第6話 ラゴイル……
気が済むまで自分の新しい体を確認し、服を着たところで、女性にお礼を伝えようと、部屋を出てみた。
女性は、少し離れたところで壁を背に、胸を張って姿勢正しく立って待機している様からは、誇りと気丈さが伝わって来た。
それと同時に、自然と俺の視線は、大きな胸に落ち着いた。
ついさっきの柔らかい感触が忘れられなくてつい見たのではない。
視線の高さが、丁度胸の当たりだったからだ。
自然と視線が行く高さに、大きな胸があるのは、嬉しいようで、トラップだ。
そんなことはさておき、あらためて見ると、随分身長が高くグラマーな女性だなぁ……
「終わりましたか?」
「へ?…あ、はい…」
俺の返事を聞くなり、颯爽と入室してしまった。
慌てて俺も入室した。
「姿見有難うございました。とりあえず、使用を終えましたので、元の場所に戻しておいてください。」
そう声をかけると、女性は、またも怪訝そうな顔をして頷き、姿見を持って退室していった。
これから…この体で…
部屋に一人になった瞬間、押し寄せてきた不安に耐えきれず、どっと疲れが溢れ出てきたのを感じた。
さて、少しふて寝するか。
女性は、無言で部屋に入るなり、ベッドの脇の椅子に腰かけた。
引き続き付き添いをしてくれるようだ。
という事は心配もしてくれているのかな?
しかし、俺の淡い期待を打ち破るような疑いの目でこちらを見ている。
魅入ってしまうほどの綺麗な瞳から伸びる細く冷たい視線は、俺の心を突きさすようなプレッシャーを帯びていた。
ん-…なんか、失礼しましたっけ?こちらと致しましては、怪しいのはそちらですが…
と言いたいところだが、この女性は親身になって看病をしてくれていたようだし……
「本当にラゴイル様ですか?」
部屋に充満する重苦しい沈黙を凝縮した様な質問が直球で飛んできた。
こちらも状況把握できていないから迂闊に答えたくはないんだけど…狸寝入りは出来そうにないな…
「えぇ、多分、そうです。」
知らんけど……
ん-、「おはようございます」から始まっているコミュニケーションのどこで違和感を持ったんだ?
鏡で姿を確認したいと言ったからか……
本人なら、そんなこと言わないもんな。
俺が意識を取り戻す間、この女性が看病していたという事は、目の前の女性の方が状況を理解しているはずだ。
女性は、身長は180くらいか、細い足に細い腕、くびれた腰に不釣り合いな大きな胸、端整な顔立ち、透き通るような白い肌、吸い込まれそうな黒い瞳……
ブランドのファッションショーでキャットウォークするスーパーモデルさんとかですか?
こんな人が居るところに居るんだな~…どうして俺の周りにはこういう人が居なかったんだろう…
じゃない!
白い長そでのワイシャツに、正面に大きなスリットのあるタイトなミニスカート…膝上15cmくらいか。
黒く目の細かい網タイツ…スリットから露骨に見えるガーターベルト…
くーっ、もうちょっと、もうちょっとで、見えそうだ!
じゃない!!
耐性が無さ過ぎて、すぐに自分を見失いそうになってしまう。
落ち着け、俺!
あらためて見ると、OLとはちょっと違うな。
こんなきわどい恰好じゃ、オフィスは大混乱だ!仕事にならん!!
所作からするに、怪しい人じゃないようだが、身近にいなかったタイプだから、信頼していいのか分からない。
自分がラゴイルではないと、素性を話すのも迂闊かもしれないな…記憶喪失という事にして乗り切ってみるか…
「すみません…なんだか色々思い出せなくて…」
それを聞いた女性は、目に涙を浮かべ、再びうなだれてしまった。
ショックで凹んでいる女性には悪いけど、聞き出せる範囲で話を聞くか。
その中で元気を取り戻してくれるかもしれないし。
「すいませんが、私の事を聞かせてくれませんか?思い出せるかもしれませんので。」
「分かりました。私の分かる範囲でお話します。」
「まずは素性からお願いします。」
「はい…あなたは、ラゴイル…ラゴイル・レーゼンです。この地を治めるレーゼン侯爵家の長男で、ご令姉様が1名、ご令弟様が2名、ご令妹様が1名の5人兄弟姉妹です。」
「侯爵の長男!?」
「はい。生まれた時から、次期領主であることは確定していて、ラゴイル様も物心つく前から、領主を自覚するように育てられてきました。」
凄いな。
実のところ俺は、若返っただけじゃなくて、かなりアドバンテージをゲットできたんじゃないか。
あのクソみたいな八方塞がりの人生とも、これを機会に、おさらばだ!
「ですが…ラゴイル様は、その…」
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