第2話


 僕は田中の言葉に引っかかりを感じながらも、次は図書室の隅々まで探してみることにした。

 棚の奥や机の下、さらには本の間まで丹念に探してみたが、ノートは見つからない。

 

 まさか誰かが持ち出したなんてことがあるのだろうか。

 あるとすれば、それは。

 


 ――ふと、田中の座っている窓際の席に目を向けると、彼が読んでいる本の下に何かが見え隠れしているのに気づいた。



「田中。その本の下に何かあるみたいだけど、見せてもらってもいい?」



 田中は一瞬ためらったが、やがて本を持ち上げた。

 そこには、「大事なノート」というマジックペンで書かれたノートがある。間違いなく美咲さんのものだ。

 


「どうしてこれを隠していたんだ?」



 僕は田中を睨んで言う。

 いかなる言い訳も聞き入れないつもりだ。これは紛れもない証拠なのだから。


 

 田中は少しうつむきながら答えた。


「ごめん、悠斗。実は、美咲が君に気持ちを伝えたいって言ってたんだ。でも、どうやって伝えればいいかわからなくて、僕に相談してきたんだよ。だから僕がノートを隠して、君が見つけるように仕向けようとしてたんだ」



 田中の目が真っ直ぐ、僕を見つめる。

 

 僕はその言葉に驚いていた。

 美咲さんが僕に気持ちを伝えたかったなんて、全く信じられないのだ。



「……嘘じゃないんだよな。言い訳ならもっとマシなものにしろ」

「いや。本当だって」

「そう…なのか。で、でも。こんな方法じゃなくても、直接言ってくれればいい」



 そこで田中は苦笑いを浮かべ、ため息をつく。

 まるで「何もわかっちゃいないな」と言わんばかりに。



「それができるなら、最初からそうしてたよ。でも美咲はすごく恥ずかしがり屋だから、こんな方法しか思いつかない。こういう不器用な方法でしか良しとしないのさ」






              * * * *






 彼女は図書室の外で待っていた。


「見つけたよ」


 僕はノートを掲げ示す。

 美咲さんは驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔になった。


「ありがとう、悠斗くん。思ったより早かったね」


 それ以上は何も言わず、僕が差し出したノートをそっと受け取る。


 本当に美咲さんは何も語ろうとはしない。ただノートを胸に抱きしめて、僕の目をじっと見つめている。


 僕は動くことも、何かを口にすることも躊躇われた。

 

 


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大事なノート 那須茄子 @gggggggggg900

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