第4話

 高い塔がそびえ立ち、明智はそこで一息つき、深呼吸をした。かつてはただ復讐心に突き動かされていた彼も、この街を巡る中で少しずつ心の整理がついてきたのかもしれない。

 彼は大阪の象徴である「通天閣」の方へと歩を進め、ふと振り返る。自分がこれまで生きてきた道のり、そしてこれから進むべき道を、静かに見つめていた。幼少期に見た大阪の風景は変わりつつも、彼の心の奥には変わらない何かが残っていることに気づく。


「俺はまだ、この街で終わるわけにはいかない」と、明智は決意を新たにした。怪物たちとの戦い、家族の復讐、そして自衛隊内の陰謀――すべてが一つに絡み合い、彼をさらに前へと進ませる力になっている。彼の物語は、これからが本当の始まりである。


その視線の先に、どこか懐かしさと危険な香りが漂う大阪の街が広がっていた。


 …**「安倍晴明神社」**に立ち寄った明智は、静かな空気の中で手を合わせ、これまでの出来事や自身の内なる葛藤に思いを馳せた。彼にとって、この場所はかつての平穏を取り戻すための象徴でもあった。


彼が神社の境内を後にすると、冷たい風が一瞬彼の頬を撫でた。大阪の街は相変わらず賑やかで、人々の声や車の音が響き渡っていたが、明智にとってはどこか遠く感じられた。復讐心に囚われた彼は、次第に周囲とのつながりを失い、孤独の中で自分の道を探し続けていた。


その時、彼のスマートフォンが鳴り響いた。画面に表示された名前は、彼の過去に深く関わるものであり、長い間連絡が途絶えていた相手だった。**「加藤正紀」**。


 明智はすぐに電話に出たが、相手の声は不気味な沈黙で始まった。数秒後、加藤の低い声が聞こえてきた。


「お前のことを聞いたよ、明智。まだ俺を追っているのか?」


 その問いに、明智の心は激しく波打った。加藤は、自衛隊の上層部に関与し、明智の家族の事故に絡んでいる可能性のある人物だった。復讐を果たすために、彼の正体を暴き出すことが明智の最終目標だった。


「そうだ、俺はお前を見逃すつもりはない。真実を暴き出すまではな」


加藤の冷たい笑みが電話越しに伝わってくるようだった。


「なら、お前に一つの提案をしてやる。俺と会え。場所は…**大阪城**だ」


 その一言を聞いた明智は、深く息を吸い込んだ。加藤がついに姿を現すということは、全ての決着が近づいていることを意味していた。明智は復讐の時が来たことを悟り、電話を切ると、ただ無言で大阪城に向かって歩き出した。


**大阪城天守閣**の前に立つと、空が赤く染まり始めていた。夕日が沈む中、城の壮麗な姿が影を落とし、街全体が静寂に包まれる瞬間だった。しばらく待つと、遠くから黒い影が近づいてきた。加藤だった。


 彼は以前と変わらず冷酷な表情をしていたが、その瞳にはかすかな緊張が見え隠れしていた。二人の間には深い沈黙が流れたが、次第に明智の中で抑えきれない感情が湧き上がってきた。


「お前は、俺の家族を…」


 明智が言葉を絞り出すように口にしたその時、加藤は静かに頷いた。


「そうだ。だが、その理由を知りたければ、俺を倒すしかない」


 その瞬間、二人の間に緊迫した空気が張り詰めた。明智は、ここで全てを終わらせる覚悟を決めた。彼は加藤に向かって一歩踏み出し、過去の苦しみと怒りを解き放つように拳を握り締めた。


 戦いが始まる。それは、ただの肉体的な戦いではなく、明智が自らの正義と復讐心との間でどの道を選ぶのかを決める瞬間でもあった。


 加藤が冷静に構えると、明智は全力で突進した。闇の中で二人の影がぶつかり合い、大阪城の石垣に彼らの戦いの音がこだました。


 明智が加藤に拳を打ち込んだ瞬間、加藤は素早く身をかわし、鋭い反撃を繰り出した。二人の激闘は、まるで過去の因縁が激しくぶつかり合うように、息つく間もなく続いた。


 だが、突然の銃声が二人の間に割り込んだ。


**「ベレッタM92」**の銃口から立ち昇る煙とともに、加藤の右肩に赤い染みが広がった。驚いた表情を見せた明智の視線の先には、銃を構えた一人の女性が立っていた。


**「お蝶…?」**


 お蝶は、明智の幼少時代に彼の面倒を見ていた女性であり、かつて家族同然の存在だった。だが、彼女もまた加藤の計画に深く関わっていたという事実を明智は知っていた。その視線には、複雑な感情が交錯していた。


