第2話 転生直前 その2

「ん-、個人的にはあまり期待してないんですよねぁ。」


「え?なんで?」


「なんか、うちの会社の業績が良いのって、景気が悪くなる直前だって話を聞いたんですよね。」


「そ、そうなの?」


「らしいですよ。だから、業績が良くて、ボーナスを支給されても、気を抜かない方が良いって本社の仲の良い人から聞きましたよ。」


「そんなぁ。」

大角さんは、力無く首をもたげた。


仮に、営業ノルマを達成しても、基本給は上がらない。


なぜなら、うちの会社は、自分よりも年上の中年社員が多く、その大半が肩書も貰えずにいるからだ。


次こそは自分だと待っている。


そもそも、“営業成績の悪い俺”は、いつまで経っても、俺の昇進の見込みは立たない。


安い給料のまま働き続けるのが目に見えている。


気分転換で遊びに行くにしても、遊ぶカネなんて無い。



「テレビとか新聞じゃ、求人が増えて来たとか、時給が上がってるとか言うのに。いっそ転職した方が良いのかしら。」


か細い大角さんの声が耳に入ってきた。


「大角さんは中途でしたもんね。」


「そう、陸田さんがこの営業所に来る前の年からよ」


「え?大角さんって、4年目でしたっけ?」


「どういう意味よ!」


「いや、大角さん、いつもテキパキこなしてるから、10年選手かと思ってました。」


「ちょっとー、そんなこと無いわよ~」



「ただいまー」


「おかえりなさーい」


話の途中だったが、条件反射で大角さんが返事した。


声のする方へ視線を送ると、所長と係長だった。


「下部所長、嵩花係長、一緒だったんですか?」


「いやいや、大角さぁん、急遽、所長に同行して貰って、お客さんとこに行ってきたんだよ。また受注貰っちゃった。下部所長のおかげでさ。これで、今年のノルマはもう達成。凄いでしょ。」


大角さんの質問に嵩華が、近づいて肩を叩きながら返事を返した。


そのまま、嵩華はこちらに視線を送ってきた


「ん-?陸田、お前もう帰って来てたんだ。早かったな。まさか、今日も空振りか?」


「は…はい…」


「おまえさぁ、注文貰ってくる気あるのか?」


「あります……」


「所長、こいつ、今のエリアじゃ受注貰えないみたいなので、エリア広げた方が良いじゃないですか?」


「陸田ぁ、お前さぁ、自分のノルマと、今年の受注額分かってるか?」


「はい……」


「なんでこう違うかなぁ。嵩華君は、ちゃんと受注取ってノルマ達成だというのに……。わかってるか?おまえのノルマ、嵩華君の10分の1だぞ。それなのに……」


「す…すいません…」


「これじゃさぁ、ノルマ設定した俺が悪いみたいじゃん。分かってるのか?俺は、この営業所に課せられたノルマ達成のために居るんだぞ。それなのに、優しい俺は、まだまだ営業経験の浅いお前のことを考えて……マジで年度末までに自分のノルマを何とかしろよ!」


「すいません、所長、俺、ノルマ達成したんで、超えた分は来年に回して付けて貰ってもいいですか?」


「え?嵩華君、そんなこと言っていいの?来年のノルマ、あげちゃうぞー!」


「大丈夫ですよ、所長。俺、ガンガン売りますから!」


「だーっははははっ、いや~、嵩華君は実に頼もしいな~。」


「任せて下さい!」


「それに引き換え、陸田は……」


所長の突き刺すような視線を感じた。


ふと嵩華を見ると、声を押し殺しながら嘲笑っていた。

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