第30話 2度目のクマエの御遣い その2

含みを持たせた俺の発言に、目を見開いて問うてきた。


「優先して買うのは、クマエの装備ね。」


「えっ!?……何をっ!ラゴイル様の装備が最優先ですっ!!」


「見てないけど、俺のは有るんでしょ?城から逃げる時に装備した奴が……」


「有りません。酷く体調を崩していましたし、時間もありませんでしたから……」


「そ…そうなんだ…でもさ、病み上がりの俺はろくに体が使えなくて、戦えないからさ」


それに、この後、俺がラゴイルじゃないと分かって、お別れってこともあるじゃん。


そうなって欲しくないけど。


そうなった場合に、クマエの装備が最優先で買ってあれば、餞別としてって事にできるから。


そのためにも、自分の欲しい物を買っておいて欲しいんだよね~。


って、思っている事をそのまま話せないし……


「ん――――っ!アレがアレなのでっ!クマエの装備優先でっ!!」


「ダメですっ!!!」


困ったな~、クマエ、めちゃくちゃ意志が強いやん。


「オホン。クマエ、よく聞け、ラゴイル様からの有難い命令だ。クマエの装備を最優先で購入し、速やかに帰宅せよ。」


クマエは肩を落として、ぼんやりと俺を見つめてきた。


「はい……」


そして、ため息に続いて、力の無い返事が返ってきた。


下手糞でごめんね……


営業マンだったけど、門前払い系の営業マンをやらされてたからさ。


「とりあえず、有り金を全部持って行っていいからね。」


どんだけあるか知らんけど。


俺は留守番で、銭を使う事は無いし…出掛けるクマエに切ない思いをして欲しくないし…


「それと、地図なんだけどさ……」


「はい、侯爵の城の近辺の分かる物ですよね。」


「そう。それと……」


「――?」


「この辺で、ってか、この国で、一番大きな都市って何処かな?」


「それは、多分……王都じゃないですかねぇ。」


「そうか。そしたら、その王都近辺の地図が欲しいな。」


「分かりました。」


「侯爵の城から王都までが分かるの、お願いね。」


「はい。」


クマエは、返事をして出て行き。あのデカい白馬を連れて玄関に戻って来た。


「それでは行ってきます。」


律儀やね…きちんと出発の間際に挨拶するなんて…


「いってらっしゃーい!」


俺の返事を聞くと、クマエは目をキリっとさせてた。


一気に踏み込み、力強く足を開いて、躍り上がるように飛び乗った。


見えたッ!!!


……


いや、そうじゃない!!


「クマエ!ちょっと待った!」


「はい?」


「行きがけにごめん、俺の馬も用意してくれるかい?」


「分かりました。」


俺も馬で逃避行だ……


ブルッ


白馬が巨躯を震わせた。


目の前のデカい白馬との初対面が脳裏をよぎった。


「あ~…」


「何か気になる事がございますか?」


「うーん……」


俺になつきそうな馬……ってのは無理な要望だよな~。


白馬は、チラっと眼を向けると、耳を寝かせながら、鋭い眼光でこちらをこっちを見ている。


邪魔だ!いつまで居るんだ!クマエに任せて、早くどっか行け!!と聞こえたような気がした。


わかりましたよ……クマエを信じますよ。


「なんでもない。気を付けて、買い出しに行って来てね。」


「はい。行ってきます!」


クマエの気持ちの良い挨拶に、白馬は大きく嘶き、棹立ちした。


美人に白馬、絵になるな~。


前足が地に着いたのを合図に、力強く大地を蹴り、走り去っていった。


それにしても、馬具も無しに、器用に乗りこなすもんだな~……あーッ!!


「馬具も買ってこいよぉぉーーーっ!!」


俺は思いついた直後に慌てて大きな声を上げたものの、既にクマエの姿は随分小さく見えた。


聞こえて無さそうだな。

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