「遅くなってごめんね、明智君」お蝶は静かに言い、加藤を見下ろす。「でも、もうこれで全て終わりにしましょう」


 加藤は苦痛に顔を歪めながらも、薄く笑った。「まだ終わりじゃないさ…」


 その言葉の裏には、さらなる計画があることを示していた。だが、明智はそれを許さなかった。彼は加藤に歩み寄り、最後の問いをぶつけた。「なぜ、俺の家族を…?」


 加藤は傷口を押さえながら、かすかに笑みを浮かべた。「全ては…ハインリッヒ・イザークの手によるものだ」


**「ハインリッヒ・イザーク?」**明智はその名に聞き覚えがあった。彼は16世紀の作曲家だが、加藤が語るイザークとは、かつて秘密結社のリーダーであり、暗躍していた異端の賢者だとされる人物だった。明智は、その名がいまだに影響力を持つことに驚いた。


「イザークの計画が今も進行している。お前がその中心にいることを…お前自身、気づいていないだろうがな」


 明智は加藤の言葉に困惑しながらも、その場を去る決意を固めた。だが、突然、加藤の背後から新たな影が現れた。彼は鋭い目つきで明智とお蝶を睨みつけた。


「ステワ・ルトゥ…**《ブータンの水中吸血鬼》**…」明智が低くつぶやいた。


ステワ・ルトゥは、伝説の吸血鬼であり、加藤が操っていた最後の刺客だった。彼はブータンの深い湖で育ち、人々の血を吸うことで力を得るという。


 お蝶がベレッタを再び構えたその時、ルトゥが素早く水中から飛び出し、二人に向かって突進してきた。明智とお蝶は息を合わせ、互いに攻撃を仕掛けたが、ルトゥは驚異的なスピードでかわし続けた。激しい戦闘の中、ルトゥが明智に一撃を加えようとしたその瞬間、明智は咄嗟に脇にあった石像を盾にし、反撃のチャンスを掴んだ。


 戦いが続く中、明智のスマートフォンが突然鳴り響いた。画面には「伊丹空港」の名が表示されていた。彼は一瞬、戦いから目を離し、電話に出た。


「伊丹空港で…彼が待っている。逃げるなら今だ」


 電話の声は短く冷静だったが、その内容は明智に新たな指示を与えた。明智は戦いを続けるべきか、あるいは空港に向かうべきかを一瞬で判断しなければならなかった。


「お蝶、ここは任せる。俺は先に行く」

 明智はお蝶に告げ、背後を気にせず走り出した。


**伊丹空港に着いた明智は、出発ロビーで一人の男を見つけた。彼の名は**レシレヌーゼ**、イタリアのポジターノにあるホテルのオーナーであり、裏社会とも深いつながりを持っていた。彼は落ち着いた表情で明智に近づき、微笑んだ。


「よく来たな、明智」


 レシレヌーゼは加藤に関わるすべての真相を知っている人物だった。


 明智はレシレヌーゼをじっと見据えた。ポジターノのホテルのオーナーである彼が、なぜ日本の伊丹空港で待っていたのか、そしてどうして加藤やハインリッヒ・イザークとの関係があるのか、そのすべてが謎に包まれていた。


**「何を知っている?」**明智は険しい口調で問い詰めた。


 レシレヌーゼは微笑みを浮かべたまま、周囲を見渡した。「ここで話すべきことじゃない。さあ、場所を変えよう」彼は振り返り、VIPラウンジの方向へ歩き出した。


 明智は一瞬ためらったが、レシレヌーゼの後を追った。彼の直感は、ここに全ての答えがあると告げていた。


 ラウンジに入ると、他の客は誰もおらず、貸し切り状態だった。レシレヌーゼがソファに腰掛けると、明智も向かいに座った。


**「加藤が言っていたこと…ハインリッヒ・イザークの名、それは一体何を意味しているんだ?」**明智は再び質問した。


 レシレヌーゼは静かに頷き、目を閉じた。「イザークは単なる音楽家ではない。彼は、数世紀にわたって暗躍してきたある組織の創設者だ。その組織は『**聖なる血の結社**』と呼ばれ、古代の吸血鬼や闇の力を利用して、不老不死を追求してきた」


