第20話 空 その3

「お分かりになりませんか?その理論上でしか成り立っていなかったケースが、実際に存在していることが分かったのですよ!」


「そりゃ、まぁ。興味深い存在を見つけたって思うでしょうけど……興味を持たれるとなんか不味いんですか?」


「次期領主の行方不明で一大事の最中に、混乱に乗じてラゴイル様と称した不逞の輩が現れた。そしてその輩は、研究対象として非常に興味深い”空”なのですよ。」


「え?まさか……」


「最悪の場合…拉致した上で、誰の目も届かない場所で…監禁されて研究対象にされる可能性もあります。」


「マジですか。」


「そうなったら…ラゴイル親派には…もう一筋の希望の光も無くなってしまいます。」


いやいや、その光はもう無いんだよ!


俺が“空”で“能無し”だから、神輿にもならないってなことを言ったのは、あなた方でしょ!


それとも、アレか。


今は駄目だけど、いずれは生前のラゴイルと全く同じ属性を俺が手にできる可能性でもあるのか?



ともあれ、研究対象にされるのは、勘弁だ。


名前を変えて、出来るだけ変装して…顔を隠して誰も知らない地に行くか、誰も居ない地へ、逃避行…


ってか、なんで転生してここまで不遇なんだよ!



しかしだ、ネガティブに考えていても仕方ない……


今こうしている間にも、人体実験に胸を高鳴らせるマッドサイエンティスト達の宴のカウントダウンは進んでいるんだから。


俺には、この世界の知識も無ければ、生き抜く力もない。


それでも、腐っても居られない!


兎に角、できることから少しずつでもやるしかない!!



まずは、このログハウスから離脱だ!


この場所に自称ラゴイルが居ると知られたわけだから、真っ先にこの場所に来るはずだからな。


そして、足取りを捕捉されないように、素性のバレない恰好が必要だ!


クマエに買い出しをお願いするか。


そして、何よりカネが要る!


「クマエ、俺達がここに逃げてくるときにおカネ、持ち出した?」


「はい。少々ですが御座います。」


「ナイス!」



当面は、上手くやりくりするとしても、いずれは底を尽きる…なんとか、今後のカネの稼ぎ方も考えねば…


「木を隠すなら森の中」と言うから、人ごみに逃げ込むのも有りかもしれない…人が多い所の方が、カネを稼ぐチャンスも多いし…


それに、落ち着いて考えれば、こちらにも十分チャンスはありそうだ。


ラゴイルかどうかを判断する方法が、容姿の目視と六つの球とか…戸籍制度とか無いんか?


それに、ラゴイルと称した輩を拉致監禁して研究体に使うなんて発想は、道徳や倫理とかその辺が、ガバガバじゃないと成り立たない。


もしかすると、全く別人として生きていく事もできるかもしれない!


ラゴイル親派には悪いけど、俺にはラゴイルとして生きる以外にも、まだまだやれることは残ってる!!


絶対に諦めないからな!!

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