第54話 共犯者
俺は大して時間をかけずに、目標の人物を見つけた。
古びたコートを身にまとい、引き締まった体格に長身、そして鷹のように鋭い目を持つ男。検察官、ジェティスだ。
若き検察官は、壁に体を軽く預けるように立ち、一方の手をポケットに突っ込んでいる。俺の姿を見つけると、彼は口に咥えていたタバコを吐き捨て、鋭い目つきで俺を睨みつけた。
俺たちがアンゴリカの拠点を潰してから、わずか二時間足らず。もう現れるとは相変わらずだ。この国では珍しいほどの鋭敏な嗅覚を持っている。いつも連れ添っているあの女の姿はないが、きっとどこかで隠れて監視しているのだろう。
ジェティスの視線を正面から受け止め、俺は胸を張り、大股で彼の方へ歩み寄った。そして、同じように壁に体を預けると、新しいタバコに火をつけた。
「お前たちはやり過ぎだ。」
ジェティスは開口一番、そう言い放った。しかし、俺はすぐに返事をすることはせず、ただ煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
「攻撃を仕掛ける頻度があまりにも高すぎる。アンゴリカファミリーの幹部『コウモリ』を殺したのがまだ一週間も経たないのに、今度はまだ奴らの物流拠点を襲撃だと?正気か?この街を火の海にしたいのか?」
「違うだろう、検察官殿。」
「……何?」
「コウモリがあのような目に遭ったのは、不幸な『事故』だ。例えば、道を歩いていたら突然トラックが突っ込んでくるとか、雷が落ちてくるとか、あるいは隕石が空から降ってくるとか。そんな、偶然が重なった結果の、原因を問うべきではない事故ってやつだよ。」
俺は視線をわずかに傍らの検察官に向けた。
「俺たち二人で、そう決めたんじゃなかったか?」
「ふざけるな、お前たちは……」
「ふざけてるのはそっちだろう、検察官殿。俺たちが事故だと言えば、それは事故だ。なぜなら、俺たちの取り決めはそういうものだったろう。俺はアンゴリカファミリーを狙い、その勢力を削ぐ。そして、お前はタイミングよく現れて後始末をする。情報と首は俺たちのもの、功績と犯罪の証拠はお前のもの。公平で、双方に利益があるウィンウィンの取引じゃないか。既にその旨みを味わったんだ、今さら手を引けるなんて思うなよ。」
「……俺は言ったはずだ。暴力で暴力を制するのは間違いだと。」
「ハッ。いい子ぶるのも大概にしろ。」
俺は鼻で笑った。
「もし本当にそう思うなら、武装を解除し、アンゴリカファミリーの本部に直接乗り込んで、『黒蛇』にその高尚なご意見をぶつけてみたらどうだ?今までの付き合いもあるし、そのときは俺がせめて綺麗に遺体を拾ってやるよ。」
俺は煙を一息吐き出し、灰を軽く叩き落とした。
「お前は自分で思っているより、俺たちに近い存在だ、検察官殿。その目を見れば分かる。目的のためなら手段を選ばない、そんな目だ。そうじゃなければ、俺たちがこんなにも長い間、お前の目の前で好き勝手やれるわけがない。」
「……」
「もっと自分に正直になれ。お前の本質はオオカミだ。犬なんかじゃない。いつかきっと、その偽善者の仮面を引っぺがす時が来る。」
「……お前が俺の何を知っているというんだ?バイオス・トリニティ。」
「お前が思っている以上に、だ。お前自身よりもな、ジェティス。」
沈黙が流れた。
しばらくして、ジェティスは溜息をつき、ポケットからタバコを探り出して荒々しく火を点けた。
「……アンゴリカファミリーはこの国を掌握している。」
「ああ、そんなことは最初から知っている。」
「奴らの資金源は、高品質な麻薬取引と密輸した人間の売買だ。その稼いだ金は、部下の勧誘や武装の強化に使われるだけでなく、政治界の要人たちへの賄賂にも多く使われている。お前たちが今、奴らの集荷拠点を次々と潰しているのは、大物たちの金の流れを断ち切っているのと同じだ。お前たちが敵に回している相手は、黒蛇一人に留まらない。」