 明智はその言葉に驚愕した。加藤が追い求めていたものが、単なる個人的な野望ではなく、はるかに大きな陰謀に繋がっていたことを理解したのだ。


「そして、その計画が今、現代に蘇ろうとしているのさ」レシレヌーゼは続けた。「君の家族も、その計画に巻き込まれた。加藤はその鍵を握っていた」


**「家族が…?」**明智の目が鋭くなった。


 レシレヌーゼは頷き、ポケットから一枚の古びた手紙を取り出した。「これを見ろ。君の父親からだ」


 明智は手紙を受け取り、震える手でそれを開いた。そこには、彼の父親の筆跡で短いメッセージが書かれていた。


**「イザークの秘密を追うな。お前がその影に触れるとき、すべてが終わる」**


 明智は衝撃を受け、手紙を握りしめた。父親が何かを知っていたのは明らかだ。しかし、それを追うなという忠告を今となって無視することはできなかった。


**「君は選ばれし者なんだ、明智」**レシレヌーゼが言った。「加藤やイザークは、君が彼らの計画の中心にいることを知っていた。だからこそ、君を狙ったんだ」


 明智は深く息を吸い込み、冷静さを取り戻そうとした。だが、全ての謎が解けたわけではない。加藤はまだ生きている。そして、ステワ・ルトゥのような怪物が暗躍している。


**「どうすれば、この狂気を止められる?」**明智は問いかけた。


レシレヌーゼは立ち上がり、窓の外を見ながら静かに言った。「答えはポジターノにある。そこには、イザークが遺した最後の手がかりが隠されている。君がそこに行けば、全てが明らかになるだろう。」


明智はしばらく考え込んだ後、決意を固めた。日本での追跡はここで一区切りを迎えたが、真実はイタリアのポジターノにある。彼は立ち上がり、レシレヌーゼに向かって頷いた。


「次はポジターノだな。」


**「そうだ。」** レシレヌーゼは微笑みを浮かべたまま答えた。「だが気をつけろ、君の敵はまだそこに待ち構えている。そして、イザークの影は長い。」


明智は伊丹空港を出て、次なる目的地、ポジターノへ向かう手続きをしながら、頭の中で手がかりを整理していた。レシレヌーゼから聞いたイザークの陰謀、家族のこと、そして今も影で動いている何者かの存在。彼の心の奥で一つの名前が浮かんだ。


**「ジョン・ダウランド…」**


その名は、歴史の中で消え去った古典的な音楽家だと思われていたが、イザークとの関連があるとすれば、彼の音楽に隠された何かが鍵となるのかもしれない。明智はそのことを念頭に置きつつ、吉野寿司で夕食をとるため、川口新田へ向かった。腹ごしらえが必要だったが、それ以上に、この地に重要な手がかりが隠されているという直感があった。


店内は昔ながらの風情を残した佇まいで、時間がゆっくりと流れているかのようだった。明智は一見普通の寿司屋に思えたが、店内の飾り物や置物に注意深く目を走らせた。何かが違う…この店にはただならぬ空気が漂っている。


カウンターに座ると、年配の女性が近づいてきた。彼女は静かに微笑みながら、メニューを差し出す。名前は聞かなくても分かった——**小山田静子**。彼女がこの店を切り盛りしているらしいが、普通の店主ではないという感覚が明智に広がる。


**「何をお探しですか?」**静子が静かに問いかけた。


明智は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐにその問いの裏に何かを感じ取った。彼女はただ寿司を提供しているだけではない、何かを知っているのだ。


**「ジョン・ダウランドについて何かご存じですか?」**明智はあえてストレートに切り込んだ。


静子は一瞬、動きを止めたが、すぐに柔らかい微笑みを浮かべたまま、寿司を握り始めた。


**「あの音楽家のことね…面白い話だわ。彼の音楽はただの旋律ではない。彼の曲には古い魔術的な力が込められていると言われているの。」**


明智は静子の言葉に引き込まれた。「その力とは?」


**「魂を操る力よ。彼の音楽を通じて、聴く者を自分の意のままに操ることができる。ハインリッヒ・イザークはその技術を盗んで、さらに闇の力と結びつけたと言われているわ。」**


突然、店のドアが開き、一人の男が入ってきた。その背には独角竜のタトゥーが彫られ、重々しい足取りでカウンターに近づく。静子は一瞬の間、動揺したように見えたが、すぐに冷静さを取り戻した。


