第2話 魔軍

魔王ギンヌンガァプ「さぁーて、今回もまた天界(トゥルクテイア)を攻めるかねぇ」

漆黒の豪奢な玉座に座すのは漆黒の男だった。若々しい美貌の、赤い山羊の角と赤い瞳を持つこの男こそが魔王ギンヌンガァプ、その666回目の転生体。ヘヴィメタルのバンドマンを思わせる黒いエナメル地のジャケットとパンツ、ジャケットの下にはシャツやインナーをつけず、むき出しの大胸筋や腹筋は逞しくも均整が取れて美しい。邪悪だが美しく、明らかに別格のカリスマがあった。

オーク元帥トゥクタミシュ「魔王様の手を煩わせるまでもありません! 我ら魔軍の精鋭が天界を蹂躙し、あのニンマハめの首に縄をかけて御覧に入れましょう!」

魔王の言葉にそう応じたのはオーク元帥トゥクタミシュ。ブタ鼻に緑色のでっぷりとした肌、屈強な体躯。美しさなど皆無だが、さすが元帥だけあって威風は凛凛としている。かつて女神タマシラを倒し、子を産ませたオーク元帥は次の戦でも新たな女神を凌辱すると意気軒高だった。

剛腕将軍オード「そうはいかんぞ、トゥクタミシュ! 次に女神をとらえるのはこのワシじゃ! 貴様にばかりうまい汁を吸わせてなるものか!」

トゥクタミシュにかみついたのは毛むくじゃらの大白猿、剛腕元帥オード。魔軍最強の腕力を誇り、魔獣兵団を指揮する獣の王でもある。魔軍の古参であり、貴族出身の老爺だが、老いてなお盛んなのは武威だけではなく性欲においてもだ。

闇王グウィシール「私は光の領域に入れませんのでね。かわりに、わが忠実なる僕、司祭ゲオルギウス。お前に死人騎士団を任せます」

闇司祭ゲオルギウス「は、謹んで拝領いたします、グウィシール様」

闇王グウィシールは霧の身体をローブに包んだ骸骨だけの存在であり、本来魔界の産ではなく死獄からの出向者である。小柄な才槌頭の老司祭ゲオルギウスは人間としてナルディア国で枢機卿にまで上り詰めた男だが、人身売買の咎で位を剥奪され、国を追われ、魔界に流れてグウィシールの右腕となった。

帝竜ギースリ「ま、俺とイハズヤが先んじて蹂躙すれば、天界の堅牢といえども……」

蠅王イハズヤ「グッグブッ……そ、ソノ、通リ……踏みニジる、犯ス、ゴルダーフィード……」

巨大な赤竜ギースリは魔界の竜族の王。その爪牙の鋭さと吐く炎熱の吐息は強烈だが、彼の何よりの強さは魔軍最強の防御力、最強硬度の竜鱗にある。蠅王イハズヤは言葉遣いこそたどたどしいが魔術の王を謳われるほどの魔術巧者。一度に複数の魔術を同時詠唱可能な魔王以外唯一の個体であり、空中から強烈な魔法を乱射するさまは戦術爆撃機といってもいいほどの破壊力を誇る。そしてイハズヤは虚偽の女神ゴルダーフィードに執心だった。

丞相曹国舅「やめておけ、ギースリ、イハズヤ。巨体のお前たちでは天界の砲撃機構のいい的になるわ。まずは砲撃機構を黙らせんとな」

白髭の仙人然とした老人は魔軍丞相・曹国舅。魔界の政務一切を取り仕切る剛腕宰相であり、魔力・権勢ともに魔王に次ぐ、自他ともに認める魔軍のナンバー2。

ギースリ「ぬうぅ……」

魔王「ま、腐んなよ、ギースリ、イハズヤ。おめーらには後で見せ場を用意すっからよ」

イハズヤ「魔王様ガ、そう仰ルナラ……」

魔王「んじゃ、天界東平原をオードの獣王軍団、南神門にゲオルギウスの死人騎士団、西門にオードのオーク兵団だ。ばっちりやっちゃってくれや!」

トゥクタミシュ「は!」

オード「魔王様に弥栄(いやさか)あれ!」


天界トゥルクテイア、神門内部コントロールセンター。

オペレーター天使「魔軍侵攻! 大軍が三方から攻め寄せてきます!」

ニンマハ「来ましたね……。ここで敗北の選択肢はありません! みなさん、全力を尽くして魔軍を討ち退けます!」

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