第22話 気分転換にお散歩 その2
俺が声をかけると、おじいさんはすくっと立ちあがった。
姿勢の正しいおじいさんだ。
座っているときはよく分からなかったが、驚きの白さだ。
白いフード付きのローブから、白いズボン、白い革靴、施されている装飾さえ全て白。
「ん?珍しい奴も居るもんだ、お前、空っぽじゃないか。」
呆気にとられていると、おじいさんから、気になっているフレーズが飛び出てきた。
「空っぽって…そういえば先日も“空”って言われたなぁ。何ですか、“空”って」
「“空”が分からんのか。ん-、“空”は“空”。なんもないって事だよ。」
「それくらいの事は分かりますよ。だけど、よく分からないんですよね~。あ、それはそうと、何してらっしゃったのですか?」
「眠くなったから寝てた。」
思わずクスッと笑ってしまった。
「そうですか、それは失礼をしました。また休まれますか?」
「いや、もういいかな。で、お前さんは?」
「この先の祠に行こうかと」
「ふーん……儂もついていっていいか?」
「どうぞどうぞ。」
俺の快諾の直後、グイッとクマエに袖を引っ張られた。
「何を考えてるんですか、不用心です。」
「そうかなぁ。祠に行くって聞いて付いてくる人に、悪い人なんて居ないんじゃないかな~。」
「それは…そうかもしれませんけど…」
「がはははははーっ、おまえさん、やっぱり変わってるな~。」
「それに、ここまで気持ちよく豪快に笑う人に悪い人もいないと思うし。」
「安心せぃ!儂は悪いおじいさんじゃないぞ~。」
歩いていると、無事に祠に到着した。
小さいが、本当に“祠”だった。
不思議と白っぽく光っているようにも見えた。
ただ、苔や枯れ葉でなんだか目立たない。
禊も出来るかなって思いで来たのに…このままではちょっとね…
仕方ないので手で払い落せるだけ落とし、近くに落ちている枯れ枝を箒代わりに掃いてみた。
基礎の石は苔むしていて、随分と古い祠のようだが、朽ちている部分は無い。
定期的に丁寧に手が入っているのかな。
これで禊が出来そうだが、生憎、俺はこの世界の作法は知らない。
ついつい、二拝二拍手一拝をしてしまった。
作法に則っていないかもしれないが、馴染みの作法だからこそ、なんだか気持ちがすっきりした。
クマエも俺に続いて、見よう見真似でお参りしていた。
なんだかぎこちないが、それがむしろ良い感じだ。
白いじいさんもお参りするかと思ってたが、しなかった。
「あれ?しないんですか?」
俺の問い掛けに、こちらを向き、そのまま、近づいてきて俺に右手を出してきた。
握手かな?
俺が掴むと力強く握り返してきた。その瞬間、目の前が真っ白になった。
そして、視界が元に戻った。
目の前に居たはずの白いじいさんは、もう居なかった。
「クマエ、さっきのおじいさんは?」
「わからないです。急に目の前が真っ白になって、気が付いたらいなくなってました。」
辺りを見渡しても、白いじいさんは見当たらなかった。
握手したら消えた?
白いじいさんに差し出した右手を見ると、手首から肘にかけて包帯のようなものが巻かれていた。
何だこれ……。
狐につままれたような気分だ。
「ん-、考えても分からないし、ひとまず帰ろうか。」
「はい。」
当初の目的だった気分転換には成功したようで、自室に戻っても嫌悪感は込み上げてこなかった。
そんなことよりも、吸い寄せるようなベッドの誘惑に、抵抗できず、引っ張られるようにベッドイン。
久しぶりに歩いたせいか酷く疲れてしまったということなんだろう。
色々な出来事を改めて考えるのは、一休みしてすっきりした頭で取り掛かるとして…とりあえず、昼寝だ…
ベッドに倒れ込み、俺は意識を失うようにそのまま寝てしまった。
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