第11話 シンボリック
そして、最後に取り掛かったのは、股間だ。
つい先日まで仲良くやっていたアレと似ても似つかぬ長く太い“ジョイスティック”……
余りの大きさに、どうやって拭こうか想像ができない。
タオルでしごくように拭くと、手から伝わってくるずっしりとした重さ……
「全身隈なくってことは、やっぱり、これもクマエに拭かれていたんだよな……」
余計なことを考えてしまったせいで、掌にもたげられている巨大ナマコが脈打つのが分かった。
ヤバいヤバい!
落ち着け!
俺は死にぞこない!脱糞血便の死に損ない!後頭部を打って全身不自由の死に損ない!周りは敵だらけの死に損ない!……
ネガティブなことを心の中で繰り返し叫ぶうちことで、何とか聞坊を萎えさせることに成功したが、自分の気持ちまで萎えていくのが分かった。
はぁ…これからどうしよう…
今日はやれることをやり切ったし…ひとまず、部屋の外で待つクマエに片づけを頼んで、寝るか。
まずは、よく動いて、よく食べて、よく寝て、回復、回復~!
「拭き終わりました~!」
ガチャ
俺の声を聴いて速やかにクマエが入室してきた。
「片付けて貰っていいかな。」
「はい。」
「俺は、寝るね。」
「おやすみなさい。」
「はい、おやすみ~」
一礼をしてクマエは出て行った。
長い一日だった……
予想外の出来事と環境と境遇の変化を理解するために頭をフル回転し…死に損ないで錆びついた体のレストアのようなリハビリ…
ベッドに横になると俺は意識を失うように眠ってしまった。
ガチャ……
部屋のドアが開いたような音がした。
「失礼します。」
クマエか?
次の瞬間、掛け布団の端が引っ張られる感じがした。
ん?
一緒に寝ようとしてる?
「あ…れ?…クマエ…ベッド…無いの?」
睡魔に邪魔されて目も開けない俺は、やっとの思いで問いかけた。
「あ…つい…いつも一緒に寝ていたので……」
「え?」
予想外の答えに、睡魔が爆散した。
不意に体を起こして、クマエを見ると、衝撃を受けた。
カーテン越しの薄い星明り照らされた恵体が、目の前にあったからだ。
「ちょーっ!ちょっと待ったぁぁぁー!」
「―――っ!」
「俺っ、記憶喪失でそういうの分からないからっ!!当たり前のようにされても、ちょっと困るから!!」
「あっ…すみません。ごめんなさい…」
クマエはベッドから出て、ばつが悪そうに服を着る。
「ベッドは他にある?」
「隣の部屋にあります。今夜はそちらで寝ます。」
「ごめんね。」
「いえ、何かあったら声をかけてください。おやすみなさい。」
そう言って出て行ったクマエの背中は寂しそうだった……ように見えた。
静寂を取り戻したはずの室内だが、“据え膳食わぬは男の恥”が俺の頭の中でリフレインしていた。
いや!
これでいいんだ!!
クマエが慕っているのはラゴイルだ!
ラゴイルを慕っているから、献身的に介護し、協力してくれている。
しかし、実のところ、今のラゴイルは、俺であって、ラゴイルではない。
別人だ!
そして、いずれは俺がラゴイルではないと伝えるつもりだ。
そのときに、こんなにも健気に尽くしてくれるクマエが傷つくのを見るのは、耐えられそうにない。
でも…一回くらいは…
いや、やめておこう。
最後の最後まで、いろいろあった転生初日だったなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます