第35話 強めの黒いお姉さん その2
間髪入れずに、女性の鋭い眼光が俺の顔に突き刺さった。
ほらぁ、もうちょっと語っていれば、それを脇で聞いてるこの女性が落ち着く時間を創れたかもしれないのにぃ……
「あ……ごめんなさい。」
勢いに押されて、つい謝ってしまった。
「私、あなたのこと認めてないから!!教えることなんて無いわよっ!!!」
はは、ははは…ですよね~…
こちらとしても、ここまでのやり取りの中で、認められた実感無いですから……気が合いますね~……
って違うか。
まぁ、俺は、おじいさんに用があって来ただけですし……
ん?
もしや、この女性もおじいさんに用があって来ただけか……?
「分かりました!御用が済んだら、ご自由に退出なさってください。」
「……」
女性の沈黙が持つプレッシャーが、弱まりを見せない。
ん-、それならば……
「もちろん、私と私の身の回りに危害を加えないのであれば、ごゆっくりとなさってください。」
「……」
これも間違えたかな……?
「それと、なんと御呼びしたら宜しいですか?名前を教えて下さい。」
「あんた、なんて呼ばれてるのよ」
「儂?…面白いぞ…」
「だから何よ!?」
「“おじいさん”」
「な……!?嘘でしょ?ホントに!?……だったら……私の事は女王様と呼びなさい。」
この人、やばっ!
「女王様、大丈夫ですか?」
「何がよ」
女性にキッと睨みつけられたが、俺には痛い子にしか見えなくなっているから、俺は平常心を維持することができた。
「自覚症状に悩まされてないようでしたら、大丈夫です。」
「……」
「分かりました。そしたら、女王様、早速ですみませんが、席を外して貰えますか。おじいさんに【白き理】のご指導を頂きますので。」
「……」
睨みつける目は力を失っていないが、口元はバツが悪そうに緩み始めた。
「がははーっ。まぁ、落ち着けぇ。お前も女王様なんて呼ばせなくていいじゃろ。ここには儂ら3人しかおらんのだから。」
「……」
「それに、どうせ【黒き理】を教えることになるわけだから。」
「クソジジイ……」
「それに、お前さんもお前さんだ、その態度は意地が悪いぞ!」
言われてみれば、確かにその通りだ。
【黒き理】を予想しつつ、教わる態度ではなかったな……
間違いと思ったら、素直に謝るのが良い。
これは営業して学んだことだ。屁理屈言って仮に説得できたとしても、結局のところ、ろくなことは何も無い。
嘘を嘘で取り繕っても、向けられた矛先を他に向けようとしても、怒りが増幅して、被害が大きくなるだけだ。
「ごめんなさい。」
「私も、悪ノリして、つい。」
パチン!
おじいさんが手を叩いた。
「良し!仕切り直しじゃ!!話を戻すぞ。どちらからやるんじゃ?白の続きか?黒か?」
ここで俺が、【黒き理】を自発的に選ぶことに仲直りの意義がある。
相手の謝罪を取り上げて、マウントをとっても良い事は無い。
折角おじいさんが上手く仕切り直してくれたこのチャンスを掴み取るっ!
だから、ここは【黒き理】一択だ!!
「【黒き理】を教えて下さい。」
俺は、深く頭を下げた。
「という訳じゃ、ほら、お前の番じゃ!」
「いちいち煩いわね!!分かってるわよ。早く、こっち来なさいよ。始めるわよ。」
「はい!」
おじいさん、ありがとう。
さて、景気良くいこう!
2つ目のスキル【黒き理】の習得だ!!
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