第41話 初めての召喚

目が覚めると朝だった。


また、昼寝のつもりで朝を迎えてしまった。


睡眠中の特別講習は有難いけど、体を洗いそびれてしまった。


俺…臭うんじゃないか…?


帰ってきたクマエに体を洗っていないなんて知られでもしたら、皮が剝けるまで、濡れタオルで擦られるんじゃないか。


それ垢じゃない、皮です!…みたいな…


いや、洗ってくれるならまだいい方か……


「鼻に付くほど臭いです!なぜ自分で洗えるのに、洗わないですか?不潔!!」って近寄ってくれないかもしれないな。


折角、美人とお近づきになって、慕ってもらっているのに……


美人に臭いって敬遠されたら、マジで心に深い傷を負ってしまうだろうな……


上級者になると、その言葉が心に食い込む感覚に身震いするような快感を覚えるのだろうが、生憎と、俺は、その界隈では三下も良い所だ。


絶対に立ち直れない!その自信がある!!


今でこそ美人耐性がゼロで、ドキドキしながらクマエのそばにいて、それが表に出ないように努めているというのに……


クマエを含めて、二度と美人と同じ空気を吸えなくなるわ。



まぁ……クマエが慕っているのは、ラゴイルだから、全部ラゴイルのせいにしちゃってもいいんだけどさ……



召喚術を試す前に、しっかり汚れを落とすか。


【白き理】を用いての召喚は、朝日よりも日光の強い時間帯の方が適しているようなことをおじいさんが言っていたし。


召喚に成功したとして、きったねぇ主じゃ、様にならないし、呼ばれた側は気持ちが萎えるよな。


俺なら汚れからくる体臭の香しい主になんて、頼まれたって、貢がれたって、仕えたくないし。


ひとまず、ヤマモリさんに洗体準備を依頼しようと、一階へ下りた。


「……おはようございます、ラゴイル様、朝食の準備が済んでいますので、どうぞ召し上がってください。」


「すいません。頂きますね。ヤマモリさんは?」


俺は速やかに返事を返したが、ヤマモリさんの一瞬の間が気になって仕方なかった。


「ラゴイル様、私もご一緒してもいいですか?」


「どうぞどうぞ。」


朝食の際も、一緒に食べているヤマモリさんに、臭い思いをさせていたのではないかと、ちょっと申し訳なくなったわ。


まぁ、臭かったらわざわざ一緒に食事をしたいなんて言い出さないか……


俺の考えすぎかな。


「ヤマモリさん、悪いんだけど、体を拭くためのお湯とか、用意して欲しいんですが……」


「食事のあと速やかに用意いたします。お部屋にお持ちすればよろしいですか?」


「はい。よろしくお願いします。」


俺のお願いに、ヤマモリさんは快諾してくれた。


もしかして、やっぱり、ちょっと香しかったのかもしれない…萎えるわぁ…



朝食の後、公言したとおり、速やかに用意してくれた。


俺は、行水できるくらいの大きな桶と大量のお湯で、徹底的に体を洗った。


キレイに汚れを落とせた御陰で、体もしっかり温まった。


風呂上がりに、ベッドに転がった。


いずれは、大きな湯舟に、手足を伸ばして入って、まったりしたいな~。


そんな思いに、ついつい浸ってしまった。



スッキリさっぱりして、一息いれたところで、気力が充実して来た。


いざ召喚術だ!


まずはログハウスから離れないと、ヤマモリさんに見られてしまう可能性がある。


特に、召喚にあたって周囲が暗くなるわけだから、その範囲からログハウス周辺が外れるくらい遠くに行かなければ。


それに、召喚にどのくらい時間がかかるか分からないし、召喚の邪魔をされたくないから、安全安心な場所が良いなぁ……


安全安心な場所と言えば……今日も例の祠に向けて出発だ!!


今までのところ、祠で“人”には遭遇していない。


そして、あの祠も俺が行くまで、入念に管理されている雰囲気ではなかった。


今日も多分、独りになれるだろう。


そこで、スキルの実践練習だ!


誰にも見られずにする“秘密の特訓”に心が躍る。


しかも、“召喚”


楽しみでドキドキが止まらない。


玄関に向かう足取りも、気を抜くと軽くなりそうで、意識して踏み締めた。


「ヤマモリさん、今日も祠まで散歩がてら歩行練習行ってきます。」


顔に出さないようにと、食べた事のない昆虫食をイメージしながら、管理人に出発の挨拶をした。


「分かりました。御気を付けて行ってきてください。」


俺のイメージは功を奏して、ヤマモリさんは察することなく送り出してくれた。

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