第8話

 「それで、俺たちはなにをどうしたらいいのかな?って、俺の質問から話が脱線したんだったよね、ごめん」

「そうでした……それでは話を戻しますね。そのカジュアリーのメンバーたちは、闇魔術を行なったのです。そうして呼び出した使い魔と契約を交わして事故を起こしたのです」

「使い魔が事故を起こしたの?あ、さっき悪魔の手先って言ってたっけ」

 

 マミが頷く。

「負の存在にも、私たちと似たシステムがあるのです。今回の事故は、上級悪魔の仕業だということでした」

「使い魔が依頼を受けて、上級悪魔が手を下したの?上級悪魔を直接呼び出したわけじゃないんだ?」

「普通の人間が悪魔を呼び出すのは無理ですわ。魔道書に載っている召喚法で呼び出せるのは使い魔がせいぜいといったところです」

 

 「へぇ……まあ魔道書なんて見たこともないから知らなかったけれど、そういうものなんだ。って、いつの間に魔道ありきの世界になってるの?」

「みなさんがご存じなかっただけで、結構人間界に魔道は浸透しているんですよ」

「え~?うっそぉ」

「どちらかというと女性のほうに浸透している感じですかね……恋愛成就とかの依頼を私たちも受けることがありますし。私たちに依頼する場合は光魔術を利用されてますね」

 

 「光魔術に闇魔術、か。魔術とか物語やゲームの中のことだとばかり思っていたよ」

「まさか、こんな身近にというかぼくたち自身が巻き込まれたなんて信じられないや」

「魔術は浸透もしていますし、魔術師の中には下級悪魔を呼び出せる者も方法も存在してはいます。ですが、ちゃんと修行していない者が見よう見まねで呼び出してしまうと、召喚した時点で瞬時に消滅させられてしまうのです」

 

 「それで使い魔を呼び出して依頼した……で、そのあとは?」

「使い魔の手に余るような依頼だったので、中級悪魔を経由して上級悪魔に伝達されたようです」

「ほんとにマミたちのシステムと同じなんだね」

「その……契約時の寿命三十年というのは誰が決めたの?」

「依頼が上級悪魔レベルのものだと判断された時点で、上級悪魔が決定して……」

「中級悪魔を経由して使い魔に伝達された、というわけだね」

「そのとおりです」

 

 【ワンワン(寿命三十年だなんて……カジュアリーの奴ら、よく納得したな)ワンワン(あ、全部で三十年だったら、そうでも……)】

三十年なので、合計百二十年ですね」

カジュアリーの奴ら、ばかじゃねぇ?

口には出さなかったけれど俺たち三人の思いは同じだったようで、同時にため息をついた。

 

 「それで、その上級悪魔は神様が仮封印してるんだよね?」

「はい。ただ、私たちには実体というものがないので、全てを捕らえることができなかったそうなのです……神様の手が届く前に分裂して逃げて。ごく小さな存在として人間にとりついて散らばってしまったので、私たちでは存在を感知できないのです」

「だから俺たち人間だった存在にを探す依頼をしてきたと」

「そうです」

 

 ……そりゃ、受けるしかないだろ?

「受けるしかないよね」

「そうだね……俺たちに関わることだものね。それで、どこで暮らすことになるの?あとどんな生活を送ればいいの?」

「住む場所は、あなた方が以前住まれていた界隈になります。ペット可──ごめんなさい──のマンションの一階です。タツヤは仕事へ、ハヤトと私は学校に行きます。そこで情報収集を行ないます」

 

 【ワン(俺は?)】

「リョウは自宅内で情報収集を行なってください」

【ワン(自宅で?)】

「そうです……もしも猫や鳥の姿だったら、屋外で情報収集を行なってもらったのですが、犬では自由に外での単体行動ができませんので」

【ワンワン(犬じゃなかった場合でも動物確定かよ?)】

「あ、が悪かったです。申し訳ございません」

 

 【ワンワン(自宅で情報収集っていうのは?)】

「リョウには犬としての優れた嗅覚が備わっていますが、耳もあらゆる生きものの声──動物の鳴き声も含めて聞き取れる能力を備えています。空を飛ぶ鳥や、外を通る猫などのペットや人間の話を聞いて収集してください」

【ワン(わかった)】

「あと、鼻はのにおいをかぎ分けることができます」

 

 【ワンワン(いったい、どんなにおいなんだ?)】

「口では説明しにくいのですが、知識としてリョウは所持しているはずです。嗅げばわかるようになっています」

「すごいじゃん、リョウ」

「スーパーわんこだね」

「あとつけ加えると、私たちが外部から持ち帰ったにおい……その日会って話した相手のにおいからも嗅ぎ取ることができます」

 

 「すれ違っただけの相手のにおいは?」

「そこまでは無理みたいです。ちゃんと意識して会話した相手のにおいに限定されるようですね」

「そうか……においを頼りに、くっつかれた相手を特定していくんだな」

「それしか方法がないようなことを上司から聞いています」

「特定できたら、どうするの?」

「私が接触して、回収します。そして上司を通じて神様に送ります」

 

 「それじゃ、早速今から行動開始?」

「はい。今から住まいに移動します。タツヤの職場とハヤトの小学校も準備してありますので、明日からはそこに通ってもらいます。それぞれ中途入社と転校という形になりますが……元から居たという設定にするには私の力不足で……」

「別に、気にしないよ。ねえ、タツヤ」

「もちろん」

「では、移動しますね」

マミはまたどこかから棒のようなものを取り出して一振りした。

 

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