第17話 馬車御一行 その3

「順を追って話しますと、ラゴイル様が城から居なくなってから、反ラゴイル派の動きが活発になりました。」

「特に、ラゴイル親派のうち、ラゴイルに近かった者たちは。徹底的にマークされていて身動きがとりにくい状況にあります。」

「酷い話ですが…捏造された事実を、さも真実のように突きつけられて、立場が危うくなってその対応に必死な方もいらっしゃいます…」

「一方の反ラゴイル派は、水を得た魚のように、ラゴイル様の生死が未確認にもかかわらず、ラゴイルは死んだこととして、様々な手続きを勝手に進め始めています。」

「申し上げにくいのですが、既にラゴイル様の親衛隊は有りません。真っ先に解隊されてしまいました。」

「この状況を打開するために、ラゴイル派の最も求めている事は『ラゴイル様の生還』……」

「そんな重く暗く息苦しい雰囲気に包まれていたラゴイル親派に、クマエの突然の帰還とともに告げられたラゴイル復活の一報は、息を吹き返す一筋の希望でした……」

「たとえ記憶が無いままだとしても、生きている事に意味がありますから。」


「なるほどね~。それで、俺の生存確認の話になる訳だ……」


「はい…レーゼン侯爵から最優先事項としてラゴイル様の生存確認の指示が出たのも、ラゴイル親派にとって渡りに船でした…」


まぁ、我が子の生存確認は、最優先だよな。


侯爵自身が飛んで来てもおかしくないが、立場上、色々あるんだろう。


「ただ…クマエの話をレーゼン侯爵の耳に入れたのも、指示を促したのも、反ラゴイル派と聞いています…」


え?…ラゴイル親派じゃないのか…


「それに…ラゴイル親派に同行するように促したのも、反ラゴイル派です…」


「ちょ…何考えてるんだ…」


「さぁ…私たちにはさっぱり分かりません。私たちは、ラゴイル親派上層部からの依頼で、作業に参加しただけですから…」


「そんなことはないでしょ?」


「本当です。ラゴイル様とお会いするのも今日が初めてなんですよ。」


「それで分からなかったのか……」


クマエが小さく呟いた。


「ラゴイル親派は、信じるに足りる公正な結果が知りたかったようですね」


「なるほど。」


「確認作業の結果はとにかく、彼らのラゴイル様を見た瞬間の反応こそが、ラゴイル様の生存確認の結果です。このままでは一緒に帰城してください。」

「そうです。私たちだけで帰ったのでは、絶望を持ち帰ることになってしまいます。帰ってきてくだされば、ラゴイル親派も息を吹き返します。ラゴイル様は居るだけでいいんです。ここよりも城の方が療養も進みます。」


二人揃って嘆願されたが、俺には返す言葉が見当たらない。


「ラゴイル様、どうか、お救い下さい。」


悲痛な想いに背中を押されて、なんとか押し切ろうとしているのが痛いほど伝わってきた。


しかし、そんなこと急に言われましても……


頼りにしてくれてるってのに…なんだか、すいませんね…


“帰ってきてくれるだけで”、“居てくれるだけで”って言っても、現実にはそうはいかないじゃん。


社会人になってその辺は良く分かったんだよね~、結局は、言動が試される……


そして、今の俺に何ができる?


何も知らない…何もできない…救いも何もあったもんじゃない!


そもそも、俺は“空”が何かに興味があって一階へ下りてきた訳だし……


「すいませんが、その話の前に、“空“について教えて下さい。」

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