大事なノート

那須茄子

第1話

 風が校庭を駆け抜ける中。

 僕は図書室で一冊の本を手に取っていた。

 

 

「悠斗くん、ちょっと相談があるんだけど…」


 遠慮がちな声で話しかけてきたのは、クラスメイトの美咲さん。

 こんな放課後の図書館に来てまで、僕に相談とはよほどのことがあったのだろうか。


 少し身構える。


「どうしたの?」

「実は私のノートが消えちゃったんだ。昨日ここで勉強してた時に置き忘れてて――でも、今朝来たらもうなかったの。大事なノートだから見つけたいんだけど」


 

 ……なるほど。

 放課後に図書館に来たのは、その大事なノートを探すために来たらしい。それで探すあてもなくなり、丁度クラスメイトが居たということで相談されている訳か。


「分かった。僕も一緒に探そう」

「いいの? ごめんね、ありがとう」


 頼まれちゃ仕方ない。

 僕は美咲のために、少し調べてみることにした。


 


「ちょっとお手洗い行ってくるから」と美咲さんが、図書室を出てから十五分。

 思ったより長いようなので、先に僕でも出来そうな事をやろう。 



 そうと決まれば、まずは聞き込みから。

 図書室の司書さんに聞いてみる。

 昨日の放課後に図書室にいたのは僕と美咲さん、そしてもう一人、クラスメイトの田中だったことが分かった。

 

 彼はいつも放課後、すぐに学校を出て行く姿を見ることが多い。そんな彼が、昨日の放課後に図書室にいたとは少し意外だった。


改めて図書室を見回すと、今日も田中は居る。窓際の席で本を読んでいた。



「田中。昨日の放課後、図書室で何か見なかった?」


 僕は田中に声をかけた。

 彼は一瞬驚いたような表情を見せた。その目は揺れたが、すぐに落ち着きを取り戻したようだった。


「いや、特に何も。でも、美咲がノートを探しているのは知ってるよ。確か水玉模様のノートだよね」


 田中の言葉に少し違和感を覚えた。僕はまだその大事なノートの特徴を知らない。だが彼は美咲さんのノートが水玉模様だと知っている。なぜだろう。


 田中は普段、他人のことにあまり関心を持たないタイプだ。それなのに、彼が美咲さんの大事なノートのことを知っているというのは、何か特別な理由があるのかもしれない。


 彼が何かを隠しているのではないかという疑念が、僕の中で膨らんでいく。

 


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