「分かっている。」
「分かっていない。」
ジェティスの目が細められる。
「噂では、アンゴリカファミリーの後にはある組織が支援している、と。その力は、お前や俺が想像できる規模を超えている。既にその手は政府内部にまで及んでおり、アンゴリカファミリーはその一部に過ぎない。お前の行動は、正体を知らない黒幕に対する挑発行為そのものだ――」
「――いや。その黒幕なら、俺はよく知っている。」
「……」
「説教はその辺で終わりにしろ。そいつらがどれほど危険で、どれほど狂っているかなんて言われなくても分かっている。さっきの言葉をそのまま返してやるよ、ジェティス。お前は俺の何を知っている?」
「バイオス・トリニティ。お前は……」
「くだらない雑談はここまでだ。本題に入ろう。」
若い検察官が俺の横顔をじっと見つめているのは感じていたが、特に気にせず口を閉じたままでいた。しばらくして、男は再び溜息をつき、一袋の封筒を俺に差し出した。
「これは?」
「情報屋から手に入れた、『荷物』に関する情報だ。」
「ほう?」
「多分、もうその情報屋は使えない。」
「なぜ?」
「……その情報を俺に渡した翌日、舌を引き抜かれ、街灯に吊るされていた。お前たちが挑発している相手は想像以上に危険だ。慎重に動け、バイオス・トリニティ。」
封筒を開けると、中にはぼやけた写真と簡素なルートマップが入っていた。写真には棺桶ほどの大きさのコンテナがトラックに積み込まれる様子が写っており、その周囲を銃を持った男たちが厳重に守っている。ルートマップには赤い線で経路が示され、各コーナーにおおよその時間が書かれている。
「信憑性は?」
「不明だ。その情報屋が殺された後、他の連中は全員口を閉ざしてしまった。だから証言を照らし合わせることができない。」
「そうか。とりあえず、預かっておく。その拠点で押収した麻薬はお前のものだ。」
「……子どもたちは?お前たちは彼らをどうするつもりだ?」
「それはお前には関係のない話だ。仮にお前に渡したところで、お前には彼らを養う能力はないだろう。結局、彼らはまた街に放り出され、再び捕まるだけだ。次は無事で済む保証はない。」
「……そうだな。今の俺はまだ力不足だ。奴らをお前に任せる方が、良い選択かもしれないな。」
検察官は自分の手のひらをじっと見つめていた。
「やるべきことが多すぎるのに、この手はあまりにも小さい。細かいものを落とさないようにすれば、肝心なものを掴むことができない。果たして、多数のために少数を切り捨てる行為は、正義と呼べるのだろうか。」
「知るか。」
俺は鼻で笑った。
「こんなこと、俺に聞くのは筋違いだろう。」
壁から離れ、俺は検察官に背を向けた。
「じゃあな、検察官殿。」
「動くか?」
「ああ。やるべきことも山ほどある。雑談はこれで終わりだ。」
「そうか。じゃあ、追加のアドバイスとして少し教えておこう。アンゴリカファミリーを狙っているのはお前だけじゃない。夜の街を彷徨く殺人鬼にも気をつけろ。」
「殺人鬼?」
「ああ。出自も姿も目的も分からない。愉快犯の可能性も否定できないが、残されるのは悲惨な姿の死体ばかりだ。被害者はすべてアンゴリカファミリーの連中だが、お前たちが鉢合わせする可能性もある。用心するんだな。」
「わかった。」
「……バイオス・トリニティ。」
「何だ?」
「――いや、何でもない。気を付けろ。」
「ふん。お前こそ。」
タバコの吸い殻を捨て、自分の仲間たちの元へ向かいながら、俺はさっき受け取った情報を頭の中で吟味し始めた。
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