第12話 クマエの御遣い
部屋に差し込む柔らかな朝陽の暖かい光に、ゆっくりと目を覚ました。
ゆっくりと体を起こしたが、昨日の様な体の歪は無いように思えた。
耳を澄ませると、僅かなながら、話し声が聞こえる。
部屋を出て、一階に降りていくと、話し声は次第に大きくなった。
クマエと別荘の管理人が相談をしているようだ。
「何度言えば分かるんですか!ラゴイル様は怪我を克服したのだから、正当な次期領主として、城に戻るべきです。」
「だからぁ…まだ本調子じゃないんだろ?…城までの移動もかなりの負担が伴うし…」
「それに、今戻ったって、城内は当然のこと、城外だってきっと敵だらけだ……怪我を克服したって言うけど、まだ独りで歩くのも苦労しているんだろ?」
「それなら……私が駆けあってみます。」
「はぁ。分かったよ。俺の負けだ。」
「では協力して下さるのですね。」
「うーん……」
やば…俺の事なのに…クマエのペースで勝手に話が纏まりかけてる。
ここで割り込まないと、俺はこの不自由な体のまま、何も装備もせずに、敵陣に美人とランデヴー……
刺激が強すぎて、卒倒しそうだな。
今度は助からないかもしれない。
「ちょっと待って下さいっ!」
俺は、出来る限りの大きな声を振り絞って、二人の間に割って入った。
管理人は、大きく目を見開いて俺の顔を凝視した後、クマエに向き直った。
「今…ラゴイル様が言いましたよね?…」
「はい。」
瀕死だった人間の回復に驚いている様子というよりも、言葉遣いの方に衝撃を受けたのかな。
今はそんなことどうでも良い。むしろ……
「城に戻るのだけは、もう少し後にできませんか?」
自分の体がまだ不自由で、独りで生活するくらいになるまで回復やリハビリに集中したいということもある。
でも、それだけじゃない。
城に戻っても歓迎されない事は、目に見えている。
それどころか、血で血を洗うような実力行使が飛び交う権力闘争に巻き込まれるだろう。
だから、この世界の事をもう少し理解するまでは、そっとしておいて欲しい…だたそれだけのことだ…
しかし、俺の思いを意に介さず、クマエの目は力強く、細く綺麗な腕の先は固く握られている。
「まだ、ろくに体も動かせないんですよ!」
「……」
「行かないとは言いません。きっと、ここまで逃げてくるのに、色々な方の協力があったでしょうし、犠牲も伴ったと思いますので……ただ、もう少しだけ待って貰えませんか。」
俺の言葉に続いて管理人も力強く頷いて援護してくれた。
しかし、クマエは使命感に燃えていて、一向に訊く気配が無い。それどころか……
「御安心ください。」
そう言って、自分の胸をポンと叩いて、颯爽と出て行ってしまった。
「ちょっ!」
死の損ないの体から伸びる腕には力が無く、追いかけるための一歩も出ない……
無念……
こうなったら、城に戻る事になることを想定して、それまでの時間を有効活用して、回復に勤しみつつ、この世界の事を把握する事にするか。
「ラゴイル様……」
管理人が話しかけてきた。
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