第40話 従者 その2
「どうだったかなぁ。【黒き理】の事はアイツに聞いてみてくれ。儂に訊いたなんて言ったら、アイツ、拗ねちゃうぞ。」
拗ねちゃうって……そういう歳には見えないけど。
「まぁ、コストが違うし、出発までの時間を考えると、こっちの方が良いかもしれんのう。」
「……」
「なんじゃ?何か不満か?」
「いえ、人じゃない、例えば、動物とかも召喚できます?」
「勿論じゃ。ただ、人と大きさが異なれば集める光の量が変わるぞ。違いという違いはそのくらいじゃのう。」
「光の量が変わるっていうのは、明るくなるまでの時間は同じだけど、暗くなる広さが変わるって事ですよね?」
「おっ!鋭いのう!その通りじゃ……あ!言っとくが、ただの村人を召喚するのと、高名な英雄を召喚ではコストが変わるからな。」
「はい。」
「それから、この世界の英雄を召喚することもできれば、お前さんの知っている英雄を呼び出すこともできるからな。」
「おぉ!!それはイイですね。」
「お前さんだけが知っている英雄を呼べば、こっちの世界に人には無名で、追跡者に足が付かなくて、いいかもしれんのう。」
「ですね。ひひひ……」
それなら、呼び出すのは彼にしよう。
「なんじゃ、もう誰を呼び出すか決めたのか?」
「はい。楽しみにしていてください。」
「もう一度聞くが、お前さん、召喚に成功したからって、クマエをクビにはしないんじゃな?」
「クビ?」
クビって聞くとドキドキするわ。
まだ、会社員気質が残ってる証拠か……
まぁ、実際はクビなんてそうそうない。
俺のいた会社で横行していたのは、“理不尽に理不尽を重ねて、居られなくして、自主退職に追い込む”パターンだ。
だから、自分の仕事が理不尽に増えたりすると、次は自分かと覚悟をする従業員が多かった。
しかし、単に自主退職に追い込む意図も無く、シンプルに仕事を押し付けられることもある。
それでも、今までそのパターンを何度も見聞きして来た従業員の脳裏に過るのは“自主退職への追い込み”だ。
クビを見聞きしていないからこそ、クビの妄想が膨らみ、聞くだけでドキドキしてしまうのかもしれないな。
転生してから…自分がする側に立って…こんな事に気が付くなんて。
働いている時に気が付けば、もっと仕事に打ち込めたのかもしれないな~。
「どうなんじゃ?」
俺はおじいさんの一言で我に返れた。
観れば、眉間に深い皺を寄せて迫るおじいさんがそこに居た。
「クビって……人聞きが悪いなぁ。召喚に成功しようが失敗しようが、クマエの自由意思に任せます。希望としては、俺がラゴイルではないことを知った上で自由意志の下、残って欲しい。」
「それならば、良かった。それと、儂の【白き理】に限って、召喚に失敗は無い!もし仮に失敗したら、ぜーんぶ、お前さんのせいじゃ!!」
少ない言葉に乗りきらなかった安堵が、冗談に乗せられて、伝わってきた。
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