転生しても”はぐれもの”

C-HAWK

転生から旅立ち

第1話 転生直前

「ただいま戻りましたー」


「あら、陸田さん、おかえりなさい。」


声をふり絞って事務所に入ると、事務員さんが振り返って迎えてくれた。


「ただいまです。他の人は?」


「んーっと、6時か……もうすぐ戻ってくるはずよ。」


「そうなんだ。あ、大角さん、これ、帰り道で給油して来たので。」


「了解です。」


営業所に返ってくる道中で立ち寄ったガソリンスタンドのレシートを出した。


大角さんは快く受け取ってくれた。



「ふー」


自分の席に着くなり、自然とため息が出てしまった。


「お疲れ様」


大角さんのねぎらいの言葉が心に沁みた。


「ありがとうございます」


思わず感謝申し上げてしまった。


「ねぇねぇ、陸田さん」


「はい、どうしました?」


「陸田さんって、独身よね」


「ははは、そうですよ。35歳、独身、彼女いない歴18年。」


「そ、そうなの?」


「引かないで下さいよ。もうね、ここまで来ると、ネタとして消化しないと成仏できないですから。」


「そのネタ聞かせてよ。」


大角さんは身を乗り出してきた。


「高校生の時に女の子と付き合ったのが最後ですね。今じゃ、デートの仕方どころか、デートの誘い方さえ忘れちゃいましたよ。」


「そんなことないでしょ~。」


「女の子との楽しい日々なんて、俺には学生時代にしか訪れなかったですよ。社会人になったら、OLとデートするんだーって憧れてたんですけどね~」


「本社勤務になれば、まだチャンスあるんじゃない?」


「何言ってるんですかぁ、うちの本社なんて、昔ながらの工場じゃないですか。男ばっかですよ。」


「えー、陸田君なら本社の管理部門いけるでしょ!あそこなら憧れのOLが居るんじゃない?」


「買い被りすぎですよ。私が管理部門になんて行ける訳ないじゃないですか。」


「そう?」


「今年も、営業ノルマ未達で終わりそうだし……」


「それは、陸田君が“顧客離れ一覧”を回らされているからでしょ~。営業に配属された1年目から取り組んで、今年で……」


「3年目です。」


「もうそんなに経つんだっけ。一度流出したお客さんを取り返して来いだなんて、ハードル高過ぎよ。」


「ははは…はぁ。」


「それに、陸田君、営業の仕方とか所長や係長に教えて貰ってないわよね?」


「え?えぇ、まぁ。っていうか、うちにそんなのあるんですか?」


「多分…無いわね…」



「ちょっと愚痴っていいですか?」


「良いわよ。まだ、誰もいないし」


「生まれ育った土地じゃない、土地勘のないエリアで、離れた顧客に取り付く島なんて…なんなら、迷惑営業だと思われて、門前払いされてばかりですよ。」


「そうよね。」


「いや、門前払いならまだイイ方で…『良く来れたな!いい度胸してるじゃねぇか!』って、身に覚えのない事を説教されることもあるし…通っても聞く耳さえ持ってもらえないですからね…」


「今日は……どうだったの?」


「15軒回って、全て門前払いでした…もう営業じゃなくて、営業車の運転手なんじゃないかと思い掛けてますよ…」


「それは…お疲れ様…でもほら、そろそろボーナス出るころじゃない!ちょっと気分転換に使ってみたら?」

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