第15話 馬車御一行

2階の自室の窓から、2人でそーっと顔を出して外の様子を伺った。


馬車だけ見れば、質素な作りで、来訪に不安は感じないのだが、軽騎兵の護衛の存在が俺の不安と緊張を誘った。


「俺は心当たりがないから訊いちゃうけど…クマエは…心当たりあるかい?」


俺は雰囲気に呑まれて、小声になってしまった。


「まだ…何とも…」


「まだ?……」


「はい……」


一行は、少し離れたところで止まった。


二台の馬車から二名ずつ降りて、こちらに向かって歩いて来る。。


護衛の騎兵六騎は、騎乗したまま同行している。


クマエが徐に口を開いた。


「あれは……」


「分かるの?」


「はい。城に戻って掛け合ったところ、私の言葉だけでは信じられないから、ラゴイル様を確認に来ることになりました。あれは多分その一行でしょう。」


あ……そうだった、俺、今ラゴイルじゃん。


それに、クマエは馬を取り上げられちゃったんだっけ……


なんだか、気が重いなぁ。


ってかさぁ、クマエ~、早く言ってよ~。


まぁ…でも、俺も悪いか…


白馬が気になって、実家に掛け合った結果がどうなったか聞くのを忘れてたもんね。


仕方ないよね…現代の日本で馬にお目にかかる事なんて、ほとんどないことだから…


そんなことより……


「あの四人は知り合い?」


「いえ…でも…城内で見かけたことは有ります。」


「どういう人たち?」


「申し訳ございません、そこまでは…でも、前を歩く二人はアイビーのブローチを付けていますから、御令弟様の側近か親衛隊かと…」


「マジか……」


「後ろの二名は…分かりませんね…」


つまり、四人中二名が、ラゴイルの弟を支持していて、わざわざ護衛に騎兵まで連れて来た…とすると…反ラゴイル派の御来訪ってことだな。


「でもさ、あの後ろの二人は距離を少し取って歩いているから、案外と……」


「仮にそうだとしても、あまり期待はしない方がよろしいかと。」


「え?……」


「前を歩く二名に遠慮しているという事は……」


「そうか…そうだね…」



「レーゼン侯爵家の御子息ラゴイル様が回復されたと聞いて来た!」


しばしの沈黙があったのに、荒々しく張り上げられた声が、二階の俺の居室まで響いてきた。


馬車一行は、クマエの言う通りの一行であることを物語っていた。


「突然いらっしゃいましても、困ります。」


「はぁ?ラゴイル様は居るんだろ?別に手間はかからない。確認するだけだ。」


「ですから……」


「安心しろ!お前に手伝って貰う事など無い!ラゴイル様は何処だ!」


ヤマモリの必死の対応が続いているが、「確認させろ」の一点張りのようだ。


「クマエ……どうしたらいい?」


「そうですね…ただの野盗ならまだしも…」


「そうだね。相手が相手だもんね……」


「まずは、大人しく対応して…相手の出方を見るのが良いかと…」


ここで上手にラゴイルは生まれ変わったってアピールして、反ラゴイル派の留飲を下げることが出来れば、今後は少し明るいかもしれない!


「そうだね。そうしようか。」

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