第3話 害虫とか思ってゴメンなさい

「かわいいから誘拐してきたとか……じゃ、ないですよね?」


 ポロっと溢れてしまったわたしの本音を、


「あー、似てないのは血が繋がってないから。でもちゃんと兄弟だから、オレたち。な? セツナ」


 竹川くんが否定します。セツナくんも頷いて、


「こんにちは。竹川セツナ、2年生です」


 わたしに頭を下げました。

 ちゃんと挨拶できてえらいです。いい子です、かっわいぃ〜ですぅ~♡


 そして、やっぱり2年生でした。わたしの鑑定眼もなかなかのものです。

 名前はまだしも、なぜ学年まで教えてくれたのかはわかりませんけど、そうしつけられているのでしょう。


「はい、セツナくんですね。わたしは十日坂とおかざかこころです。セツナくんのお兄さんとは、高校生のときにお友達でした」


 わたしの自己紹介に、


「なにそれ、今は友達じゃないみたいじゃん」


 セツナくんのお兄さんが反応します。

 あははっ、そういってるんですよ? ちゃんとわかっててえらいですねー。


 わたしはお兄さんには笑顔だけを返して、


「今日は、お兄さんとお出かけですか?」


 セツナくんに話しかけます。

 すると彼は、整ったお顔をしかめて頭を横に振りました。


「にーちゃん、えいが……みたい」


 そして兄へと向けられる、おねだり顔。


 ずっきゆーん!


 な、なんですかそのお顔!? か、かわいいっ♡ かわいすぎますうぅー!


「ねぇ……ダメ?」


 ダメじゃないす! ダメなんかじゃないですっ。行きましょう、今すぐ行きましょう!


 わたしの動揺や感想はさておき、会話の内容からセツナくんは、映画を観に行きたいらしいです。

 はぁ……こんなすてきな美男児とで映画なんて、憧れます~♡


 ですがにーちゃんの返答は、


「だからにーちゃん、今日はムリだって」


 という、害虫レベルのものでした。


 ……わかってない。

 あぁ、わかってないのです!


 セツナくんほどの美男児と一緒に映画ですよ!? それがどれほど贅沢なのか、この害虫はわかっていないのです!

 本当に、はらわたえくり返りますね!


「いつならいいの?」


「……わかんね」


 兄の皮を被った害虫の答えに、泣きそうな顔をするセツナくん。

 あー……かわいそうです。そんなにすばらしいお顔を、悔しそうにゆがませないでほしいです。

 でも、そのお顔もいいですね♡ よだれが溢れそうです。


 と、


「ねぇ、こころちゃん。今日ひま?」


 害虫がきいてきました。


 暇かと問われて、「6さいの小学1年男児と24歳OLの歳の差恋愛マンガ(微エロあり)を買いにいく予定はある」とはいえないので、


「とくに予定はありませんけど? それがなに……」


 そう答えかけたわたしは、悟ってしまいました。


 こ、これは、……ですよね!?


 はい、わかります。

 わかりました、察しました、理解できました!


 竹川くん、害虫とか思ってゴメンなさい。

 そして元害虫のいいたいことを理解したわたしは、セツナくんに確認します。


「わ、わたしとでも、いい……ですか? 映画観にいくの」


 わたしの言葉で、セツナくんのひとみにキラキラと輝きがともりました。


「い、いいの!?」


 わたしの顔、次にお兄さんの顔を見る弟に竹川くんはうなずいて、


「こころちゃん、お願いできる? こいつ、そんな悪ガキじゃないから、いうことは聞くとおもうし」


 お兄さんの言葉にセツナくんは、


「うん! ちゃんと、おねえちゃんのいうこときくっ」


 とっても嬉しそうに答えます。

 というか……「おねえちゃん」って、わたしのことですよね!?


 きゃあぁ~♡ おねえちゃんですって!

 はい♡ おねえちゃんですよぉ~。


 嬉しいという感情だけつくられた、セツナくんの笑顔。


 がッ、がわいいでずうぅ~っ!

 何これ!? これ何なの!?


 見てていいの!?

 こんなかわいいお顔、わたしがもらっていいの!?


 あまりの愛らしさに混乱したわたしは、思わず……セツナくんの頭をなでなでしていました!


 嫌がる様子はなく、おとなしくなでられているセツナくん。

 小さな頭……彼の髪は細くてやわらかく、とってもサラサラしてます。

 やば! こ、これって犯罪でしょうか!? 勝手に触れてもよかったのでしょうか!?


 冷静に考えれば犯罪のような気もしますが、お、お友達の弟さんなのです……から? 大丈夫ですよね? 通報されませんよね!?


 頭をなでられていたセツナくんが、すっとわたしに横に来ると、


「にーちゃん、もういっていいよ」


 竹川くんに手を振りました。


「はぁ? いいわけないだろ」


 竹川くんは財布から千円札を2枚出すと、


「映画代。あと、こいつにお昼なにか食べさせてくれるとありがたいんだけど」


 わたしに手渡します。

 なんだかお兄ちゃんっぽいですね。少し見直しました。


「セツナ。このお姉さんのいうこと、ちゃんと聞けよ」


「だいじょーぶ」


 答えた弟に竹川くんは言葉にしては何も返さず、ただ頷くだけ。

 その様子は、彼が弟を……セツナくんを信頼しているんだなと、ひとりっ子のわたしでも感じられるものでした。


「じゃあお願いね。こころちゃん」


 わたしにつげ、次に、


「5時にさっきの公園に迎えに行くから」


 弟につげる竹川くん。


 さっきの公園というのは、近くにある『くらげ公園』と呼ばれている児童公園のことでしょう。この近くに、公園はそこしかありません。


 セツナくんは頷いて、


「にーちゃん、バイバイ」


 軽い感じで手を振ります。

 この子、初対面のお姉さんと映画に行くことに、なんの抵抗もないみたいですけど?


 うーん……けいかいしんがないのは、あまりよくありません。

 セツナくん、きみ美男児なんですよ? 世の中にはきみのようなあいらしい男児をねらっている犯罪者はたくさんいます。気をつけないとダメです。


 軽い様子の弟に仕方なさそうな顔を向けると、


「じゃあ、ごめんね……ありがと、十日坂さん」


 竹川くんはわたしを、「こころちゃん」でななく「十日坂さん」と呼んで、どこかへ走って行きました。

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