第14話 クマエの御遣い その3
「あれ?…行きがけの馬と違くないかい?…」
「はい。帰城するや否や、取り上げられてしまいました。」
お…穏やかじゃないねぇ…
しかし、改めて長身の美女が馬にまたがっている様は、絵になるなぁ。
この馬も…真っ白で、筋骨隆々…迫力が違う!
って、ん?……
馬ってこんなにムッキムキだったっけ?
サバンナのシマウマだって、競馬のサラブレッドだって、テレビで見る限りではここまで逞しくなかったような。
特にその四肢…見た事が無いほど太い。
「どうかなさいましたか?」
クマエの一言に、自分の口が半開きになっている事に気が付くと同時に、我に返れた。
この世界は、俺の知る世界と違うんだし、現に目の前にいるのだから、そのまま受け入れるしかない。
これから先も“割り切り”が結構重要になってくるのかも……
まぁ、それは、学校に入学したときも、社会人になったときも、色々なカルチャーショックを受けてきたし、それと同じという事にするか。
改めてよく見ると、クマエは鞍も手綱も使っていない。
これは…クマエが凄いのか…この白馬がクマエを慕っているのか…その両方か…
「乗ってみますか、すごくいい子なんです。」
俺が考察をこれから深めようとした矢先に、思いがけないクマエの優しい提案が耳に入った。
「え?」
「動物とのふれあいで、ストレスの緩和や記憶の回復もあるかもしれませんし。」
記憶喪失の改善につなげられてしまうと…その提案…乗らざるを得んじゃん。
やるな、クマエ。
俺は、下馬したクマエに勧められるまま、白馬に近づいてみた。
目つき、悪!
それに、耳もめっちゃ倒れてる。
これ、絶対に、怒ってますよね?
俺の中の動物的勘が、警戒警報を発している。
それでも、クマエの言葉を信じて、さらに距離を詰めた。
ガチンッ!
白馬は、空を噛んで大きな音を立てた。
足がろくに動かない俺は、驚きのあまり上手に飛び退けず、尻餅ついてしまった。
これ以上近づいて見ろ、噛みつくぞ!と言わんばかりだ。
「ダメだこりゃ。とても乗れそうにないね。」
「私が先に乗っていれば乗れるんじゃないでしょうか。」
そう言うと、クマエが再び白馬に跨った。
「さぁ。」
クマエに促されるまま、クマエの後ろに、跨った。
「掴まってくださいね」
「お…おう…」
俺は、躊躇を隠して、言われるがまま、クマエの細い腰に手を回した。
それと同時に、興奮が股間から込み上げて……来ない。
白馬の小さくも力強い唸りが、股の下から、ビリビリと伝わってきたからだ。
なんだか昨日こっちで目が覚めてからというもの、股間に振り回されるなぁ。
そんなことを思いながら、俺は白馬を刺激しないようにゆっくりと下馬した。
「えーっと、あまり気乗りがしないことは、お互いにしない方が良いもんだからさ。俺は俺で見つけるしかないかな、馬。」
「そのようですね…ごめんなさい…」
「気にしないでいいよ。この白馬はクマエが引き続き乗ってね。大きな馬だし…もしかすると、馬車を引いて貰うかも…」
「はい!」
そんな戯れをしていると、向こうから二台の馬車が護衛の騎兵付きで近づいてくるのが見えた。
「あれ…お客さんかな…」
俺が指を差して示すと、クマエが目を凝らして……次の瞬間、何かを察して慌てたクマエに腕を掴まれた。
「ラゴイル様!こちらへ!」
俺はそのまま速やかにログハウスの自室まで連行された。
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