第13話 クマエの御遣い その2

「そのぉ……意識ははっきりしてるけど、記憶が定かではなく、まるで別人のようだとクマエから聞きましたが……」


「はい。その通りです。全く覚えてません。自分が誰なのかも、何故ここにいるのかも、クマエに教えて貰いました。」


「そうですか…それでは、私の事も…」


「すいません、全然わかりません。このログハウスの管理人さんの…すいません、お名前は…」


「ヤマモリと申します。」


ヤマモリ…山盛?…


なんだか朝飯が食べたくなってきたな。


ちょっと悪いけど、飯の支度して!って言いたいところだけど、今は、この世界の事を教えてもらうチャンス!


グッと我慢だ!


「ヤマモリさんは、ここの管理、長いんですか?」


「物心ついたころから、ずっと任されています。」


「それじゃ、学校で勉強とかは……」


「してません。うちは、そんな裕福な家庭ではなかったですから、ここの管理の話が親の耳に入り、すぐに私は連れて来られました。」

「初めのうちは親と管理していましたが、一年ほどで、慣れただろうと任されて…なので、ラゴイル様が記憶を取り戻すきっかけになるようなお話は私には…」


「そうですか……」


という事は、この世界には義務教育なんてものは無く、自分の住む世界のことを学ぶ機会は、ほとんどないということかな。


それに加えて、生れてからここまで、この地を離れた事もなさそうだし……


それでも、俺よりはこの世界の事を知っているだろう!


その後も粘り強く質問を繰り返したが、結局、教えてもらえたことは……


“魔法がある”


“魔物が居る”


この二つだ。


知らないものは、しかたない。世の中、割り切りも重要!


「すいません、くどくどと質問ばかりしてしまって。」


「いえ、大丈夫です。クマエからは話すと記憶が戻るかもしれないから、出来る限りラゴイル様と話をするように言われてましたから。」


「そうでしたか。」


「でも、私の知識自体が不足して、ラゴイル様に満足してもらえるようなお話ができず、申し訳ございませんでした。」


「いえいえ、大丈夫ですよ。ところで……」


「どうかなさいましたか?」


「朝御飯を頂きたいのですが……」


「ございます。恐れ入りますが、そこに掛けて少々お待ちください。」


会話中の管理人は、苦悶しながら必死の表情で回答に集中していたが、明るい表情に変わってキッチンへ向かって行った。

俺も、気持ちを切り替えて、食べて、ストレッチと軽い運動して、クマエの帰りでも待つかな。



キッチンでリハビリ上がりの乾いた喉を潤しながら、身体が馴染んできたことを実感していると、徐々に大きくなる馬の駆けてくる音に気が付いた。


ふと窓に目を向けると、クマエが大きな白馬に乗って帰ってきたのが見えた。


玄関から出てクマエを迎えた。


「おかえり~」


「ただいま戻りました!」


馬上から気持ちの良い返事が返ってきた。

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