第三話(デュセイ・2)

■ デュセイ・2 ■




嫌だ嫌だと思うと、ますます嫌になるものらしい。

最近、婚約者のラシェルの顔を見るのも嫌になった。


朝、学園の寄宿舎から学校へ向かう道。ラシェルと会わないように、時間帯をずらす。

昼、学園の食堂やカフェでラシェルと会わないように、売店で軽食を買って、それを持って中庭で食べる。

授業後も、そうだ。

とにかく、俺は彼女を避けた。


とは言え、全く出会わないと言うわけではない。教室移動の際などに、運悪くラシェルに出会ってしまうこともあった。


「ごきげんよう、デュセイ様」

「…………ああ」


数週間ぶりに会ったラシェル。……気のせいか、単なる地味女、と思っていたのが、どことなく……不細工になった気がした。


「よろしければランチでもご一緒致しませんか?」


しばらく会っていなかったことを気にもしないで、そんなふうに誘ってくる。

俺は、それに答えずに、ラシェルの顔を睨む。

「……お前の、その顔は何だ?」


不細工になったと思ったのは、どうやら間違いでなかったらしい。鼻を中心に小さなシミが散らばるように現れていた。

ラシェルは、そっと視線を逸らす。


「……少々街歩きをしましたら、日に焼けてしまったようで。お恥ずかしいことに、そばかすが濃くなってしまいまして……」


恥ずかしそうにラシェルが俯いた。


「化粧で隠そうとは思わないのか?」

「これでも白粉は、少々……。まあ、幼いころからできていましたので、完全に消すことはできず……」


悲しそうな、恥じらうような……消えそうなほどの小声。

だけど、その声に、同情するのではなく……嫌悪感はますます強くなった。


「それが消えるまで、あまり傍に来ないでくれないか?」

「え?」

「みっともないし、そんな君が俺の側にいられると……正直、恥ずかしいんだよ」


ラシェルからの返事は無かった。彼女はただ恥じるように、深く俯くだけだった。


そのまま黙ったままの俺と、俯いたまま微動だにしないラシェル。

二人でずっと立ち尽くしていれば、俺達を見て、名前も知らない生徒たちがひそひそと何事かを呟いている。


さっさと立ち去るべきか、と考えたところで、ラシェルが小さく震え出した。ぎゅっと強く、制服のスカートを握りしめる。ぽたり……と、ひと粒。ラシェルの足元に涙が落ちた。


「ちょ、ちょっと何してるんだよデュセイっ!」


バタバタと足音を響かせて、クロードたちがやって来た。

その声と足音に、ラシェルが一瞬顔を上げ、そして、また俯いた。


「クロードに……ジョージ、」

「うわっ! ラシェル嬢泣いてんの⁉ おい、デュセイ、お前最近、自分の婚約者に対する態度、なってないんじゃないのか?」


ジョージに言われて、思わずかっとした。

……ああ、良いよな。お前たちは綺麗で可愛い婚約者がいて。

俺にはこんな不細工しかいないっていうのに。


「うるさいっ! 黙れよっ!」


怒鳴って、その場を走り去る。


俺は悪くない。不細工なラシェルが悪いんだっ!



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