第16話 馬車御一行 その2
ほどなくして、一行が音を立てて二階に上がって来た
そして、ノックもせずに自室のドアを開けて入って来た。
俺を見るなり、驚いた様子を一瞬見せたが、すぐに平静を取り戻していた。
「ラゴイル様、ご機嫌は如何ですか?」
言葉とは裏腹に、作り笑いもできない二人の背後で、後続の二人が会釈をしながら入室してきた。
「ラゴイル様は、まだ回復したばかりです。それなのに…」
そして、クマエが間に入ってくれた。
こういう事態で美人の陰に隠れて俺は…情けない…
「クマエ、落ち着け。確認に来ただけだ。荒事は無しだ。聞いているだろ!」
「確認が必要な話は聞きましたが、どのような確認をするか聞いていません。」
「安心しろ、クマエ。」
そう言うと、反ラゴイル派の一人が、革の袋から六つの球を取り出し、テーブルの上に置いて見せた。
「これだけやったら帰るから。」
クマエは、納得した様子で、すっと後ろに下がった。
「さぁ、ラゴイル様、一つずつ順に手をかざしてください。」
「え?」
怖くなって、クマエを見ると、小さく頷いて返した。
仕方ない。
俺は言われたとおりに、球を取り出した男の指示に従い、一つずつ手をかざしていった。
六つとも、なんの反応も無かった。
「どうなんだ!」
「フフフ…“空”でございます。」
「ククク…、そうか…」
意を決して訊いた俺に、反ラゴイル派は、喜びを隠さずに球を片付けた。
俺は、反ラゴイル派の態度に苛立ちが込み上げて来たが、ラゴイルの今までの行いを考えると、仕方ないことなのだろうと怒りを鎮めた。
「ラゴイル様、恐れ入りますが、確認作業をさせて下さい。」
そう言うと、後ろに控えていた二名も同じような六つの球を並べ始め、親ラゴイル派の測定が始まった。
測定方法は、全く同じ。
にもかかわらず、あえて別にやるという事は、公正さを考えての事なのか…それとも、お互いに信頼し合っていないということか…
注目の測定結果は、やはり“空”だった。
「そんな…まさか…」
「有り得ない……」
「でも……」
二人は、先ほどの二人と違い、動揺と落胆が隠せない様子だ。
しかし、速やかに片づけて、四名とも、早速に退出していった。
“空”って相当ヤバいのか?
「クマエ、あいつ等の言っていた“空”って何?」
「え…すみません…初めてのことで、よく分かりません。」
「そうか…それなら…分かってる人に訊いてみるのがいいよね!」
「え?」
俺は、四人の後を追って一階に下りた。
居間にて、黙々と書類に書き込み作業をしていた。
お互いが持ち込んだ書類に、測定結果の書き込みと署名をしているように見えた。
そして、反ラゴイル派の二名は、書類を受け取ると、俺を一瞥して、さっさとログハウスを出て行ってしまった。
まぁ、無視されるよりはマシか……
「ちょっとお茶でもいかがですか。」
ラゴイル親派の一人がこちらに気付き声をかけてきた。
俺としては測定結果の“空“が気になるし、身の危険は感じなかったから、応じることにした。
ヤマモリさんが淹れてくれたお茶を囲んで腹の探り合いが始まった。
「先ほどはどうも。」
「突然の訪問に対応してくださり有難うございました。」
「何を大仰な……」
ただ球に手をかざしただけじゃん…
「クマエも、よく我慢してくれた。有難う。」
「いえ……先日、御城に戻った時に、ラゴイル様を確認すると言われた件ですよね?」
「そうです…と言っても、私たちは彼らとは違いますからね。」
「違うって言われても……どう違うんですか?」
事情が分からない俺に変わって、クマエが強気に質問を返してくれた。
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