第29話 2度目のクマエの御遣い

不思議な夢から目を覚ますと、すでに朝だった。


小一時間の昼寝のつもりだったのに、朝まで起きなかったのか……


久しぶりの散歩で思いの外、疲れ果てていたのか。


それとも、連発する予想外の出来事に、使われ過ぎた頭がオーバーヒートしていたのかもしれないな。


それにしても…俺は行儀など気にせず、ベッドに倒れ込んだはずだが…


俺は、きちんと布団を被ってベッドに寝ていたようだ。


まさかッ!!


バサッ!


慌てて掛け布団を撥ね退けると、不思議なことに、昨日と色の違う作務衣を着ている。


やられたッ!!


これは絶対に、寝てる間にクマエに、悪戯……


じゃない!


お世話になってる……


夕ご飯に呼びに来たクマエが部屋の外から声を掛けるも返事が無い。


心配になって中に入ると、回復したばかりのラゴイル様が、ベッドに行倒れしていた。


そのまま見て見ぬ振りもできず、お世話したってところか。


という事は……


恐る恐るズボンの中を見ると、パンツまで昨日と違う……


またも、俺は股間にぶら下げている桃色大根を、寝てる間に丁寧に拭き洗いされたのか……?


頭の中に妄想が膨らみ、それに合わせて恥ずかしさが込み上げて来て、耳が熱くなるのが分かった。


俺…クマエに会って…なんて言えばいいんだよ。


折角、今日は昨晩教えてもらった、偵察?探索?のスキルを使ってみようって、テンション高めで、すっきりと目覚めたってのに……


って、だらしない俺が、きちんとやることをやってるクマエに、とやかく言う資格はないか……


でもまぁ、こうして部屋に籠って込み上げてくる恥ずかしさと、独りで向き合っていても仕方ない。


今日は、今日で、やらなきゃいけないことがある!


おじいさんから教えて貰ったスキルのチェックだ。


念願の俺のスキル!


白き理!!


やるぞー!


たとえ俺が嫌われ者のラゴイルで、追いかけ回される身でも!!


俺はどんどん習得して☆を集めて、この世界での生活を充実させるんだ!!!


負けんぞ―!!!!



……っと、その前に、買い出しの使命感に燃えるクマエを送り出さねば。


しかし、なんて切り出そう……


ゆっくりと一階に下りていくと、買い出し準備中のクマエが玄関に居るのが見えた。


グズグズ考えていても、良い事は無い。


こうなったら、出たとこ勝負だ!


それに、恥ずかしく思っているのは俺だけで、クマエは羞恥心に襲われている訳でも、自己嫌悪に陥っているわけでもない。


なんなら、いつもの事を、いつも通り対応しただけだと思っているはず……


いや、そう思っていてくれ!


そして、こういう時は、爽やかに、朝の挨拶をするのが一番!


こちらがモジモジしていると、返って怪しまれるし、変に意識してギクシャクしてしまう……


という訳で……


「おはようございまーすっ!」


俺は、爽やかさを意識しつつ、少し声に力を入れて、挨拶をした。


「ラゴイル様、おはようございます。」


クマエから気持ちの良い挨拶が返ってきた。


ほらね。


気にしているのは、案外と俺だけなんだわ……



「これから買い出しに出発だよね?」


「はい!」


「悪いね。何度も御遣いに出しちゃって……」


「とんでもないです。前回の帰城は、私が言い出したことですし。」


そう言われればそうだった。


俺は嫌がったのに、クマエが勇猛に飛び出していったんだっけ……


「あのね…、今日のお願いの内容は分かっていると思うけど、念のため確認させてね…」


「はい。」


「買う物は、素性がバレないようにする服装、例えばフード付きローブとかね。」

「その他にも、旅に必要そうな装備や道具を見繕って買ってきてくれ。」

「特に、地図が欲しいな。レーゼン侯爵の城近辺のわかるやつとか……」


「はい。」


「それと、ゆっくり買い物をしていると、実家ってか侯爵側からの次のアクションに間に合わない可能性が高いから、出来るだけ早く帰ってきてね。」


「分かりました。」


「そうそう、装備を買う時の注意事項があるんだ。」


「なんでしょう。」

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