第21話 気分転換にお散歩
ずーっとログハウスの自室でストレッチと軽い運動をしているのも飽きた。
もともと飽きっぽい性格の俺が、閉じ込められてリハビリし続けるなんて…初めから無理のある話だったんだ…
代り映えしない環境で、仕事もしないで部屋に籠っていると…“空”というレッテルを張られたことが、頭の中をグルグル巡って…
気が滅入ってくる!
もう歩くぐらいなら容易にできるようになったし、散歩でもするか!!
一階に下りるとキッチンで生ごみを片付けているヤマモリさんが見えた。
「ヤマモリさん!ちょっといいですか?」
「え?ラゴイル様!どうなさいました?」
「いやね。もうね、自室、飽きたんですよ。」
「え!内装を変えろと言われましても、ログハウスですし…壁に内装を施すと、せっかくの檜の香りが…」
いや、言ってないし。
「ごめん、ちょっと気が立っていて言葉が足りませんでした。自室に籠って体力の回復作業し続けるのも飽きちゃって、散歩でもしようかなってね。」
「すいません。早合点していました。そういうことでしたら、少し歩いたところに、祠がありますので、散策も兼ねてみたらいかがでしょうか。」
「え……いいんですか?危なくないですか?」
「祠までの道中で、襲われたことも無いですし……多分大丈夫ですよ。」
「多分て……」
「クマエも連れて行けば、問題ないかと……」
は?
問題が増えるだろ!
こんな体じゃ、クマエが襲われても助けられないし……
「クマエは私が呼んできますので、少々お待ちください。」
そう言うとヤマモリさんは、取りまとめた生ごみを持って外に出て行ってしまった。
まぁ、部屋にいるより、気分転換になりそうだし、行ってみるか……
クマエに黙って出て行ったら、クマエに心配を掛けちゃうもんな~
自室に戻りたくない俺は、靴を履いてログハウスの外に出た。
木製のベンチが目に入ったから座って待っていると、クマエが駆けて来た。
「お待たせしました。ヤマモリさんに頼まれて山菜を採りに出ていました。」
「ごめん、付き合わせちゃって。そっちは済んだの?」
「大丈夫です。行けます!」
行けますって……クマエは、普段の露出の高い恰好のままだ。それはいいんだけど…足元が…ブーツ。
それも、攻撃的な鋲が至るところに付いている。
あんなので蹴られたら、何処にあたっても複雑骨折しそうだわ。
「ブーツのままでいいの?」
「大丈夫です。」
クマエが胸を張ってポンと叩いて見せた。
その後も、クマエが何かを話していたみたいだけど、俺は、脳裏に焼き付いた“せり出された大きな胸”に意識が集中してしまい、聞き取ることが出来なかった。
そして、歩き始めても邪念が頭を巡っていた。
でも、俺のせいじゃない。
決して俺が悪いわけじゃない。
だって、邪念の源泉がすぐ隣で、弾んでいるんだもん。それも、ほぼ視線の高さで……
自分の足音よりも大きなポヨンポヨンという幻聴に襲われていた。
しばらく歩いていると、邪念も少しずつ晴れていき、次第に景色を楽しめる余裕が生まれた。
ふと目を向けると、全身白尽くめの人が路肩の木の根元に座り込んでいた。
目深にかぶったフードで顔は見えない。
「どうしたのだろう。」
俺がクマエに声を掛けるも、クマエは眉をひそめて近づこうとしない。
営業で外回りしていた時、東京の都心で突然具合が悪くなって、路肩の自動販売機にもたれ掛かって、地面に座り込んで動けなくなってしまったことがある。
残念ながら、誰からも声を掛けられなかった。
苦しいながらも辺りを見渡すと、辺りに目もくれず足早に歩く人ばかりが目に入った。
みんな自分のことで必至なだけだ…誰も悪くない…
そのときの俺は、運よく体調が回復してくれたけど……
そんな経験が脳裏をよぎり、俺には見過ごすことはできなかった。
「大丈夫ですか?」
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