第36話 二つ目のスキル

黒い大地に立つ女性は、手をこまねいている。


目が合うと微笑みを返してくれた。


クマエに勝るとも劣らない美人だ……


しかし、俺の心境のせいか、その端正な顔立ちが不気味さを増幅させていた。


仲直りしたんだから大丈夫……


俺は自分にそう言い聞かせて促されるままに、黒い世界に足を踏み入れた。


先ほど感じた悪寒に繋がるような震動は感じなかった。


緊張が緩み始めたその瞬間、さっきまで白かった世界まで黒くなって、すべてが黒い世界に変わった。


漆黒……


女性の姿も…おじいさんの姿も…見失った……


光も…音も…全てが無に帰したような黒。


死んだ……?


自分の存在も分からなくなりかけた。


手を動かして見ると、実感がある。


しかし、その実感にさえも疑念が生じ、再び込み上げてくる不安……


ヤバいところに足を踏み入れちゃったな。



「おい!陸田!!何やってんだ!!こっちこい!!」


業界の展示会に、俺の会社が出店し、俺はスタッフで参加したにもかかわらず、競合他社が手配していたコンパニオンの美しさと可愛さに、ついうっかり名刺を渡して、挙句の果てに連れ込まれそうになったところを、親しい上司に引っ張り出されたのを思い出した。


また俺は……やらかしたのか?


マヌケな経験を思い出しているうちに、次第に目が慣れて来たのか、女性の姿が見えるようになった。


「おぉぉぉ!良かった~。」


「何がよ?」


「いや~、何も見えなくなっちゃって……ドキドキしちゃいました」


「何をバカなこと言ってるのよ。そういうの良いから、始めるわよ。」


「あ…すいません…」


仲直りしても、こんなに棘っちいのか、この人は……


「私があなたの中に入ったって事は、ジジイが入った時の“白”が、“黒”で入ったってことよ。分かる?」


「ちょ……はい。分かります。」


おいおい、だいぶ端折ったな……


理解中心に進めようとするおじいさんと、かなりタイプが違うのか?


それとも、理解してついて来いタイプか……


「それと、さっきジジイから、あなたの知りたい事、やりたい事をきっかけに、【白き理】でやれることならば教えるという流れで始めたって聞いたけど。」


「はい。その通りです。」


これは多分、後者だな……


それならそれで全力で付いて行くだけだ!


なにせ俺のスキルだからな!!


「でもそれだと、あなたが予め想像できない事態に対処する術を、事前に習得することはできないわね。」


「あ……確かにそうですね。」


「もしかして、気が付いてなかったの?」


「はい……」


「あなた…シンプルにマヌケね…」


ちょ……聞く気になっている時にシンプルな悪口を言うのやめてよ!


スッと入ってくるんだから!!


「まぁいいわ。二人で教育方針が異なると、あなたが混乱するでしょうから。私も同じ方針で行くわね。」


「ご配慮いただき、ありがとうございます。」


「そうね……とりあえず、あなたに迫ってくる脅威への対処を教えるわね。」


おぉぉ!


死に損ないの体でろくに戦えない俺としては嬉しいご教授!!


「お願いしますっ!!」


「脅威に対して、左手をかざしなさい。」


「はい!」


「以上。質問、有る?」


え…?


いや、あるでしょ。


ってか、それだけ……?


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