第37話 二つ目のスキル その2

俺はスッと挙手した。


「何よ。」


「正面から来たら、言われた通り、左手をかざします……」


「分かってるじゃない!」


いやいや、話の途中なんよ。


「はい。ただ、それ以外の……例えば……背後から突然ナイフでグサッみたいな脅威だと、手をかざす暇が無いんですけど…」


俺はグッと堪えて、質問の続きを伝えた。


「それは……そうねぇ。私の方で何とかするわ。まずは、向かってくるものに左手をかざしてみなさい。体験しないと【黒き理】がどういうスキルなのか、あなたも全く分からないでしょ?」


「確かに……了解です。」


「あと、ジジイに言われて、分かっていると思うけど、【黒き理】も検出されないと思う。それはつまり……」


「他人に理解されることが難しいんですよね?理解されないから検出のしようもない。焦点を合わせることができなければ、見落とすってのと同じだと思ってます。」


俺は、さっき話に割り込まれた仇を取ってみた。


「――!……そうよ。だから、周りに他人がいるときとか、試さないでよね。」

「理解の出来ない現象だけ見ても、不審がられるだけだから。」


「はい。」


「本当に分かってるのかしら……例えば、試しに、誰かに石を投げて貰うとかも無しよ。投げ手に不審がられるから。」


「むむむ」


クマエに投げて貰おうと思ったけど……


言われてみればそうだよな。


買い出しから帰って来たら、突然ラゴイルに俺に向かって投石しろ!と言われ投げてみたら……あら不思議!

空の筈のラゴイル様が、何かしらのスキルを使って対応しちゃいました……

不審そのものだ……


「そうねぇ……例えば、岩が転がってくる罠を作って、自ら掛って、岩に左手をかざしてみるとかいいんじゃない。」


「怖っ。」


「ふふふ。【黒き理】を信じる心が試されるわね。」


これは…試せって事か…?


「まぁ、試さなくてもいいけど。」


「え……いいんですか?」


「いいんじゃない?その時が来れば分かる事なんだし。」


食いつかせておいて、ぶん投げる……とっても良い性格ですね……


まぁ、教えて貰っているんだから、このくらいは我慢我慢。


「分かりました!」



「で、私の事はなんて呼ぶのかしら?」


黒くて…グラマーで…、美人で……


美魔女……?


いや、多分“魔女”はダメだな。


きっと魔法使いって規格じゃない。


白尽くめのおじいさんと同格っぽいから、神性のようなものを帯びている気がする……


だからと言って、“おばあさん”なんて言ったら、とんでもないことになりそうだ!


困ったなぁ……



「せんせぇ……」


「はっ?……いいわよ。……多分だけど、あなた……本物ね。」


この場合の“本物”は、褒めてないな。


そんな気がする。


「なんだかすいません……」


「まぁいいわ。よろしくね。」


「はい、今後ともよろしくお願いします。」



さて、今度はおじいさんに続きを教えてもらわねば。


そう思った途端、急に黒い世界が白く切り替わった。


今度は、おじいさんが目の前に立っている。


「まだ頑張れそうか?」


「はい。よろしくお願いします。」



「偵察の次は何じゃ?」


偵察の次か……


【白き理】が最強だとしたら、こんな俺でも戦う術があるかもしれない。


百歩譲って、俺から攻撃が出来なくても、せめて……


「自分の身を守る術が知りたいです。護身術的な……何かいい方法ありますか?」


「んーーっ。色々あるんじゃが、困ったな。」


「やっぱり今のこの体じゃダメですかね…先に体力の回復を済ませてからですか…?」


「いや、そうじゃないんじゃ。あいつにも言われたじゃろ?【白き理】も、【黒き理】も、結局のところ、“空”のお前さんがそのままやったら不審がられるんじゃよ。」


「そうですか……って事は、身を守るため攻撃も、カムフラージュして……穏便な攻撃にする必要があるんですね。」


「がはは、穏便な攻撃って、お前さんは、何を言っとるんじゃ。攻撃は穏便じゃないだろ!」


ははは、確かに。


それならば……

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