミの声だった……潜っていたのは一秒足らずといったところか。

「あの時前座を務めたのがカジュアリー自分たちだったら、今ごろ俺たちがソロ・コンサートを開いていたのに、と言っていたそうですわ」

「自分らで仲間割れして解散したから出られなかったんじゃないか。自業自得だよ」

タツヤも俺も頷く。

 

 「一度解散したもののダンスも歌もやめられなかった彼らは、再結成後はルーレットのように『どの曲でも歌って踊れる』ように頑張ったようなのですが、どうあがいてもルーレットの二番煎じと言われて……曲ごとのヴォーカルをくじ引きで決めたのが原因ともいわれてますが」

「あ~らら、そりゃあ真似っこって言われちゃうよ」

「そこでどういう思考からか、ルーレットがいなくなれば自分たちがオンリーワンになれると考えたようで」

 

 「それってさ、逆恨みもいいとこだよな」

「ホントに、そう思いますわ」

「そのカジュアリーが俺たちのことを依頼した相手って?悪魔みたいな存在?」

「悪魔といえば悪魔ですかね。悪魔の手先と言いますか」

「誰だろう?……悪魔に誰というのも変な話だけど、サタンとかデーモンとか」

 

 「人間界では悪魔に名前をつけられているのですね」

「うん。神様方にもね……って、マミは神様に仕えているんだろ?なんていう名前の神さまなの?」

「名前はございませんわ」

「名前がなければ話しかけるときに不便じゃないの?」

 

 「私たちは言葉では会話しませんの。人間界でいうところのテレパシーで意志を伝えるのです」

「テレパシーはいいとしても、さ。どうやって会話の相手を特定するの?」

「私が会話できる方は、上司が一名と同僚三名に限定されているのです。それぞれのオーラに同調シンクロすることで会話が可能になります」

「便利なようで不便だね、決まった相手としか会話ができないなんて」

 

 「そうでもありませんわ。こうやって任務──あえて任務と言わせてもらいますけど──の時は、ある程度の裁量権が与えられているのです。なので誰かに相談するということも上司に伺いを立てる必要もないのです。もちろん行なっているすべてが自動で上司には伝わっていますので、不慮の事態に陥った時は手助けしてもらえますが」

 

 「へえ、便利なシステムだね」

「私はこのシステムしか知らないので便利かどうかの判断はできませんが……ちなみに私の上司も、上司との連絡は同じシステムを取っているそうです」

「神様の世界も、会社みたいなんだな。さっきから言ってる上司ってのが神様なんだろ?」

「いえ……えっと、私の上司とそのまた上司は人間界でいうところの『天使』と言った方がわかりやすいかと思います」

 

 「じゃあ、マミも天使になるの?」

「私は、その分類からいうと精霊だと思います」

「精霊って、妖精みたいに羽が生えてるかと思ったんだけど、そうじゃないんだね」

「私たちには本来は肉体というものがありませんから……」

なんだかすまなそうな顔をしている。

 

 「そういうもの、なんだろうね。俺たちもさっきまでは身体がない存在だったんだし」 

【ワンワン(俺は犬になるくらいなら、身体がない方がいいぞ!)】

「それは申し訳ないと思っていますが……」

【ワンワン(わーった!、もう言わないから泣くなって)】

 

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