第34話 強めの黒いお姉さん
今の生活の拠点であるログハウスに向け独りで歩く帰路は、ぬかるんでも居ないのに、足を取られているように重く感じた。
昨日も同じ道を帰ったが、ここまで酷い思いはしなかった。
きっと隣に美人の付き添いがあったせいで、得も言われぬ高揚感に支えられていたからだろう。
昨日の甘い思いと今の辛い思いを頭に巡らせながら歩いているうちに、ログハウスに到着した。
やっとの思いで玄関の前に立つ。
もう何も考えられん……
もう動きたくない……
最後の気力を振り絞って、ログハウスの玄関を開けた。
気が付いたヤマモリさんが、居間から飛び出して来てくれた。
「おかえりなさい、ラゴイル様!大丈夫ですか?」
「疲れました。ひとまず自室で昼寝をしたいんですが……」
そう言いかけたところで、不意によろめいてしまった。
「危ないっ!」
咄嗟に伸びたヤマモリさんの腕にしがみ付き、そのまま支えられて二階の自室に入った。
速やかに、ヤマモリさんはゆっくりとベッドに腰かけさせてくれた。
「しっかりお休みください。」
そう言うと、ヤマモリさんは戻って行った。
俺はそのままベッドに倒れ、意識を失うように寝入った。
……
ん……?
また真っ白な世界に降り立ち、おじいさんとの再会を想像していたが、降り立ったのは、真っ白な世界ではなかった。
視界の右半分が白く、左半分が黒く……きれいに二分された世界が広がっていた。
そして、その白と黒の世界の境界線で、白いおじいさんと黒尽くめの女性が会っている。
だけど、おじいさんは座り込んで俯き、女性は腕を組み、顔には青筋が立っている。
辺りに漂う雰囲気は、何だか穏やかじゃない。
とてもじゃないが、間に入って話し掛けるなんて無理だ。
無意識に腰が引けていくのが分かった……
でも……
おじいさんが俺の中に入って、俺の右手に白い包帯が巻かれて、スキル【白き理】を修得した……
って事は、俺の左手に撒かれている黒い包帯は、追加でスキルを獲得できた可能性が高い。
そうなっていると嬉しいが、早合点は良くない。
まずは、ご本人に確認するしかないよな~。
しかし、左足が接触している黒い地面から、不穏な震動が伝わってくるような気がした。
目の前で腕組みしている黒尽くめの女性の怒りに共鳴しているのか……
小刻みな揺れが俺の恐怖心を駆り立てる。
触らぬ神に祟りなし……
そーっと左足を白い地面につき直して、そのまま2人に近づいた。
「お取込み中のところ、すいません。ちょっと宜しいでしょうか……」
「おお、良い所に来てくれた!」
おじいさんは顔を上げると、すがる様に声を上げた。
「何よ!邪魔しないで!!こっちの話が先!後にしてっ!!」
そう言われてもなぁ……
どう見ても、小康状態だったじゃん。
「ごめんなさい、ちょっとだけお時間下さい!」
パチンッ
小さな音を立てて俺が柏手を打った。
「うぐ……」
「おじいさん、昨日教えてもらえた事、上手くできました。ありがとうございました。」
俺は、一瞬怯んだ女性の隙を見逃さず、おじいさんにお礼を伝えた。
「おぉ!見とったよ。これで【白き理】☆1じゃ!!」
ちょっ!早いーっ!
もうちょっとあるじゃん。
解説とか、余韻とか……楽しみたいのに。それに……
「ちょっと待ちなさいよ!」
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