第19話 空 その2
「理論上?」
「はい。しかし、今まで全属性持ちには、御目に掛った事がございません。聞いたことも無いもありませんよ。」
「そうなんですね…ちなみに…得意属性とかも判定できるんですか?」
「もちろんです。持っている属性の強さは、球の光り方の強弱となって現れますから、厳密に判断する場合には、何度もかざして比較して判断することになりますね。」
「判定できるのは、属性の有無と強弱だけですか?」
「そうですね。」
「例えば、何故その属性を持っているか等は、分からない?」
「分かりませんね。この判定方法は、“簡易で正確で時間が掛からない“が売りですから。それに、属性とその強さが魔法やスキルや技術に影響するから、測定としてはこれで十分と言われています。
「なるほど…」
とすると、今回の訪問は、外見だけではなく、事故前の記録と現在の属性測定結果を照合することで、信頼性の高い本人確認の結果を得るために実施された…親ラゴイル派も、反ラゴイル派も、後腐れなく受け入れるために、一緒に来た…ってところか。
そして、注目された測定結果は……
外見はラゴイル本人…しかし、六つすべての球に無反応で、全属性不所持の“属性無し”…”空”
この結果が示す意味は……
“ラゴイルだけど、能無し“
こうなると、もはや同一人物であるかどうかなんて、どうでもよくなっただろうな~。
如何に外見上がラゴイルであっても、領主としての権威付けの為には、どうしても“力”が必要だ。
どこの世も、力の無い者なんて、要らない。
能無しは、用無し
「そうですか……」
楽しみにしていた転生後の世界でも、この境遇とは……
良かったことは…美人さんに歓待を受けた事ぐらいか…
「測定方法の話は以上ですが、続けて今後について少し宜しいですか?」
落胆する俺にお構いなしに、話が続いた。
「どうぞ。」
「今回の“空”という公式の測定結果は、ラゴイル様の復活の証拠にはなりません…」
「申し上げにくいのですが…『ラゴイル様によく似た別人をクマエが山奥で見つけた』と吹聴されることになるでしょう。それどころか…」
ガタッ
「馬鹿なこと言わないで!私はずっとラゴイル様と一緒に居て!ラゴイル様が目覚めたんです!本人です!」
「ちょっと、クマエ、落ち着いて。話が途中だからさ、聞くだけ聞こう。」
勢いよく立ち上がったクマエの手を掴み、座るように促した。
クマエは、俺の顔を見るなり、力無く椅子に腰を下ろした。
「すいません、話を続けて下さい。」
「はい。もちろん、デマや嘘を吹聴される事は癪に障るのですが、危惧している事は他に有ります……」
「それは、“空”の存在を見つけてしまった事です。」
「え?“空”が何か?」
「“空”は、先ほどの全属性持ちと同様、理論上は在り得るケースですが、今まで、記録上は存在していません。」
だから何だよ。目の前に居るんだから、理論がどうとか、記録がどうとか、関係無いだろ。
「はぁ」
つい、ため息を漏らしてしまった。
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