明智は警戒を強め、視線をその男に向けた。男は重たい声で言った。


**「イザークの影を追っていると聞いたが、ここで手を引け。さもないと、お前の人生は終わる。」**


明智は立ち上がり、コートの内側に手を入れ、冷たい感触のトカレフを握った。だが、銃を抜くことはしなかった。目の前の男の雰囲気が異様だった。彼はただの脅しではなく、何か得体の知れない力を持っている。


**「お前は誰だ?」**明智は鋭く問いかけた。


男は一瞬口元を歪ませて笑い、答えた。


**「俺はポルトガルから来た。ギマランイスの修道院ホテルで、ある人物に仕えるものだ。その人物は、お前がすべてを知る前に消し去れと命じた。」**


静子は男の言葉を遮るように言った。「ここは日本よ。あなたのやり方は通じないわ。」


明智はすかさず問いかけた。「その人物というのは、イザークか?」


男は答えず、ただ明智を睨みつけ、静かに手を伸ばした。しかし、その瞬間、静子が何かを投げつけた。それは、小さな刃物のようなものだった。男の腕に深く刺さり、彼は苦痛の声をあげた。


**「急げ、明智さん。ここにはもう長くいられないわ。」**


静子の促しに従い、明智は店を飛び出した。彼の頭の中には、ギマランイス、ジョン・ダウランド、そしてイザークという断片が絡まり合い、ひとつの絵を描き始めていた。


次の目的地はポルトガルだ。だが、その前に、彼にはまだ日本で解決すべき問題が残されている。

 

 激しい戦場の夜。轟音が大地を揺るがす中、最新鋭の兵器たちが次々と投入されていた。空を切り裂くように飛行するのは、「ブラッカーボンバード」。一撃必殺の戦闘機としてその名を轟かせるこの機体は、敵機の防御を無効化し、闇夜の中を静かに忍び寄り、狙った標的を確実に撃ち抜く。そしてその後方からは「プテロダクティルマーク1」が続き、無数の小型爆弾を投下する。上空では、強力な「レーザー衛星ポリウス」が敵のレーダーを無力化し、戦況を一方的に支配していた。


 海中では、「強襲揚陸潜水艦」が静かに敵の海域に侵入していた。この潜水艦は、その巨大なテラドリルで海底を掘り進み、奇襲をかけることができる。サイレンが鳴り響く中、特殊部隊が敵基地を制圧し、次のステージへ進む準備が整う。


 地上では、「MAR-290戦車」が地を這い、砲塔を回転させながら強烈な砲撃を繰り出している。敵部隊が接近すると、「76番特殊焼夷手榴弾」が次々と投下され、爆風とともに燃え上がる炎が敵の陣地を飲み込む。さらに「ナグマホン・ドッグハウス」と呼ばれるイスラエル製の兵員輸送車が敵陣に突入する。偽の機関銃が無数に突き出ており、そのとげとげの外観が敵兵の恐怖心を煽る。実際の兵器は隠されており、不意をついた攻撃が繰り出される。


 敵の最後の砦に対しては、「キメラ戦闘機」が超音速で飛来し、「セスナ337Gガンシップ」が低空を飛びながら機関砲で一掃する。空中に漂う「空中機雷」と「地雷犬」が敵の逃げ道を塞ぎ、圧倒的な火力で制圧作戦は成功するかに見えた。しかし、静かに忍び寄る敵の「USSベスビオス」が現れる。この奇妙な艦は炸裂音しか発しないものの、その爆音が戦場を撹乱し、味方の通信が次々と遮断されていく。


 勝敗の行方が不透明になる中、「迫撃ライフル」を持った特殊部隊が新たな展開を切り開くべく、最前線に投入される。そして、最後の希望となる「アセンブリーシップ」が到着。この飛行船は即座に移動式基地を展開し、兵器を組み立てながら戦場に新たな戦力を供給することができる。


 戦局は依然として不確定だが、すべての兵器がその力を存分に発揮し、最終決戦へと向かっていた。

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黒い旋律 鷹山トシキ @1982

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